【地域研究】
抗議運動
ドイツに根付くデモの「抗議文化」
井関正久先生
中央大学
法学部
ベルリン・天使の詩(映画)
ヴィム・ヴェンダース(監督)
「壁」で分断されたベルリンで描かれたファンタジー映画。永遠の命を持つ天使が人間に恋をし、人間になるという物語で、人間になるとモノクロの世界がすべてカラフルになるところが、ミュージカル映画『オズの魔法使い』(米1939年)を彷彿させます。
「ベルリンの壁」のほかにも国立図書館、ポツダム広場、ビスマルクの時代に建てられた戦勝記念柱(ジーゲスゾイレ)など、西ベルリンを象徴するあらゆるものが登場します。小津安二郎に憧れたヴェンダース監督は映画の中で沈黙を重視し、和の雰囲気も漂う作品です。
この2年後に「ベルリンの壁」が崩壊したことを考えると、「ベルリンの壁」を描いた最後の大作と言えるかもしれません。
ドイツに根付くデモの「抗議文化」
「ベルリンの壁」崩壊直前にドイツへ
私は長年、ドイツの抗議運動を研究しています。1989年、大学2年生の時に初めてドイツに渡り、「壁」で分断されたベルリンを訪れました。この時すでに東ドイツから西ドイツへの大量出国が始まっていましたが、東ベルリンはまだ平静を保っていました。
しかし帰国して2か月後、「ベルリンの壁」は脆くも崩壊します。東ドイツ市民が国外脱出や街頭デモによって体制批判を行い、そのうねりは結果的に冷戦を終わらせる原動力となったのです。翌年ドイツの大学に留学することになり、10月に再びベルリンに赴いて、ドイツ統一記念式典を間近で見ました。
統一記念式典の裏では統一反対デモが
しかし私の関心は、華やかな式典よりも、その裏で繰り広げられた統一反対デモにありました。その時インタビューをしたデモ参加者が語っていた、早期資本主義化がもたらす弊害は、その後、現実のものとなります。私はその後もドイツに幾度となく渡り、多種多様なデモが日常的に行われているのを目の当たりにしてきました。
技術進歩によって抗議活動も変化
ドイツでは市民が街頭に繰り出し、抗議を通じて政治に参加することが、「抗議文化」として根付いています。近年、コミュニケーション技術の進歩に伴って運動スタイルに大きな変化があらわれ、対立する諸運動間においても戦術面で類似性が見られ、相互に影響を及ぼし合うようにもなってきました。様々な運動がひしめき合うドイツの事例は、これから日本が成熟した市民社会を築いていく上で参考になると思います。
1990年10月3日ドイツ統一をベルリン・ブランデンブルク門前で祝う市民の様子。
通常門の上にあるクヴァドリガ(四頭立て馬車)と女神ヴィクトリアの像は修復中だった。
(当日現地で井関先生が撮影)
東京大学 ドイツ・ヨーロッパ研究センター主催シンポジウムでの講演の様子
西部戦線異状なし
レマルク、訳:秦豊吉(新潮文庫)
実際に第一次世界大戦に出兵したドイツ人作家、レマルクが記した反戦小説です。戦争の無意味さ、悲惨さ、不条理さがとてもリアルに描かれていて、同タイトルの映画(米1930年)もあわせて観ることをおすすめします。
世界を揺るがした10日間
ジョン・リード、訳:伊藤真(光文社古典新訳文庫)
世界史好きの人におすすめ。ロシア革命について米国ジャーナリストが記したルポルタージュで、あわせて映画『レッズ』(米1981年)を観ることもおすすめします。時代が大きく動いているのを目撃し、それを世界に向けて発信するという意味では、どの時代の若者にも影響を与える作品だと思います。
会議は踊る(映画)
エリック・シャレル(監督)
世界史好きの人は必見のオペレッタ(ミュージカルの一種)映画。1814~15年のウィーン会議を描いたもので、ロシア皇帝アレクサンドル1世がメインですが、ホスト役のオーストリア外相メッテルニヒによる盗聴や検閲のシーンが有名です。ドイツ語の主題歌も一度聴いたら忘れられません。