【教育学】
海外の大学入試
記述問題や口述試験によるオーストリアの大学入試
伊藤実歩子先生
立教大学
文学部 教育学科(文学研究科 教育学専攻)
飛ぶ教室
エーリヒ・ケストナー、訳:池田香代子(岩波少年文庫)
ドイツの子どもたちや学校の文化が生き生きと描かれている、児童文学の傑作です。外国の文化や教育に興味を持っている人におすすめです。私も子どものころ、ケストナーの一連の著作を読んで、ドイツ文化圏に興味を持ちました。
記述問題や口述試験によるオーストリアの大学入試
資格を得れば60歳で大学入学も可能
私はドイツやオーストリアの大学入試改革について研究しています。
オーストリアの大学入試は、厳密には「大学入学試験」ではなく、後期中等教育修了資格試験です。後期中等教育(日本の普通高校に相当)の内容を修得したかどうかを試験し、合格すれば、「マトゥーラ」と呼ばれる資格が与えられます。この資格は生涯有効で、例えば、18歳で大学に入学せずに働き、60歳で大学に入学することも可能です。
では、そうした資格試験はどのように行われるのでしょうか。まず、学校で卒業論文とそのプレゼンテーションが課されます。生徒は、自分で課題を設定し、調査し、論文を書きます。
全国統一試験、一教科で5~6時間
次に、全国統一試験が、ドイツ語・数学・外国語で行われます。どれも長い記述問題を含み、5-6時間かけて行われるものです。こんなに長いので、当然、一日一教科です。
最後に、学校で口述試験が行われます。教科内容に関する問題を、5人の試験官の前で、口頭で答えます。口述試験も、2-3教科が必修です。
中世から続く伝統的な試験方法
この口述試験は、中世から続くヨーロッパのもっとも古い、伝統的な試験方法です。口頭で教科の内容の理解を説明したり、考えを述べたりする能力は、記述する能力と同様に重要な能力だと考えられています。
日本の入試制度とはずいぶん異なりますね。私は、こうしたオーストリア、あるいは広くヨーロッパでの大学入試を研究することで、次世代の日本の大学入試のあり方を検討したいと考えています。
遠い太鼓
村上春樹(講談社文庫)
村上春樹氏が海外で生活した時のエッセイです。本作以外でも、シドニーオリンピックを取材した記録『シドニー!』などのエッセイもおすすめです。外国の生活や文化に興味を持っている人は読んでみてください。時折出てくる、彼の学校に対する肯定的ではない考え方は、専門家として学校や教育を重要だと考えがちな私にとって、よい冷却剤となっています。
銀の匙(漫画)
荒川弘(少年サンデーコミックス)
農業高校の生徒たちが、生き生きと学校生活を送ります。進路の選択や、受験のプレッシャー、保護者との関係性なども、非常にリアルに描かれています。私の専門である教育方法学の視点からは、農業高校のカリキュラムが非常に興味深いです。
変動する大学入試
伊藤実歩子:編著(大修館書店)
ヨーロッパは、後期中等教育資格試験に合格しさえすれば、原則的にどこの大学のどこの学部にでも入学することができます。その試験の方法は、数時間かけて行われる記述試験、学校単位で行われる口述試験や論文型の試験などさまざまです。日本の一般入試のような一発勝負で大学進学が決まる国はありません。具体的には、フランス・ドイツ・イタリア・オーストリア・スウェーデン・オランダ・イギリスの大学入試を取り上げ検討しています。暗記型、一発勝負型というイメージがある日本の大学入試の課題を、ヨーロッパの大学入試改革から相対化します。