【薬理系薬学】
自律神経
脳と臓器の連動に着目し、「病は気から」に切り込む
佐々木拓哉先生
東京大学
薬学部 薬科学科(薬学系研究科 薬科学専攻)
脳と臓器の連動に着目し、「病は気から」に切り込む
臓器同士の協調は未解明
医学・生理学の教科書や授業では、脳や心臓、肝臓というように、それぞれの臓器に分けて、体の機能や細胞の働きが教えられます。
しかし、臓器は独立したものではなく、神経系やホルモンを媒介して、他の臓器とも協調して働きます。このような「多臓器連携」はほとんど解明されておらず、研究が必要な分野です。
自律神経の電気信号を記録する方法を世界初開発
私たちは、それぞれの臓器をつなぐ配線のような役割を持つ自律神経に着目しており、最近は、新しい小さな電極を作り、マウスが新しい運動をしたり、不安を感じたり、エサを食べている時に、自律神経を流れる電気信号を記録する方法を世界で初めて開発しました。
また、細い神経に巻き付けられるような光ファイバーも開発しました。このような実験器具は、細かいプラスチック部品の造形が必要ですが、このために最近進歩した3Dプリンターが活躍しています。
私たちの研究は、最新の工学的な技術を取り入れることで、医学生物学の研究が進む典型例と言えます。
精神的に落ち込むと風邪をひきやすくなるのは
現在は、特に脳から自律神経を伝わって腸や免疫システムに送られる信号に注目しています。
例えば、私たちは精神的に落ち込むだけで、お腹が痛くなったり、風邪を引きやすくなること(免疫機能の低下)があります。いわゆる「病は気から」という現象ですが、このような生体のメカニズムはほとんど知られていません。
私たちの新しい技術で、こうした多臓器連携の改善や破綻の実態を正しく証明していきたいと考えています。
実験風景。ラットに電極を取り付けて、脳波や心電図など身体の様々な信号を記録しています。実験者は右のコンピュータ画面に映し出された信号を解析しています。
多くの病気は、精神的な要因が少なからず関係しています。精神活動は個々人の経験や性格、ストレスによるものなので、いかに精神衛生状態を改善させるかが重要です。
このようなアイデアは、私たちは経験的あるいは直感的に感じていますが、まだまだ科学的な根拠が不足しています。正しい知識が世界の人々に普及し、前向きな精神状態を保つことを皆が心がければ、それが人々の健康的な生活にもつながると期待しています。
◆テーマとこう出会った
大学生の頃から脳に興味があり、もともとは脳だけに注目して研究していました。しかし、私たちの誰もが経験しているように、精神的に落ち込んだり、ストレスを受け続けると、体中に様々な不調が生じます。これは、本来は脳が原因ですので、脳から体中に流れる信号の実態を知らなければ、正しい理解はできないはずです。
そこで、私の行ってきた脳研究の知識が、こうした生理現象の研究にも生かせないかと考え、脳だけでなく、自律神経や免疫系を同時に調べることにしました。私の場合、このような身近な問題意識から、本研究テーマを設定しており、日常で起こる身体の反応すべてが研究のヒントになっています。
◆中高時代は
中学では野球、高校ではハンドボールをしていました。上手ではありませんでしたが、手を抜かずに取り組んでいたと思います。私の場合は部活動でしたが、それに限らずどのような活動でも、勉強以外に真剣に取り組めるものがあると、将来の自分の仕事も手を抜かずに打ち込めるのだと思います。
◆出身高校は?
岩手県立一関第一高校
学会シンポジウムでの発表風景。研究者たちに多数の臓器の連携に着目した研究の必要性を話しています。
薬学は、物理・化学・生物のすべての知識が必要な分野なので、大学に入ってからもきちんと勉強をすることが必須です。大学の講義は非常にレベルが高く、単なる教科書の読み合わせではなく、常に最先端の知識や技術、研究動向を教えています。また、試験でも単純な暗記だけではなく、その場で柔軟に考え、解答に近づいていく過程を大切にしています。
ニュートン式 超図解 最強に面白い!! 人工知能 ディープラーニング編
松尾豊(ニュートンプレス)
人工知能の解説本です。人工知能分野は、進歩が速いですが、この本に限らず、最近の本を読み、何が新しいことなのか追っていく必要があると思います。
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Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
同じです。医学薬学。
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
米国。常に最先端の研究がなされているから。
Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?
『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』
Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?
塾講師。週7日勤務していました。
Q5.研究以外で楽しいことは?
子育て