【教育工学】
評価システム
学生の相互評価は信用できるか。適切な評価システムの開発
本村康哲先生
関西大学
文学部 総合人文学科 情報文化学専修
ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?
ダニエル・カーネマン、訳:村井章子(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
私の研究テーマの教育工学(教育改善のためにICTを含む諸技術を利用する学問)は比較的新しい分野で、これから実証されようとしている知見が多いです。このため、社会科学的な実証研究が今後必要になってくるのではないかと考えています。
「ファスト&スロー」を執筆したカーネマン自身は心理学者および行動経済学者で、人間の行動や意思決定を数理モデルと実験から解き明かそうとしました。こういった手法は、教育工学的な手法の有効性を評価するのに役立つのではないかと考えています。
学生の相互評価は信用できるか。適切な評価システムの開発
人は往々にして先入観で人を評価する
人を評価する際に、評価対象とは異なる別の情報を参考にして評価していることはないでしょうか。例えば、「あの子は勉強ができるから、きっと難しいパズルも簡単に解けるに違いない」とか、「スポーツが得意だから、走るのも速いだろう」とか。私たちは、対象とする事柄そのものよりも、別の手近な情報を探して評価することが多いのです。先入観というやつですね。
入試や就活があいまいな評価だったら
今、大学や高校などの授業では、グループワークが盛んになり、生徒・学生同志の相互評価(ピア・レビュー)が取り入れられるようになってきました。ところが、クラスメイトの評価が信用できないものだったとしたらどうでしょうか。一生懸命に書いたレポートの評価が、別の科目の評価の影響を受けているとしたら、やる気もなくなってしまいます。ましてや、それが成績に反映されるとなると、大問題です。
また、一生を左右する入試や就職活動の場面で、面接や小論文などの評価が、別の能力を参考に評価されているとしたら、どうでしょうか。そして、これらの評価があいまいな基準で行われているとしたら。私だったら、納得できません。
実験とデータ解析であいまいさをなくす
私たちの研究は、これまであいまいな基準や方法で行われてきた相互評価を、より妥当なものに近づけるために、ICT(※)を利用した手法を模索しています。コンピュータシステムを構築して実験を行い、データを解析しながら研究を進めています。
※ICT=Information and Communication Technology、情報通信技術。
評価の妥当性は、相互評価だけでなく、教師が生徒・学生を評価する際に、出自やジェンダーとは関係なく評価するという公平性を担保し、より質の高い教育を受ける機会の保証が期待できます。
◆1年次生向けの入門講義「学びの扉」では
計算機械として作られたコンピュータがどのような経緯を経て現在のパソコン、スマートフォンに至ったかについて、当時の社会背景とともに、その開発史についてお話しています。
◆主な業種
(1) ソフトウェア、情報システム開発
(2) 金融・保険
(3) 官庁、自治体
◆主な職種
(1) システムエンジニア
(2) 一般・営業事務
(3) 総務
◆学んだことはどう生きる?
卒業後に、教育系企業に就職し、後に大学へ転職した卒業生は、現在職員としてキャリア教育に従事しています。私の研究や専門教育がどのように影響したのかは不明ですが、もともと教育やキャリア開発に関心を持っていて、間接的に影響があったのかもしれません。
文学部教員の主な研究分野は、伝統的な人文学です。この中で、私の研究は異端かつ傍流なので、同僚との研究傾向とはまったく異なる方向にあります。
しかし、2006年に初年次教育に向けて執筆された教科書『知のナヴィゲーター』は、分野を問わないアカデミックスキルの習得を目的としたもので、学部内で多彩な分野の教員が参加して、一緒に研究と執筆を行いました。
知的生産の技術
梅棹忠夫(岩波新書)
情報産業の到来、タイピングスキルの重要性など、50年ほど前の論考にかかわらず、今でも参考になる知見が多数あります。私自身、高校生の時にこの本を読んで身に付けたスキルが、現在に至るまで生きています。
遠い空の向こうに(映画)
ジョー・ジョンストン(監督)
アメリカNASAのエンジニアの実話です。自分の意志を強く持つこと、チャレンジすること、様々な困難に出会っても、あきらめず立ち向かうことの大切さを教えてくれます。
モーターサイクル・ダイアリーズ(映画)
ウォルター・サレス(監督)
アルゼンチン生まれの政治家・革命家で、キューバのゲリラ指導者でもあったチェ・ゲバラの、若き日の自伝を映画化した作品です。若者が旅をして見聞を広めることは、社会と自分との接点を考えるきっかけになることを伝えます。