【英米・英語圏文学】
芸術論
芸術家も、社会や政治を考える~ウィリアム・モリスらの思想
関良子先生
高知大学
人文社会科学部 人文社会科学科 国際社会コース(総合人間自然科学研究科 人文社会科学専攻)
フランケンシュタイン
メアリ・シェリー、訳:芹澤恵(新潮文庫)
本を読む醍醐味は、フィクションであれノンフィクションであれ、世界観が変わるような体験ができることだと思います。英文学のフィクションで高校生にぜひ読んで欲しいのは、小説『フランケンシュタイン』です。
「フランケンシュタイン」という言葉を聞くと、何かしらイメージを抱くかと思いますが、そのイメージと原作とを比較するとまったく違うという、まさに世界観が変わるような体験ができる小説の一つがこの作品です。また、作者が19歳の少女だったことにも驚かされます。原作を読んで英文学に興味を持ったら、併せて『批評理論入門 「フランケンシュタイン」解剖講義』(廣野由美子著、中公新書)も読んでみてください。一つの物語を、様々な切り口で読む方法を教えてくれます。
芸術家も、社会や政治を考える~ウィリアム・モリスらの思想
リバティプリントの原点として知られるモリス
私は、19世紀イギリスで活躍したウィリアム・モリスという作家・思想家・社会運動家を中心に、イギリスの文芸・文化について研究してきました。
モリスは多方面で活躍した人物で、現代では壁紙やテキスタイル等のデザイナーとしてよく知られています。日本でも人気のある、リバティプリントという花柄を基調とした生地のデザインがありますが、その元となるデザインを考案した人物の一人がモリスです。
現在の研究では、モリスとともに活動した画家バーン=ジョーンズや、美しい童話の挿絵家として知られるクレインについても考察しています。
唯美主義者は芸術だけでなく、社会改良への関心も
彼らのデザインや思想を説明する時に使われる「唯美主義」という言葉は、一般に、芸術を社会改良の手段とする態度を批判して、美こそすべてだと定めるものだと定義されています。
しかし、唯美主義の代表者とされる創作家は、「芸術のための芸術」をモットーとする一方で、社会改良に対する強い考えを持っていました。
現在の研究では、彼らの持つ政治性は、社会主義的傾向が強いため、政治の中枢とは異なる、いわばマイノリティーの政治思想としてこれまで一蹴されてきたのではないかと仮説を立て、唯美主義者の社会性を「政治性」と捉えて精査することによって、彼らの社会思想の正統評価を試みています。
芸術と社会・政治の微妙な関係性は、現代にも通じる問題です。過去の時代の文化を通して、人類に普遍に関わる、芸術と社会・政治の関係性に迫るのが、私の研究の究極の課題です。
松永京子
神戸市外国語大学 外国語学部 英米学科
北米先住民文学の中で、核や原爆の問題がどのように表象されているのかを研究しています。2019年の日本英文学会のシンポジウムで研究発表を拝聴して、感銘を受けました。原爆文学は、小中高生も国語の授業等を通して触れる機会が多いかと思いますが、アメリカ小説で核の問題がどのように扱われているのか、弱い立場にある北米先住民らが、ウラン鉱山開発や核廃棄物問題などによって、どのような負担や恐怖を強いられているのか……などを考えさせられます。
◆主な業種
(1)小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等
(2)大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
(3)官庁、自治体、公的法人、国際機関等
◆主な職種
(1)中学校・高校教員など
(2)総務など
◆学んだことはどう生きる?
ゼミ卒業生の進路は、一般企業・銀行・英語教員・地方公務員・大学院等進学など様々です。専門学問の知識が卒業後の仕事に直接活かされている例は、少ないかもしれません。しかし、ゼミでは自分で決めたテーマを1学期間研究し、最終的に研究発表会・レポート集で発表してもらう作業をしていますので、その作業で培った、課題発見力・分析力・タイムマネジメント・論述力・表現力は、社会人生活でも活かされていると考えます。
高知大学人文社会科学部は、人文学・社会科学の2つの学問系統を柱に、双方の教養をもとに現代社会の諸問題を考える力を培います。国際社会コースでは、複眼的な思考力を養うべく、3つの分野プログラムと3つの地域プログラムを掛け合わせた教育を実践しています。所属教員による共同研究も活発で、各教員の専門領域を超えて地域社会・国際社会について考える研究プロジェクトや講義・演習を継続的に行っています。
英語史で解きほぐす英語の誤解 納得して英語を学ぶために
堀田隆一(中央大学出版部)
高校生の皆さんは、なぜ英語を学ぶのか、英単語のスペリングはなぜ複雑なのか、なぜknightのkやenoughのgなど読まない文字があるのか、なぜ不規則動詞があるのか等、特に疑問に思ったり、説明されたりせずに英語の勉強に取り組んでいるかと思います。
この本では英語発展の歴史を紐解く中で、なぜ英語が国際語と呼ばれるようになったのか、なぜ文法の中に例外が存在するのかなどがわかりやすく説明されています。英語勉強の息抜きに読んでみてください。同様のアプローチの本で、より入手しやすい本に、『英語の謎 歴史でわかるコトバの疑問』(岸田緑渓、早坂信、奥村直史著、角川ソフィア文庫)もあります。
英語達人列伝 あっぱれ、日本人の英語
斎藤兆史(中公新書)
『武士道』の新渡戸稲造、『茶の本』の岡倉天心、『禅と日本文化』の鈴木大拙がこれらの著作を書いたのは、日本語ではなく、英語だったと知っていましたか?この本では、明治の知識人ら10人が、英語教育の方法論も確立されない時代に、どのようにして個々の努力で英語力を身につけていったかを伝記的に紹介しています。
抱擁(映画)
ニール・ラビュート(監督)
19世紀イギリス桂冠詩人の研究をしているアメリカの英文学者が、ロンドンの大学図書館で詩人の蔵書を調べていたところ、その中に詩人の手紙を発見します。それをきっかけに、詩人の秘められた私生活を解明していくという物語です。一つの本の研究をきっかけに、現代の研究者と19世紀の詩人とが世紀をまたいでつながっていくという、英文学研究・文献研究のスリルのエッセンスを味わえる映画です。