若手研究が世界を変える!

【精神神経科学】

脳細胞ゲノム

「動く遺伝子」は脳の病気にどう関与?脳細胞を一つ一つ解析

文東美紀先生

 

熊本大学

医学部 医学科(生命科学研究部 先端生命医療科学部門)

 

 先生のフィールドはこの本から

つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線

理化学研究所 脳科学総合研究センター(講談社ブルーバックス)

神経細胞の構造の記述から始まった脳研究は、現代では、画像研究、分子生物学研究、人工知能など、様々な視点から進められています。この本では、日本における脳研究者の第一人者たちが、それぞれ自分の強みを生かして、記憶を操ることはできるのか、心の病気は治せるのか、などといった難問に挑戦していく、その試みの一端を伺うことができます。

 

精神疾患は脳が原因臓器であると考えられていますが、まだ詳しいことがほとんどわかっていない、これからの研究分野です。脳科学に興味を持ち、精神疾患研究の分野に、どんな方向からであれ、若い力が参入してくれることを願ってやみません。

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 世界を変える研究はこれ!

「動く遺伝子」は脳の病気にどう関与?脳細胞を一つ一つ解析

遺伝子を変えてしまう「トランスポゾン」

皆さんは生物の授業で、DNAは比較的安定で親から子に引き継がれていき、一つの個体ではすべての細胞が同じ塩基配列を持つ、と習ったかもしれません。

 

でも実は、様々な生物のゲノムの中には、トランスポゾンと呼ばれるゲノムの中を動いて位置を変えることのできるDNA配列があるということがわかってきました。

 

例えば皆さんは、ハロウィンなどに出回る、粒ごとに色が違うトウモロコシを見たことがありますか。あれはトウモロコシの粒の色を決める遺伝子に、トランスポゾンが入り込んでしまった結果、その遺伝子が働かなくなってしまうことによって色が変わってしまうのです。

 

脳細胞は一つ一つ異なるゲノムを持つ

 

最近、ヒトの脳細胞でも似たようなことが起きていることがわかってきました。

 

ヒトの脳細胞のゲノムでは、LINE-1というトランスポゾンの一種が活発に働いていて、脳細胞は一つ一つ、少しずつ異なるゲノムを持つことがわかってきました。

 

このことの意味ははっきりわかっていませんが、ゲノムを少しずつ変化させることによって、脳細胞の多様性を生み出している、と考える研究者もいます。

 

統合失調症の原因かもしれない

 

このLINE-1が不幸にして、脳の機能を保つために重要な遺伝子の中に入り込んでしまった場合、統合失調症などのこころの病気になるのではないか、と私たちは考えています。

 

そのために、患者さんの脳細胞を一つずつ調べて、どんな働きをしている遺伝子にLINE-1が入り込んでいるのかを調べています。

 

研究室での実験風景。卒業研究前の学部生も、授業の合間に実験しに来ています。

 

 きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

 

私は精神疾患の原因を解明するために、患者さんのDNAやRNAを調べる研究を続けています。2009年に、ヒトの脳細胞ゲノムの中では、他の組織に比べると、LINE-1が活発に動いている、という内容の論文が、アメリカの研究室から出版されました。

 

そこで精神疾患の患者さんの脳ゲノムのなかのLINE-1の数を調べてみたところ、健康な人と比べるとLINE-1の数が増えていること、また脳の機能に重要な遺伝子のそばにLINE-1が入り込んでいて、それらの遺伝子の構造が壊されている可能性があることがわかりました。そこから興味を持って、この研究を続けています。

 

◆高校時代

 

高校1年生までは自他共に認める文系人間で、理系研究者になろうとは考えてもいませんでした。しかし高校2年生の時に内分泌系の病気にかかり、自分の病気や、薬のことなどを調べるようになりました。医学書(一般向けですが)を読むと、文学作品とは違った論理的な解説が新鮮に感じられ、理系は面白そう!と思うようになりました。この時抱いた「病気を治すこと」への興味が、今の研究につながっていると思います。

 

◆出身高校は?

 

玉川聖学院高等部

 

 先生の分野を学ぶには

「精神神経科学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

12.医療・健康」の「46.医学(心臓、血液、消化器、呼吸器、整形外科等)」

 


 文東先生の研究・研究室を見てみよう
写真1
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写真2
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研究室の所属学生も、積極的に国内外の学会などで研究発表をしています。

写真1:第27回精神科遺伝学世界大会(2019年、ロサンジェルス)、写真2:第42回日本分子生物学会年会(2019年、福岡)、写真3:学内研究発表会で最優秀賞受賞(2016年)

 

 先生の学部・学科で学ぼう

熊本大学医学部は、かつて “基礎研究医学部”とたとえられたほど、基礎研究が盛んであり、発生医学研究所など、様々な先端的な研究を行う施設もあります。また研究に興味を持った高校生や医学部の学生さんが、高いレベルで研究を行えるよう、様々なサポートを行う「柴三郎プログラム」(熊本県出身の北里柴三郎先生にちなんでいます)という制度がありますので、ぜひウェブサイトなどをご覧ください。

 

 中高生におススメ

記憶力を強くする 最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え

池谷裕二(講談社ブルーバックス)

主に“記憶”という機能から、脳の働き方がとてもわかりやすく書かれています。効率の良い勉強法などにも触れているので、中高生の皆さんには特に興味深く読めると思います。

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ユング心理学入門

河合隼雄(岩波現代文庫)

皆さんの中には、自分ってどんな人間なんだろう、と悩む人も多いのではないでしょうか。この本に書かれている内容は、夢からその人のこころの課題を読みとくなど、脳科学的からのこころのアプローチとは全く異なりますが、妙に納得させられるところがあります。

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余命3年 社長の夢 「見えない橋」から「見える橋」へ

小澤輝真(あさ出版)

「脊髄小脳変性症」という、治療法がまだ確立されていない遺伝性神経疾患の患者さんが書かれた本です。破天荒な人生を送ってきた著者が、罪を犯した元受刑者たちを自分の建築会社に社員として受け入れながら、社会を変えていこうとする姿はすごいです。

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 先生へ一問一答!

Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

ヨーロッパのどこかの国。音楽や美術などの文化が充実していて、住んだら毎日が楽しそうだからです。

 


Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

クラシック音楽全般

 


Q3.大学時代の部活・サークルは?

オーケストラ。クラリネットを吹いていました。

 


Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

大学病院に所属する自分の主治医の先生のもとで、自分がかかった病気の実験バイトをしていました。

 


Q5.研究以外で楽しいことは?

クラリネットやハープなどの楽器演奏です。いつか、これらの楽器を奏でながら旅する吟遊詩人になりたいです。

 



楽器演奏が趣味です。

写真左:大学時代、オーケストラサークルでクラリネットを演奏していました。

(1992年。曲はチャイコフスキー交響曲第6番)

写真右:近年の趣味は、古楽ハープの演奏です。