【生物物理学】
脳神経
分子のふるまいを観察する技術を開発、脳の異常を見つけたい
坂内博子先生
早稲田大学
先進理工学部 電気・情報生命工学科(先進理工学研究科 電気・情報生命専攻)
動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか
福岡伸一(木楽舎)
「動的平衡」とは、生物の構成要素である生体分子(タンパク質、脂質、核酸など)が絶え間なく入れ替わっていることです。
皆さんの体はずっとそこにありますが、体を構成する分子は常に壊され新しいものと取り替えられています。これは、作られてからずっと同じ部品で働く機械と人間との最も大きな違いです。
分子が入れ替わりながらも、体がずっとそこにある不思議。脳が記憶を保ち続ける不思議。生命の本質ともいえるその不思議を表す概念が「動的平衡」なのです。
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分子のふるまいを観察する技術を開発、脳の異常を見つけたい
研究の手法は『シャーロック・ホームズ』
脳の細胞を構成する生体分子は自由に動き、絶え間なく入れ替わっているにもかかわらず、なぜ私たちの記憶は長期間保存されるのか。アルツハイマー病などの脳の病気はどのように発症するのか。
そんな脳の仕組みを解決するために私が用いているのが、中学生の頃からの愛読書『シャーロック・ホームズ』の推理の方法です。
ホームズは、人のふるまいを観察してその人の思考を読み取ることができます。私も「分子のふるまい」に込められたメッセージを読み取ることで、脳の仕組みを解明したいと考えています。そのために、「量子ドット1分子イメージング」という技術を開発し、分子1個1個の動きを観察しています。
シナプスの働きを分子で観察
1人1人は自由意志で行動しているはずなのに人が密集してしまう場所があるように、神経細胞にも特定の分子が密集している場所があります。それが「シナプス」とよばれる神経伝達の基盤となる構造です。
1分子イメージング法を用いて分子のふるまいを観察することで、シナプスに情報伝達分子が集まる仕組みやシナプスの伝達効率が変化する仕組みを明らかにすることができました。さらに、脳神経疾患を模した神経細胞では、分子のふるまいに異常が起こることも見出しました。
現在は、分子のふるまいという情報を病気の診断に使えないかと考え、研究を進めています。まだまだわからないことだらけですが、未知の現象を世界で初めて発見する瞬間は何物にも代えがたい喜びです。
現在の研究の基礎を立ち上げた、フランスの研究室メンバーとの写真。世界8カ国からメンバーが集まる国際的な研究室でした。研究者になると、世界中に友達ができるのが楽しいです。10年以上たった今、この写真に写っているメンバーは世界各地で研究グループを率いるリーダーとして活躍しています。
アルツハイマー病やALSなど現在はまだ治療法・予防法がわからない病気や、統合失調症など細胞レベルの病態がわかっていない病気があります。そのような病気に対し、iPS細胞などを利用した新たな診断法を作りたいと考えています。1分子の動きからその細胞がどんな疾患を発症するのかを読み取れるような診断法を確立し、治療につなげることを目指しています。
◆先生が心がけていることは?
マイボトルを使うこと。ピカチュウの水筒を20年間使っています。
◆テーマとこう出会った
研究員になって2年目に参加した生体膜の国際学会で、本来自由に動けるはずの膜の分子が細胞の特定の場所に密集しているという現象に惹かれました。脳神経系が働く仕組みを明らかにするために、1分子の動きを見ることが大事だと気付いたのがこの時です。この国際学会を現在もオーガナイズしている楠見明弘先生(現OIST/沖縄科学技術大学院大学在籍)には、今もメンターとして様々な助言を受けています。
◆学生時代は
中学、高校、大学と、推理小説や2時間ミステリードラマが大好きでした(今も好きです)。科学的な証拠と論理により、ウソを見破り真実を突き止めることができることに魅力を感じていました。現状を分析し、証拠を集め、真実を読み解く。研究と推理小説は共通しています。
◆出身高校は?
山口県立山口高校
「生物物理学」が 学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)
その領域カテゴリーはこちら↓
「7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」
楠見明弘
沖縄科学技術大学院大学(OIST) 膜協同性ユニット
【1分子イメージングによる膜分子の解析】1分子の動きを見ることにかけては世界一の先生です。今も教えていただくことがたくさんあります。
■楠見先生のページ(OIST HP)
岡野栄之
慶應義塾大学 医学部 医学科
【iPS細胞を使った神経難病の研究】アイディアを実現させる力がすごい。「あんなこといいな、できたらいいな」をいつのまにか実現させているド○えもんのような先生です!
研究室の様子
先進理工学部の電気・情報生命工学科は、電気・電子・情報・生命科学という4つの異なる分野が集まっています。それぞれの分野で先鋭的な研究を行うのみならず、生命科学と電気電子情報の融合領域で、面白い研究が行われています。本来出会いにくい異分野が自然に融合しているユニークな学科で、これまでにない新しいことをやりたい人にぴったりの学科です。
お母さん、ノーベル賞をもらう 科学を愛した14人の素敵な生き方
シャロン・バーチュ・マグレイン、訳:中村桂子、中村友子(工作舎)
この本に出てくるのは、ノーベル賞を受賞した極めて優秀な女性研究者です。その研究業績だけでなく、彼女らがどんな研究生活・家庭生活を送ってきたのか、どんなことに困っていてどうやって乗り越えてきたのか、生きた人間としての姿が伝わってきました。すごい研究者たちですが、皆さんと同じ悩みを抱えた1人の人間であることがわかり、身近に感じられると思います。
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嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え
岸見一郎、古賀史健(ダイヤモンド社)
自分と他者との関係をしっかり考えるきっかけとなった本です。人生は他人との競争ではない、人の期待を満たすために生きるのではない、ということを学びました。自分が高校生の時に出会いたかったです。
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ハダカデバネズミ 女王・兵隊・ふとん係
吉田重人、岡ノ谷一夫(岩波書店)
今私が注目している動物の一つが「ハダカデバネズミ」です。アリのように女王を頂点とした高度な階級社会を形成し、一般的なげっ歯類に比べて長い30年という寿命を持つ不思議な動物です。癌にならない、酸素なしで18分も生きられるというスゴイ能力を持つハダカデバネズミ。目が離せません!
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Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
数理科学。自然科学の基礎となる数理科学を、もう一度しっかり学びたいです。
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
フランス。個人が尊重されている国だから。
Q3.熱中したゲームは?
『バイオハザード』(1〜3)。短時間でクリアするために段取りを必死で考えたことが、研究の効率化に大変役立ちました。
Q4.研究以外で楽しいことは?
子育て。2人の娘の成長が何より楽しみです。