【国際関係論】
戦争
戦争と平和を科学する
「べき論」で平和はつくれない。データに基づき戦争原因を把握
多湖淳先生
早稲田大学
政治経済学部 国際政治経済学科(政治学研究科 政治学専攻)
「べき論」で平和はつくれない。データに基づき戦争原因を把握
原因がわかれば戦争は止められる
私たちの研究室は、外国や日本国内の共同研究者とともに、大規模データの統計的処理や実験の方法を用いて、戦争と平和を科学的に分析し、どうしたら平和の条件を見つけられるのか、日々奮闘しています。エビデンスが伴う政策提言は水掛け論ではなく、費用対効果といった根拠をともなって意思決定ができる政治を可能にします。
戦争と平和の問題は、それが人と人の相互的な営みである以上、人間がその原因を把握することで、止めることや少なくすることができる問題です。現在、戦争の原因には様々な説が唱えられ、それがデータによって精査され、何が原因となっているのかを統計的・実験的に把握できる時代になっています。
戦争が選択されるメカニズムを理解する
「戦争をしてはいけない! 核兵器は禁止すべきだ。◯◯国はけしからん!」といった「べき論」や感情論では、戦争はなくせませんし、止められません。
どういったメカニズムで戦争が選択されてしまうのかを科学的に理解し、その知見を活用したら戦争の少ない世界を達成できるだろうと考え、ある意味で楽観的に、人間を信じているのが、今の世界水準の国際政治学です。
実験やデータに基づくのが最新の社会科学
日本でもこういった考え方の科学的な国際政治学が増えつつありますが、世界の学会の水準と比べると、「べき論」やイズムといった1つのレンズによって国際政治を論じる研究者がまだ多いように思います。
議論の証拠となるエビデンスをデータセットとして構築し分析するような、または実験方法によって直に原因を探知するようなアプローチは最新の社会科学のあり方で、国際政治でも応用されています。
平和の条件を「科学する」研究の世界に、ぜひ関心を持っていただけたらと思います。
航空ショーはサバティカルをしたサンディエゴでの風景で、
平和を作るために何が必要なのかを直球で問うているのが、私たちのやっている科学的な国際政治学です。例えば、いがみ合う日韓の関係を良好にする政府のメッセージとはどうあるべきかについて、ビデオを用いた実験などをしています。相手と協力したほうがいい、という世論を増やすメッセージとは何かを明らかにしつつあります。
◆テーマとこう出会った
当時小学校6年生くらいだったと思いますが、1990年8月3日、東海道新幹線の中で「イラクがクウェートに侵攻」というニュースの電光掲示板を見て「戦争って昔のことではなく今も起こるのだ」と実感したところから、戦争に関心を持ちました。研究のテーマは、国際法の先生であった故・小寺彰東大教授とエレベーターでご一緒した時に、武力行使の時の単独と多角の使い分けなどは面白いのでは、と言っていただいたことから始まりました。このテーマは2005年の英語論文になり、多くの方に引用される研究になりました。何から研究が始まるかは、わからないものです。
◆中高時代は
生徒会を一生懸命していました。自分で何をしなくてはいけないのか、そのためにどんな資源がいるのか、どういうタイムラインでやるのがいいのかなど、あいまいな「モノ」であってもいいので、何か先を見据えて「計画する力」は研究者にとって不可欠です。
◆出身高校は?
長野県松本深志高校
大坪庸介
神戸大学 文学部 人文学科/人文学研究科 社会動態専攻
【集団謝罪の研究】専門としている進化心理学の考え方を伺うとその奥深さにいつも感銘を受けますし、実験について伺うと自分のやっているものが毎回陳腐に見え、学ばせていただくことばかりです。
■大坪研究室HP(Evolutionary Social Psychology Lab)
三船恒裕
高知工科大学 経済・マネジメント学群 人間行動専攻
【内集団バイアスの研究】実験で何を検証できるのか、そして理論をうまく実験にのせるにはどうしたらいいのかを議論していると、いつも新しい示唆をいただきます。
小浜祥子
北海道大学 法学部 法学課程/法学研究科 法学政治学専攻
【紛争後社会の再生をめぐる研究、「見えない危機」の研究】同じ国際政治を専門としていますが、ゲーム理論の思考から話をすることもあり、データありきの私とは異なる視点にたびたび驚かされます。
◆戦争とは何か ~なぜ争うのか? 止めることはできるのか? 戦争の本質を科学的に分析(TBSラジオ)
◆The U.S. military made a short video to improve relations between Japan and South Korea. It could actually work(The Washington Post)
◆Why Putin and Obama use fighting words when they don’t want to fight(The Washington Post)
学会は神戸で開催した国際共同研究ワークショップの様子で、
早稲田大学政治経済学術院は、科学的な国際政治学を学び実践するにあたって、日本でおそらく最良の環境だと思います。集まってくる人材、設備や資源、そして海外との共同研究ネットワークの層の厚さは大きな強みです。データサイエンスの授業、大学院であれば方法論の教育の充実度、学生への支援体制といった点でも、日本の他の大学との比較では比べものにならないと思いますし、国際水準に届いている数少ない場所だと思います。
ルワンダ中央銀行総裁日記
服部正也(中公新書)
経済の話ですが、データを取り、エビデンスを通じて政策を選択していく服部氏の姿は、証拠を重視して意思決定をしていく今の公共政策の常識の姿と重なります。
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安心社会から信頼社会へ 日本型システムの行方
山岸俊男(中公新書)
心理学の本ですが、社会科学の実験について面白い事例がたくさんあり、また社会科学分野で世界水準の先端研究をするとはどういうことかについても理解ができる、良書です。
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Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
宇宙をめぐる自然科学
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
英語圏(英語ネイティブになりたい)
Q3.大学時代の部活・サークルは?
模擬国連
Q4.研究以外で楽しいことは?
子育て