【生体材料学】
細胞培養
がんアバターが医療を変える!
その人に合った薬を探すため、がん細胞を体外培養
松崎典弥先生
大阪大学
工学部 応用自然科学科(工学研究科 応用化学専攻)
坂の上の雲
司馬遼太郎(文春文庫)
司馬遼太郎は、「古書店街から歴史書が消える」という伝説が残っているほど、膨大な資料を読み解き、数年以上の下調べをすることで、史実の裏付けがある綿密なディテールと圧倒的な臨場感のある作品を創作します。
これは、研究活動にも共通することです。研究分野の歴史的背景、技術や社会ニーズの変遷を綿密に調べることで、本当に重要な研究、社会が必要としている科学技術を明確にし、研究開発につなげることができます。ぜひ、司馬遼太郎の作品を読んで、事実に裏付けられた論理的な文章の作り方を体感してください。
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その人に合った薬を探すため、がん細胞を体外培養
がんは、人によって症状が異なり、治療が難しい
日本人の死因の第一位は、過去40年間ずっと“がん(悪性新生物)”です。それはなぜでしょうか。
がんは他の病気と異なり、“不均一性”という大きな特徴を有しています。普通の病気の症状は人によらずほぼ同じなので、同じ薬が効きます(メーカーによって名前は違いますが、主成分や効果はだいたい同じです)。
ところが、“がん”は、名前は同じであっても(例えば、大腸がん、肺がん、乳がんなど)、人によって性質(症状)が大きく異なります。極端な言い方をすると“違う病気?”と思うぐらい異なります。
さらに、一人の患者にあるがんの塊にいるがん細胞一つ一つの性質も異なります。同じ名前のがんであっても、患者間、さらには細胞間で性質が異なるため、治療が難しいのです。
がん細胞を培養し、最適な薬か確かめたい
そこで、現在期待されているのが、患者一人一人のがんに最適な薬を提供する“個別化医療”です。遺伝子診断によって患者一人一人の遺伝子異常を調べることで、患者に効きそうな薬を判断できるようになってきました。
しかし、まだまだ完全ではありません。本当に最適な薬を選ぶためには、患者のがん細胞を体の外で増やして薬の効果を調べる必要があります。ところが、がん細胞は体の外では増えにくく、また性質が変化しやすいという大きな課題があります。
現在最も有効な手法は、免疫不全マウスという特殊なマウスの体内で増やす方法ですが、この方法でも難しいがん細胞がたくさんあります。また、実験動物を削減することもとても大切です。
「居心地の良いベッド」を再現し、分身を増やす
私は、がんの周囲の環境を体の外で再現することで、免疫不全マウスを使わずにがん細胞を増やす方法を研究しています。がん細胞にとって居心地の良いベッドを作ってあげることで、がん細胞が体の中と同じように増えるのではないかと考えました。つまり、「がんのアバター(分身)を作る」ということです。
現在、がん周囲の硬さやタンパク質の量、血管など、物理化学的または生物学的因子を再現することで、今まで増やすことができなかったがん細胞を増やせるようになってきました。
これが実現できれば、患者一人一人のがん細胞を体の外でたくさん増やし、最もよく効く薬を短時間で探すことができるようになります。がんを他の病気と同じく“治療できる病気”にすることが目標です。
3次元組織を作るためのバ
がんを治療可能な病気にすることで健康的な生活を確保する。
◆テーマとこう出会った
大学の研究室で細胞培養を勉強した時、プラスチックの培養皿の上で細胞を培養すると教わりました。それが今でも世界の常識ですが、人間の常識が細胞にとっては「非常識」であり、良くないことがわかってきています。それまでの常識を見直すことで新しい発見が生れることに興味を持ち、研究を始めました。
学内のテラスにて、研究室メンバーと共に