【理論経済学】
共同体メカニズム
市場でも政府でもなく、共同体がこれからの経済の中心に
大垣昌夫先生
慶應義塾大学
経済学部 経済学科(経済学研究科 経済学専攻)
予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
ダン・アリエリー、訳:熊谷淳子(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
「頼まれごとならがんばるが、安い報酬ならやる気がうせる」というような、興味深くわかりやすい現実の例や実験研究の説明から、最先端の経済学である行動経済学に触れることができます。
市場でも政府でもなく、共同体がこれからの経済の中心に
市場で物を買える仕組みと行政が配給する仕組み
トイレットペーパーの売り切れというニュースが流れ、店に急いだけれども手に入らず、家にも買い置きがなかったらどうでしょう。フリマアプリだと、高い価格ではあるが買うことができるなら嬉しいかもしれません。
このように人々の求める物の価格が上がって、待たなくても買える仕組みを市場メカニズムと呼びます。それに対して政府が多くのトイレットペーパーを買い上げて全世帯に配る場合は公共メカニズムと呼びます。
現代経済学では、市場メカニズムと公共メカニズムに焦点を当てて研究してきました。
家族や親族などが助け合うメカニズム
しかし、例えばお祖母さんが震災などの経験から、自分のため、また親戚のためと思い、生活必需品をできるだけ買い置きしておき、孫のあなたたちにその中のトイレットペーパーを送ってきてくれたとします。
これは家族や親族が助けあう共同体メカニズムが働いています。でも、たしか「買いだめ」はいけないのでは、という考えが浮かびます。しかし、お祖母さんが、まだ品物が豊富な時に買い置きしたのは、誰かに迷惑をかけたのでしょうか。
ノーベル経済学賞の「行動経済学」で分析
私たちは行動経済学という2002年以降、ノーベル経済学賞を受賞し始めた新しい経済学を使って、共同体メカニズムが市場メカニズムと公共メカニズムとともにどのように働いているのか、また、働くべきなのか、を研究しています。
これまで経済学や常識で、「こうすべきではない」と考えられてきたことが、本当はむしろすべきことであることがわかってきたりします。
これから日本や多くの国々では、ますます少子高齢化が進んでいきます。高齢者の中には認知症になる方々もおられるし、そうでなくとも認知能力が衰え、一人では有効に市場メカニズムが使えなくなっていくでしょう。
労働市場への男女共同参画の重要性も増しますが、一人では市場メカニズムが有効に使えない幼児のための保育の重要性も大きくなります。公共メカニズムは、少子高齢化で政府財政が悪化するため、発動がますます困難になります。
少子高齢化社会の様々な問題を克服していくには、共同体メカニズムの活用が必要であり、そのために有効な教育方法など、様々な面での貢献が可能であると思います。
2017年に、ノーベル賞経済学賞受賞のリチャード・セイラ―は著書の『行動経済学の逆襲』(早川書房)で、新しい経済学である行動経済学が、なかなかアメリカの主流派の経済学者たちに受け入れられなかった様子を書いています。
日本での行動経済学に関する様々な学部の動向を見るひとつの指標として、行動経済学会の理事の2019年末の所属大学を見ると、17人の理事のうち12人が名古屋以西の大学に所属しています。東京大学の理事は1人で工学系研究科所属であるのに対し、慶應義塾大学経済学部所属の理事が2人です。
これからの「正義」の話をしよう
マイケル・サンデル、訳:鬼澤忍(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
何が正しいことなのか、という倫理観には、いろいろな見方や考え方があることを高校生に学んで考えてみてほしいです。
君の膵臓をたべたい
住野よる(双葉文庫)
実写版の映画を娘と一緒に見る機会があったのですが、原作は未読です。人と共同体メカニズムで関わるのは大変なことである場合も多いですが、貴重なことでもあるということを、物語を通じて考えてみてほしいです。
NARUTO
岸本斉史(ジャンプコミックス)
現実に世界に起こっているテロと報復の憎しみの連鎖を考えると、「敵を愛す」ということしか、本当の解決はないのではないでしょうか。このことについて、深く感じたり考えたりすることのできる漫画です。