【機能物性化学】
MRI
工学部化学科発の研究で、MRIに革新を
楊井伸浩先生
九州大学
工学部 物質科学工学科(工学研究院 物質創造工学専攻)
深夜特急
沢木耕太郎(新潮文庫)
大学生になったら、ぜひ旅に出て、いろいろな世界を自分の眼で見て回ってください。インターネットが発達した現代でも、肌で感じることで初めてわかることは多くあると思います。
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工学部化学科発の研究で、MRIに革新を
MRIで観察できるのは体内の水だけ
皆さんはMRI (Magnetic Resonance Imaging)をご存じでしょうか。MRIは、FMラジオに使われるようなラジオ波を用い、頭や体の断面画像の撮影に幅広く用いられている医療機器で、頭を輪切りにしたようなMRI画像をご覧になったことのある方も多いかと思います。
では、MRIでは実際に何を見ているかご存じでしょうか。実は、MRIは感度が非常に悪く、体の中に大量に存在するもの、すなわち水の観測に限られています。
生体分子を高感度化すれば観測可能
しかし、皆さんもご存じのように、私たちの体は水だけでなく、タンパク質などの多様な生体分子で構成されています。いろいろな生体分子が体のどこにいてどのような働きをしているか、もしそれを直接見ることができればと思うと、ワクワクしてきます。
また、ある特定の生体分子が体の中で代謝される様子を観測することで、がんの超早期診断にもつながると期待されています。私たちは、そのような様々な生体分子を高感度化し、MRIで観測可能にすることを目指した研究を行っています。
高感度化には新しい分子の創出が必要
このような研究は、医学部か薬学部で行われていると思われるかもしれませんが、実は工学部の化学科で行っています。MRIの高感度化を行うためには、そのために必要な新しい分子や物質を創り出す必要があり、それができる学問が化学です。
最先端の化学は、化学の領域に留まらず、生物や物理との境界領域に多く存在しています。自らが生み出した分子や材料が、医療、製薬、食糧問題、環境問題、エネルギー問題といった、私たちの生活にとって非常に重要な分野に革新をもたらしうること。これが化学の魅力だと考えており、私たちもその夢の実現に向け、日々研究に没頭しています。
一緒に研究しているグループのメンバーと(高感度化のポーズ)
現在もMRIの高感度化を達成する優れた技術はありますが、-273℃という極低温が必要であり、装置が非常に高価なため、限られた数の大きな病院だけに導入されると予想されます。室温で、安価に高感度化できる装置ができれば、街の病院でも超高感度なMRI診断を受けることができるようになり、またそのような装置を開発することは新しい技術や産業を生むことにもつながります。
◆テーマとこう出会った
MRIの高感度化に関する研究テーマを始めたのは、4年ほど前です。それまでは(今も続けていますが)、太陽光のうちエネルギーが低すぎて利用できない光を、アップコンバージョンという方法で高いエネルギーの光へと変換し、太陽電池などの効率を向上させるという研究を行っていました。
アップコンバージョンのためにいろいろな新しい材料を作ったので、他の分野にも応用できないかと模索していました。その中で、学生時代からお世話になっている東京大学の山東信介先生が先駆的なご研究をされている、MRIの高感度化に利用できると気づきました。
異分野の人との出会いに恵まれ、この研究テーマに出会えました。また、化学は自分の分子・材料を武器にいろいろな分野に発展できる学問といえます。
◆大学時代
今思えば大学入学時に化学を選んだのは、明確なビジョンがあったわけではなく、どちらかといえば直感でした。高校の時の化学の先生が好きだったというのは、重要なきっかけでしたが、決め手は、化学が楽しそうという直感にあったと思います。
しかし、今となっては、この直感は大いに信用できるものだったと感じています。自分が面白いと思うもの、大事だと思うもの、そういった自分の価値観を基に共感したのだと思います。
◆出身高校は?
六甲学院高校
山東信介
東京大学 工学部 化学生命工学科/工学系研究科 化学生命工学専攻
MRIを用いて体内での代謝を調べる、独自の分子プローブを開発しています。化学をベースに生命を理解するというチャレンジングなテーマに取り組んでおり、MRIの高感度化研究を行うきっかけを与えていただいた先生です。
北川勝浩、香川晃徳、根来誠
大阪大学 基礎工学部 電子物理科学科/基礎工学研究科 システム創成専攻
NMR・MRIの高感度化や、量子コンピュータの研究をしています。MRIの高感度化に関して、多くの先駆的な研究をしています。また、大阪大学には関連する量子情報・量子生命分野のセンターがあり、国内の一大拠点となっています。
研究内容を表現した論文表紙。実際の実験室にそっくりです。
物質科学工学科では、分子を合成し、集積化する化学を基盤として、デバイスやバイオなど様々な分野の最先端研究が行われているため、幅広い視野が身につき、また実際に異分野間の融合研究に携わることもできます。また、自分たちのことを「ファミリー」と呼ぶほど仲が良く団結力があり、泊りがけの合宿や、先輩の大学院生に論文の読み方を教えてもらう授業など、独自の教育プログラムが充実しています。
ケムステチャンネル(YouTubeチャンネル)
Chem-Stationは日本最大の化学ポータルサイトで、Chem-Stationが開設したYouTubeチャンネルです。最先端の化学研究を垣間見たり、海外留学の話を聞いたりすることもできます。
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私が講演した動画も配信されています。
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化学者たちの京都学派 喜多源逸と日本の化学
古川安(京都大学学術出版会)
ノーベル化学賞を受賞した福井謙一先生、野依良治先生をはじめとして、京大に限らず日本中に著名な先生方を輩出した京都学派を紹介する本です。喜多先生が京都に植え付けた「自由な気風」「応用をやるには基礎が必須である」という学風の重要性は、現代でも変わっていません。
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Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
数学。化学者でも、物理などとの融合分野を研究するには数学が必須となり、今でも苦しめられています。
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
イタリア。料理がおいしく、おしゃれで、人も明るくて優しいです。自宅で料理するときはイタリアンが多いです。
Q3.大学時代の部活・サークルは?
授業で出会った仲間と読書会をする自主ゼミを作りました。いろいろな面白い人がいて、自分の価値観や視野を広げることができるのが、大学生活の素敵なところだと思います。
Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?
パン屋、お好み焼き屋、本屋、家庭教師などいろいろやりました。ユニークなのは、京都の葵祭の行列に参加するアルバイトや、医学部で脳の機能解明のためにMRIの中で質問に答えるアルバイトです。
Q5.研究以外で楽しいことは?
子どもや猫と遊ぶことが多いです。また、体が資本なので、定期的にジョギングをしています。