【日本史】
江戸時代
実は行政も担った江戸時代の百姓。古文書からみえてきた
今村直樹先生
熊本大学
社会文化科学教育部 文化学専攻/永青文庫研究センター
刀狩り 武器を封印した民衆
藤木久志(岩波新書)
豊臣秀吉の刀狩りに関しては、百姓からすべての武器を根こそぎ取り上げる政策であり、その結果、百姓は非武装化されて抵抗の手段を失ったという理解が、一般的だと思います。
しかし本書では、刀狩り後の江戸時代の農村には厖大な武器が存在したこと、それにも関わらず百姓は武器の使用をかたく自制し続けたこと、戦前の日本には三世帯に一本の日本刀が存在したことなどの興味深い事実を明らかにしています。民衆の視点から江戸時代のイメージを変える、あるいは日本人の主体的な平和意識を考える上で、多くの示唆を与えてくれる一書です。
実は行政も担った江戸時代の百姓。古文書からみえてきた
古文書は意外と身近にある
江戸時代の古文書と聞かれたら、皆さんはどんな印象を持つでしょうか。「お宝」や「古臭い」といった印象でしょうか。おそらく、自分にとっては縁遠い存在だと思う方が大半でしょう。
しかし、インターネットで検索すれば、古文書の画像は簡単に見ることができます。文書館や図書館に行けば、古文書の原本を閲覧することも可能です。古いお家には、古文書が保管されている場合もあります。古文書は意外と身近にあるのです。
古文書が多く残る江戸時代は世界史でも珍しい
実は、江戸時代の日本とは、社会の各階層で多くの文書が作成され、それが長期間保存された、世界史でもユニークな存在です。
かつて江戸時代に対しては、武力と政治を独占する領主が百姓から過酷な年貢を収奪し、百姓に苦しい生活を強いたとする、政治的・経済的に停滞したイメージが持たれていました。しかし、古文書の解読に基づく実証的研究の進展は、長期平和状態の下で培われた江戸時代の政治と経済の発展が、その後の近代化の重要な基盤となった事実を明らかにしています。
百姓の自治活動の明治維新への影響を研究
私が勤務する熊本大学は、大名から百姓まで社会全階層の古文書約15万点を保管する、まさに江戸時代研究の宝庫です。私は、百姓たちが担った地域社会の自治や行政の活動について研究しています。百姓から選ばれた村役人たちは、独自の財源を管理し、社会資本の整備、貧民の救済、農村の復興などの公共的な機能を担っていました。彼らの活動は、いかに政治・経済の構造を変え、明治維新の変革に影響を与えたのか。この研究から、現代につながる市町村自治体の起源、社会的分業の単位であるローカルな地域社会の歴史性を解き明かしたいと思っています。
公益財団法人永青文庫が所有し、熊本大学附属図書館で保管されている永青文庫細川家文書(約5万8千点)の様子です。
この文書群には、江戸時代の百姓たちの自治活動に関する記録も多く含まれています。
2019年6月、市民向けの講演会での様子(第5回永青文庫所蔵古文書セミナー、於 日本女子大学)。
職場である永青文庫研究センターでは、研究成果の社会還元を活動の柱の一つとしており、多くの市民向け講演会を行っています。(公益財団法人永青文庫提供)
江戸時代とはなにか 日本史上の近世と近代
尾藤正英(岩波現代文庫)
なぜ江戸時代が長期的な安定を保ち得たのか、わかりやすく解き明かした著作です。歴史好きはもちろん、日本文化の特徴や日本人の心性に興味がある方にもおすすめできます。
織田信長
神田千里(ちくま新書)
織田信長=新時代を開拓した「革命児」という一般的なイメージを、根本から覆してくれる著作です。丹念な史料の読解にもとづいた先入観の否定という、歴史学研究の醍醐味を味わうことができます。