【環境動態解析】
雲の種となる微細粒子
20nmのナノ粒子一粒から、雲誕生のなぞに挑む
松木篤先生
金沢大学
理工学域 地球社会基盤学類(自然科学研究科 自然システム学専攻/環日本海域環境研究センター)
雲の中では何が起こっているのか 雲をつかもうとしている話
荒木健太郎(ベレ出版)
地球温暖化によって雲がどのように変化し、また気候に影響を与えるのかは、今もなお大きな謎のままです。雲がどのようにできるのか、大気エアロゾルの関わりも含めたその仕組みが、イラストも交えながらわかりやすく解説されています。
20nmのナノ粒子一粒から、雲誕生のなぞに挑む
雲生成には水蒸気が取りつく微粒子が必要
雲は地球に入ってくる太陽光の30%を宇宙に跳ね返す鏡のような役割をします。そのため雲の少しの変化や増減が地球の気候に大きな影響を与えます。そしてその雲ができるには、水蒸気が取りつく島となる微粒子(エアロゾル)の存在が不可欠です。
このような雲粒の種(雲凝結核)として働く粒子の多くは、空気中にわずかに存在するガス成分が素になって生まれます。
長年謎だった生まれたての雲の成分
しかし、生まれたての新粒子は直径が~数十ナノメートル(nm)しかないので、捕まえるのが非常に難しく(網の目をすりぬけてしまうイメージ)、うまく捕まえられたとしても量が少なすぎて分析できず、どんな成分でできているのか、長らく謎に包まれたままでした。
ユニークな実験を重ね、誰も手にしていない成果を
そこで、私たちは、粒子が雲粒の種になる性質を逆手にとって、(1)小さすぎるなら水で膨らませて雲粒にしてしまえば良い、(2)できた雲粒をそのままナノ粒子が溶け込んだミクロな試験管に見立てるというユニークな発想で、ナノ粒子分析の限界に挑みました。
試行錯誤を重ね、直径わずか20nmの粒子一粒に含まれるかすかな物質のピークを捉えた瞬間、実験を担当してくれた学生と共に、まだ誰も到達したことのなかった領域に初めて踏み込んだ興奮と研究の醍醐味を味わうことができました。
今後はさらにこのナノ粒子の捕集・分析技術を改良し、実大気への応用事例を増やすことで、エアロゾルが雲を介して与える気候への影響を明らかにしていきたいと考えています。
エアロゾルは、全体として地球大気を冷却する働きを持つと考えられていますが、特に雲を介してどれくらい地球温暖化を相殺しているかが明らかになっておらず、将来の気候変動を正確に予測する上での大きなハードルとなっています。
雲の種となるナノ粒子の生成プロセスが明らかになることで、その気候への影響の科学的な理解が進み、将来的な環境政策やリスク回避への提言につながります。
◆主な業種
(1)電気・ガス・水道・熱供給業
(2)建設全般(土木・建築・都市)
(3)自動車・機器
◆主な職種
(1)システムエンジニア
(2)中学校・高校教員など
(3)大学等研究機関所属の教員・研究者
金沢大学地球社会基盤学類の地球惑星科学コース(旧理学部地球学科)では、地球の内外で起こる様々な自然現象を、広大な時間的(数秒から数億年)・空間的(ナノ粒子から火星まで)スケールで理解するための教育・研究を行っています。
実際にフィールドに出て、直接目で学ぶことを重要視し、最先端の分析機器や解析手法に触れながら、大気、水、個体、生物が織りなす地球と環境に関する幅広い視野と知識を習得します。
微粒子が気候を変える 大気環境へのもう一つの視点
三崎方郎(中公新書)
新書では手に入らなくなっていますが、火山の噴火や化石燃料由来のエアロゾルが、いかに直接的・間接的に気候に影響を与えるか、その仕組みが詳しく解説されています。
空飛ぶ納豆菌 黄砂に乗る微生物たち
岩坂泰信(PHPサイエンス・ワールド新書)
大気環境の研究では、上空でなにが起きているのかを直接知る手立てとして、山岳域での観測や航空機・気球を用いた研究が行われます。黄砂にまつわる最新のトピックスについて、フィールド観測の臨場感とともにわかりやすく紹介されています。
不都合な真実(映画)
デイビス・グッゲンハイム(監督)
良くも悪くも情報が溢れている現代社会、さらにその先の未来を担う高校生の皆さんには、「なにが最も科学的に正しい知識か」を嗅ぎ分ける情報リテラシーが、かつてなく求められています。『不都合な真実』とその続編の『不都合な真実2 放置された地球』は、地球温暖化・気候変動に関する科学的な知識をわかりやすくまとめたドキュメンタリーです。
その内容もさることながら、アル・ゴア元米副大統領のプレゼンテーションが非常に良く練られていて、多くの聴衆に響く話し方、一般の人に最先端の科学を正しく伝えるサイエンスコミュニケーターとしての在り方の勉強になります。