【気象・海洋物理・陸水学】
天気予報
世界中の観測情報を、もっと活かせる新しい天気予報技術
小槻峻司先生
千葉大学
工学部 総合工学科 情報工学コース(融合理工学府 地球環境科学専攻/環境リモートセンシング研究センター)
暗号解読
サイモン・シン (新潮文庫)
天才・サイモン・シンによる「暗号」にまつわる一冊。ユリウス・カエサルの時代から今に至る、暗号開発と解読の絶え間ない競演を描いています。
旧ナチスのエニグマの解読プロセスは、まさに感動ものです。また、現代でも用いられているRSA暗号についても理解できます。理系学生には、文句なしにお薦め。
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世界中の観測情報を、もっと活かせる新しい天気予報技術
減災には予測など「ソフト対策」が重要
近年、気候変動・地球温暖化の影響と見られる激しい気象変化が世界中で問題となっています。そして台風や極致豪雨などの極端な現象は、時に洪水や斜面崩壊などの自然災害をもたらします。
自然災害の防災・減災には、ハード・ソフト、両面からの対策が必要です。ハードの対策とは、堤防やダムの建設といった、モノによる直接的な対策です。一方のソフト対策とは、災害を予測した上での事前避難など、人間行動による減災です。
現在、限られた予算制約下で災害被害を軽減するために、このソフト対策が非常に重要となっており、私が研究テーマとしている天気予報は、気象関連災害の被害を減らすために、非常に重要な役割を果たしています。
世界中の観測情報で気象を推測する技術
天気予報には、大きく2つの仕組みが必要です。1つは、「天気予報モデル」による数値シミュレーションで、現在の気象状態を元に、未来の天気を予測します。もう1つは「データ同化」と呼ばれる統計数理技術であり、世界中の気象観測情報を収集して、現在の気象状態を推測します。
「天気予報モデル」と「データ同化」は、いわば天気予報の両輪であり、スーパーコンピュータを使った大規模な計算が毎日行われていますが、私はこのうちの「データ同化」を研究しています。(本文最後のYoutube動画※も参照して下さい)。
情報量を減らすと天気予報精度が上がる、直観に反する結果
現在の気象状態を推定するためには、観測情報を増やせば増やすほど情報が増えるため、推定精度が向上しそうです。しかし実際に実験してみると、「あえて用いる観測情報を減らす」と、天気予報の精度が改善する、正反対の結果が得られました。
最初はこの結果に驚きましたが、調べてみると、世界中の天気予報機関で同じ傾向があることがわかりました。つまり、現在のデータ同化に使われている数理技術は、貴重な「観測の価値」を最大限に活用できていない、限界問題に直面していることになります。
コロナウィルスの感染者数も予測できた
私は、この問題を解決するために、近年重要となってきている深層学習技術なども併用した、新しいデータ同化・予測技術を開拓しています。
この研究は数理的な基礎研究ですが、その技術は様々な予測問題に応用することができます。例えば、2020年にパンデミックを引き起こしたコロナウィルスの感染者数の予測にも、データ同化技術を応用して予測精度を向上させることができました。
これからもデータ同化・予測技術の発展を通して、よりスマートでレジリエントな(柔軟性がある)社会の実現に貢献していきます。
※天気予報の仕組み 理化学研究所 計算科学研究センター 一般公開より(YouTube)
非静力学正20面体格子大気モデルNICAMによる世界の降水予測。世界の天気予報の改善に取り組んでいます
国際会議のため訪日した研究者とのエクスカーションでの1コマ。
研究者という生き方の醍醐味の一つは、世界中にライバルと友人が出来、切磋琢磨できることです
峠嘉哉
東北大学工学研究科 土木工学
【乾燥害・森林火災】後輩であり、ライバルでもある水文研究者です。シミュレーション・数値計算がメインの私と違い、現地観測など緻密な研究を積み上げています。いつも真摯に厳しいコメントをしてくれる、信頼できる研究者です。
岡崎淳史
米国・ペンシルバニア州立大学 気象・大気科学専攻
【古気候研究】親友であり、ライバルでもある古気候研究者です。彼の古気候研究、私の歴史への関心やデータ同化技術、感染学などを交えて人類の足跡をたどる、「銃・病原菌・鉄プロジェクト」を二人で秘密裏に進めています。こういったシークレット・プロジェクトは、非常に楽しいです。
研究室のメンバーとともに。素晴らしいスタッフ・学生と一緒に、毎日研究を楽しんでいます
暇と退屈の倫理学
國分功一郎 (太田出版)
著者の膨大な哲学・思想学的知識をもとに、「暇」と「退屈」について紐解いています。冒頭で問われる、「ISISの様な熱狂的な原理主義者・狂信者を、恐れつつ、どこか羨んでいる自分はいないだろうか?」という問いかけには、思わずドキリとさせられます。人は暇がなくても、退屈するのです。何度も読み直したい一冊。
また内容もさることながら、イントロがとにかく素晴らしく、私はここで「考えを世に問う」という価値観を学びました。
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喜嶋先生の静かな世界 The Silent World of Dr.Kishima
森博嗣(講談社文庫)
研究者として、心がかき乱される一冊です。人を選ぶ本かもしれませんが、私は本当に好きです。ミステリー作家として名を馳せた森博嗣ですが、若い頃は研究者でした。大学院生から助手に至る作者自身の研究生活を描いたもので、ただただ不思議に魅了され、研究に没頭する若き姿を描いています。
「研究者が一番頭を使って考えるのは,自分に相応しい問題だ」。激痛。本当にその通りで、研究者の能力とは問題を解く能力ではなく、問題を見つける能力なのです。自分は今でも純粋に不思議に魅了されているのかと、切なくなる一冊でもあります。研究者になろうかと考える時に、ぜひ読んでみてください。
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Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
情報学(AI)
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
スイスorオーストラリア。景色がとにかく絶景です。
Q3.一番聴いている音楽アーティストは?
Radwimps。特に『オーダーメイド』。
Q4.感動した映画は?印象に残っている映画は?
『ラ・ラ・ランド』
Q5.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?
新入生に住宅を斡旋するアルバイト