【物理化学】
光合成
スパコンで光合成の謎を明らかに
何万年もかかる、光合成の方程式をいかに計算するか
東雅大先生
京都大学
工学部 工業化学科(工学研究科 分子工学専攻)
何万年もかかる、光合成の方程式をいかに計算するか
光合成タンパク質内の電子の動きを追う
緑色をした植物は、生物界で唯一、光により水を分解して酸素を生み出します。この光エネルギーを化学エネルギーに変換する光合成の最初のステップは、光合成タンパク質内のある電子が、分子から隣の分子へと1つ飛び移る過程です。
これまでの研究で、この電子移動反応が効率的に進むように植物は進化してきたと考えられてきました。また最近の研究では、植物が量子力学を巧みに使って効率を上げているのではないか、という提案もなされています。
しかし、タンパク質分子のどこがどのような機能を持つかといった具体的な分子レベルでの理解はほとんど進んでいません。
原子は複雑、計算に時間がかかる
私たちはこの謎をスーパーコンピュータを使って、分子シミュレーションなどの理論計算手法により明らかにしようと取り組んでいます。
原子核や電子の動きは、量子力学の基礎方程式であるシュレーディンガー方程式で説明できます。光合成タンパク質も元をたどれば原子核や電子の集合体なので、解くべき方程式はわかっています。
しかし、非常に多くの原子が複雑に関わっているので、現代の最先端のスーパーコンピュータを用いても何万年もの時間がかかり解くことができません。
それをどうにかして解けないかと工夫しながら、謎の解明に日々取り組んでいます。この謎がわかれば、太陽電池や人工光合成などの光を人工的に利用する装置をより良くできる可能性があります。
緑色植物と紅色細菌の電子移動反応の違い
私たちの研究は非常に基礎的な研究なので、すぐに世の中の役に立つとは言えませんが、今まで以上に光合成の仕組みがわかれば、エネルギー問題の解決や産業基盤の発展に少しは貢献できるのではないかと考えています。
◆先生が心がけていることは?
次世代の研究者を育てられるよう心掛けて教育を行っています。
◆テーマとこう出会った
現在の研究テーマは、研究員時代の上司や友人の共同研究者から話を聞いてテーマ化しました。大学生の頃から、何となく光合成を研究したいなと思っていましたが、当時はどのように研究すればよいか想像もつきませんでした。もっと基礎的な化学の研究にも興味があったので、大学院ではそちらを研究していましたが、巡り巡って光合成の研究をすることになりました。
◆大学時代は
経済的に進学するのが厳しかったので、必死で勉強して飛び級して大学を1年短縮しました。この経験が今の研究者人生につながっていると思います。
◆出身高校は?
福岡県立東筑高校
石崎章仁
自然科学研究機構 分子科学研究所
【光合成のエネルギー移動に関する理論的研究】
光合成で光エネルギーが伝達する過程に量子力学が重要な役割を果たすことを物理の視点から明らかにした先生です。もともと同じ研究室に所属していた時期もあり、友人としても非常に刺激を受けています。
林重彦
京都大学 理学部 理学科 化学教室/理学研究科 化学専攻
【タンパク質の機能発現に関する理論的研究】
学生の時の指導教員で、様々なタンパク質の機能をシミュレーション手法により明らかにしています。無理そうに思うことを何年も根気よく取り組んで解決してしまうのは見習いたいです。
光合成タンパク質のシミュレーション
京都大学工学部工業化学科は、「工業」と名前が入っていますが、基礎から応用まで化学のほぼ全ての分野の研究者が在籍する日本最大級の組織です。化学に興味がある人なら求めているものがきっと見つかると思います。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
化学と物理を中心に学んだので、生物をしっかり学びたいです。
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
風土や食べ物が気に入っているので、台湾が良いです。
Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?
昔は『スターウォーズ』が好きでした。
Q4.熱中したゲームは?
大学院生の時に『ファイナルファンタジーXI』にはまって、卒業が2年遅れました。
Q5.研究以外で楽しいことは?
いろんなお酒を飲んでみること。