【日本史】
幕末維新政治
明治維新を儒教思想で捉えなおしてみる
池田勇太先生
山口大学
人文学部 人文学科 歴史学コース(人文科学研究科 人文科学専攻)
福翁自伝
福澤諭吉(岩波文庫)
福澤諭吉は特に明治時代に活躍した学者・ジャーナリストですが、この自伝は幕末期が特に面白く、軽妙な語り口に、読んでいて思わず笑ってしまうことでしょう。
幕末という時代、小さな藩の下級武士の家に生まれた著者が、どんな生き方をしていたか。洋学塾はどんなところだったのか、サムライたちが米欧に渡るとどんな珍事が起こったか、それらのどのエピソードをとっても、時代の持つエネルギーや社会の姿を感じ、皆さんをその時代へと連れて行ってくれるはずです。
明治維新を儒教思想で捉えなおしてみる
明治維新とともに大減税を断行した殿様
小学生の頃、漫画の『カムイ伝』を読んで、その世界観に魅了されました。白土三平が描く江戸時代には、たいてい重税に苦しむ農民たちと百姓一揆が登場するのですが、そんな江戸時代がどのようにして終わったのかという素朴な疑問が、子ども心に残っていたのでしょう。
大学で卒業論文を書く頃には、すでに白土が描いていたような、「武士たちの圧政」という江戸時代像からはサヨナラしていたのですけれど、明治維新に際して、熊本藩が大規模減税をした史料を読み、興味を惹かれました。
それが、殿様がこれまでの重税を農民に謝罪して、本税の3分の1にものぼる雑税を全廃してしまったという史料でしたから、驚きでした。いったい明治維新をやった人たちは何を考えていたのかということを知りたくなったわけです。
熊本藩の「王政復古」は儒教の理想政治の実現
調べていくと、明治維新には儒教を信奉して、その理想の政治を実現したいと考える人たちが少なからず関与していました。熊本藩で改革を進めた人たちは、「王政復古」とは古代の天皇と同様に(と彼らは信じていました)、儒教が理想とする政治を実現することだと考えていました。
他方で、彼らは率先して文明開化政策を進めていったのです。実は幕末維新の政治過程にも、社会の変革にも、儒教の影響が見られます。そればかりで説明することはもちろんできませんが、幕末維新の変革を儒教の理念や、それを担った人々の考え方をたどって明らかにしてみたい。そんな研究をやっています。
歴史の研究は、未来に向けて提言をするよりも、未来を考える前提となる経験値を現在および未来の人々に与えるものと言えます。例えば、持続可能な経済成長という点では、人口増加がほぼ横ばいとなっていた江戸時代後期の社会を参照することが有益でしょうし、急激な人口増加で大量の移民を送出せざるを得なかった近代日本社会の姿を知ることも必要でしょう。いずれも長所と弊害があり、それらに学ぶことが、今後の政策を考える上でも有益と思います。
◆理系向けの講義「歴史学」で伝えること
理系の学生にも講義をしています。ある農村の風景を見せ、この村は戦時中に中国東北部へ移民を送り出し、その人々は敗戦で集団自決したこと、しかし役場が公文書を捨ててしまったため、歴史を検証することはできないことを話すことで、文書の破棄が歴史の抹消につながることを伝えています。
学生と共に山口市内のお寺で行った古文書調査の様子。本堂に机を並べて古文書をひろげ、班ごとに目録を取りました。徳川家康や足利義昭などの史料もある貴重な文書群でした。(2014年8月)
◆主な業種
(1) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等
(2) ホテル・宿泊・旅行・観光
(3) 学習支援(塾、フィットネスクラブ、各種教室、通信講座等)
◆主な職種
(1) 一般・営業事務
(2) 保安(警察・消防・警備等)等
(3) その他教育機関教員、インストラクター
◆学んだことはどう生きる?
卒業生には専門性を活かした研究者や教員、学芸員もいますが、多くは一般職として働いています。
人文学部は人文系の専門教育により、一つの専門を深く修めます。例えば教育学部や経済学部等でも歴史の先生はいますが、歴史学の研究室で複数の歴史の教員に学ぼうとするならば、人文学部が適しているでしょう。山口大学人文学部では歴史学コースに考古学・西洋史・東洋史・日本史があり、日本史は古代・中世・近世・近現代のそれぞれに教員がいますので、歴史学を学ぶには良い環境だと思います。
大いなる遺産
ディケンズ、訳:山西英一(新潮文庫)
いわずと知れた、19世紀イギリスの傑作小説です。説明はいらないくらい面白く、夢中で読めますが、読み終わると潮のような感動が襲ってきます。この作品に限らず、名作と呼ばれて今も読み継がれている本は、皆さんの人生を豊かにし、人や世界に対する理解を深め、思索する力と感性を育みますので、是非たくさん読んでください。
考えるヒント
小林秀雄(文春文庫)
20歳くらいまでに、優れた批評や哲学書を熟読する経験を持つと、その後の人生が変わります。この本は一篇があまり長くないため、難しいものを熟読するにはちょうど良いと思います。できれば何人かで会読ができたら、それは素晴らしい経験になることでしょう。
民間暦
宮本常一(講談社学術文庫)
歴史の授業では、私たちが現代文明に浸る以前はどんな世界に住んでいたのかは教えてくれないでしょう。この本は年中行事を探求していくことで、日本の庶民の生活に深い奥行きを見出すものですが、同時にかつての人々の暮らしや生き方を理解させてくれます。