【緑地環境】
景観と植物
マリーゴールド溢れるネパール。宗教文化が景観を作る
大野朋子先生
神戸大学
国際人間科学部 環境共生学科(人間発達環境学研究科 人間環境学科)
花と木の文化史
中尾佐助(岩波新書)
人はなぜ花を美しいと思うのか、どのようにして花や樹木を導入し、ともに暮らしてきたのか。これは 1980 年代の書籍ですが、現在もなお、この普遍的な問いに対して筆者のフィールドワークを基軸に科学的視点から論述されたものです。著名な民族植物学者である中尾佐助による植物学と民族学、双方の視点を持つこの書籍は、近年求められる文理融合型学問の重要性を改めて感じさせる 1 冊です。
理系か文系か、学問進路がまだ決まらない人、あるいはすでに決めている人にもぜひ、一度読んでいただきたいです。
マリーゴールド溢れるネパール。宗教文化が景観を作る
民俗学と植物学から景観を紐解く
私たちは旅先で何を見て、何を感じますか?きっと、見たこともない風景や、文化に驚き、その「地域らしさ」を感じることでしょう。この「地域らしさ」は、自然や文化、歴史、景観など多くの要素と関係しています。
グローバル化が急速に進み、失われつつある「地域らしさ」、とりわけ個性ある「景観」に興味を持ち、私は民族植物学(民族学と植物学を合わせた文理融合の学問領域) 的アプローチからネパールでの地域固有の景観の成り立ちについて研究しています。初めて目にする景観の創造を紐解くことは、いつも宝探しと謎解きに似た面白さを与えてくれます。
宗教と一体の生活。毎日、神々に花を捧げる
研究対象としたネパールの人々は、日本では考えられないほど宗教と一体となった生活を送り、彼らは毎日、神々に祈りと共に沢山の植物を捧げます。この地を訪れた時、町には大量のマリーゴールドの花が飾られ、鮮やかなオレンジ色に溢れていました。
神に捧げるこの花の需要は非常に高く、多くの商店で販売され、家々でも栽培します。さらに雑草のように至る所で生育し、マリーゴールドのある景観がネパールらしさを感じさせます。これは、独自の宗教文化を背景とした人々の植物利用の結果出来上がったものなのです。
豊かな生活のために
しかし、マリーゴールドはネパールには自生しない外来植物のため、文化の維持と自然環境の保全は時に相反する関係をもたらします。その共生は困難ですが、私たちの豊かな人間生活のためにはこの両方が必要なのです。
ネパールの伝統的生活に使用される植物を求めて。(西ネパール:バンディプル)
伝統的生活の残る古い集落で、植物利用の調査を行っています。
時に私たちが雑草と思う植物は彼らにとっては貴重な植物資源となります。
◆緑地環境学研究室(ゼミ)や、講義「緑地環境論」「地域生態環境論」では
緑地環境学を理解してもらうため、最初は専門的書籍を読むよりも、屋上緑化やカフェの室内緑化、街路樹など身近なフィールドでの「緑」を見に出かけるように進めています。緑(植物) と生活環境への関心と問題意識を持ってもらいます。
ゼミ旅行の風景(沖縄・石垣島)
ゼミ旅行では、現地ならではの動植物を観察したり、郷土料理を食べたりして旅行を楽しんでいます。
◆主な業種
(1)食品・食料品・飲料品/タバコ・飼料・肥料
(2)官庁、自治体、公的法人、国際機関等
(3)小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等
熱帯雨林生命の森
文:湯本貴和、絵:磯野宏夫(エメラルドフォレスト)
多様な動植物を育む熱帯雨林について、その生態系や私たちの生活との関係、環境問題など、幅広い視点で美しいイラストとともにわかりやすく説明しています。環境問題への興味の有無にかかわらず手に取って理解できます。
秘境ブータン
中尾佐助(岩波現代文庫)
かつて秘境と呼ばれたブータン王国への探検記であり、当時の自然や民族の伝統的文化を科学的視点から鮮明に紹介しています。自然資源を巧みに利用する異文化とヒマラヤの自然を知り、自然環境と人間生活に理解と興味が持てる書籍。フィールドワークに関心のある人に、ぜひ読んでほしいです。
東南アジア市場図鑑 魚貝篇
河野博(弘文堂)
市場に行けばその土地の真の暮らしが見えてきます。「食」を通じて地域の文化、生活様式、そして自然を理解してほしいです。カラー表示の図鑑として説明しているので、読みやすく、気軽に手に取れます。魚貝篇の他、植物篇もあり、動植物、伝統文化、自然環境に興味のある人に読んで欲しい本です。