Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
オランダかインドネシア。インドネシアには2年間滞在し、調査を行いました。気候も人間関係も私には住みやすい環境でした。オランダは、ヨーロッパ全域の調査拠点として。両国の往復が理想です。
【美術史】
密教美術
インドネシア仏像1軀と出会い、密教美術の研究へ
伊藤奈保子先生
広島大学
文学部 人文学科 地理学・考古学・文化財学コース(人間社会科学研究科 人文社会学専攻 人文学プログラム)
密教 悟りとほとけへの道
頼富本宏(講談社現代新書)
密教について知りたければ、この本を入門書にすると良いと思います。仏教美術を対象とした実証的な調査は史実解明を目指すことに夢中になってしまいがちですが、信仰がまずあって、存在した尊像たちであることを決して忘れてはなりません。
仏教美術は単なる美術品ではなく、悟りを求める者に対する一指標を示すために具象化されたものであると思い起こさせてくれる一冊です。
インドネシア仏像1軀と出会い、密教美術の研究へ
金剛界大日如来が舞い込んできた
インドネシア出土「金剛界大日如来」1軀(体)との出逢いがなければ、世界に飛び出し、図らずも大学に籍を置く「今」の私はいなかったかもしれません。皆さんは、密教をご存知でしょうか。弘法大師空海が開いた真言宗の教えの中心であり、独特な智拳印を結ぶ仏像が「金剛界大日如来」です。
数年前は、この像は東南アジアにはない、と思われていました。ところが、私が以前勤めていた古美術商Gallery URにインドネシア出土の「金剛界大日如来」が舞い込んできたのです。調べるうちにどんどん好奇心が膨らみ、職を辞して、大学院へ進学。その後、科研費等による現地および欧米調査を重ね、推定制作年代8~12世紀頃の像をインドネシアで100軀(体)以上発見することができました。
イスラーム教のインドネシアに仏教(密教)が存在した
この事はインドネシアに密教が存在した可能性を示唆しています。この金剛界大日如来像と同様に、密教に属する尊像と儀礼に使用する法具(道具)を多数確認。残存する仏像や法具の存在から、現在約9割をイスラーム教徒が占めるインドネシアで、日本とほぼ同時期に仏教(密教)が信仰されていた可能性が残存する仏像の存在から導き出すことができました。
マレー半島、インドネシアの密教美術に関するこの研究は、当時の東南アジアでの密教の広がりや、その内容の一端を明らかにするとともに、海が世界をつなげ、人が信仰のもと、その先へと挑んでいった「思い」を知ることができます。私は時空を超えて、その道のりを追いかけているのです。
◆講義初回で話すこと
調査を行う際の注意点として、山口県周防大島出身の宮本常一のご尊父、善十郎の十か条を伝えます。平成元年(1989年)比叡山の早稲田大学仏教美術専攻女子学生事件を取り上げ、教訓としてお話ししています。また谷崎潤一郎『陰翳礼讃』必読書に挙げます。
◆主な業種
(1)県庁職員・市役所職員
(2)教員・学芸員
(3)酒蔵・ホテル業等
◆学んだことはどう生きる?
大分県の博物館の学芸員になった卒業生がいます。インドネシアやカンボジアなど2年間にわたり、東南アジア調査をともに行いました。ボロブドゥールでは3日間、一人で自由にテーマを設定し、調査・研究を行い、「仏伝図」を考察することにより卒業論文優秀者に選出されました。学芸員として博物館企画段階から開館まで関わり活躍しています。またもう一つの分野である工芸を専攻した学生で新聞記者になった卒業生もいます。客観的な観察と考察、専門的な知識をもって1つの事を懸命に追いかける姿勢は学生時代に培われたものと本人談。在学中に「街道をゆくから35年後の砥部焼の現状・ 愛媛文化の特徴について」で「司馬遼太郎フェローシップ」を受賞、広島大学学生表彰となりました。現在文化部を担当し、綿密な調査による記事作成に生かされていると思われます。
広島大学文学部文化財学分野では、現地に赴き、対象物の調査を行い、専門的な知識から分析、考察を行って新知見を導き出します。卒業論文は各自が在学中に実見、調査した内容から選び完成させています。
文化財学分野を学びますが、古建築、仏画、工芸の三分野による現地調査に学生は自由に参加できます。モノを実際に見て、専門的な知識から分析、考察を行い、新知見を導き出す。卒業論文は実見、調査した内容から選び作成します。この三分野が揃う文化財学は、現在のところ本学にしかありません。
コンタクト
カール・セーガン、訳:池央耿、高見浩(新潮文庫)
自分が追及する「何か」のためには、やり遂げる熱意と智恵が必要であると基本に立ち返らせてくれます。また文理一体による思考が、事象の理解を深めるものと教えてくれます。
クワトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国
若桑みどり(集英社文庫)
天正遣欧使節団を通して、当時の日本と世界の関わりを有機的、多角的に捉えています。歴史が一つの国単位の思考では収まらないことを教えてくれます。「プロローグ」にも心奪われます。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
オランダかインドネシア。インドネシアには2年間滞在し、調査を行いました。気候も人間関係も私には住みやすい環境でした。オランダは、ヨーロッパ全域の調査拠点として。両国の往復が理想です。
Q2.一番聴いている音楽アーティストは?
最近はスピッツ
Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?
『ゴッドファーザー』・『ガス燈』・『万引き家族』
Q4.研究以外で楽しいことは?
美味しいものを食すこと