Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
経済学。でも、ほとんど経済学の勉強はしないと思います。経済学を選んで良かったと思ったのは大学院に入ってからです。
【理論経済学】
不確実性
確率では計算できない、現代社会の不確実さのマネージメント
尾崎裕之先生
慶應義塾大学
経済学部 経済学科(経済学研究科 経済学専攻)
ウィトゲンシュタインはこう考えた 哲学的思考の全軌跡1912~1951
鬼界彰夫
「言語ゲーム」に代表される難解と言われるウィトゲンシュタインの思考の変遷を、非常に平易に解説しています。彼の思想そのものを知ることよりも、むしろ、哲学を生業とした人間が、それこそ命がけで物事を考え尽くすという作業がいったいどういうことなのかを知る上で、研究分野を問わず、「考える」ことを職業とする人には是非読んでもらいたい本です。
確率では計算できない、現代社会の不確実さのマネージメント
私たちの生活は不確実性に満ち溢れている
現代社会、あるいはもっと身近に、日々の私たちの生活は不確実性に満ち溢れています。例えば、大学進学を考えている高校生の皆さんにとって、どの科目をあとどれだけ勉強すれば志望している大学に入れそうか、といったことから、大学卒業後、どのような職種に就けば充実した毎日が送れそうかといったことがらは、その時々の自分の体調(心の状態)や社会状況に大きな影響を受け、さらに、その体調や社会状況自体、今後どのように変化するか、確実なことは何一つ言うことは出来ないと考えるのは、きわめて自然なことでしょう。
逆に言えば、この世界に確実なことはほとんどないと言ってしまっても過言ではありません。このような不確実性とどのように付き合っていくか、すなわち、「不確実性マネージメント」の重要性はいくら強調しても、強調しすぎることはありません。
コロナ禍も含め、圧倒的に増えた「不確実性」
人類は(例えば、朝、傘を持って出かけようかどうしようか、という不確実性に対処するために)降水確率という「思考装置」を発明しました。紙幅の関係で割愛せざるを得ませんが、「確率」という考え方にはそれなりの正当性があります。
しかし、現代社会が直面している不確実性は実に深いところに根ざしていて、リーマンショックの時のように、確率計算を駆使することによって何とかなるものとは本質的に異なる、本源的とも言うべき不確実性の方が圧倒的に多いのは偽りのない事実です。2021年現在進行中のコロナ禍を考えても、それはわかると思います。
私の研究テーマはまさしく、この本源的不確実性です。比較的新しい研究分野で、このテーマで博士論文を書いた頃は、ここまで大きな研究分野に成長するとは想像すらしていませんでした(これも本源的不確実性です)。完全な自画自賛ですが、この分野のパイオニアの一人と目されていることは、ワクワク感をはるかに通り越してしまい、今は責任の重さから胃痛に悩まされる日々を送っています。
気候変動や地球温暖化の抑止の問題が困難であることの一つの要因として、原因と結果の因果関係に関する、本源的不確実性があります。例えば、どれだけ温室効果ガスの排出削減を行えば、どれだけの温暖化抑止効果があるのかは、いまだに単なる確率計算では解答を得られない本源的な不確実性に属する問題です。このような本源的不確実性が存在するのに、果たして国際協調がスムーズに行われるのかについては、最近研究が始まったばかりです。私もこの問題に関する共同論文を専門的な学術誌に掲載したばかりですが、まだまだ克服案を得るには至っていません。本源的不確実性とゲーム理論の融合による、さらなる研究の進展が望まれています。
◆先生が心がけていることは?
SDGsを特別なものとして意識しないこと。
◆ゼミで学生に勧めること
何でも良いのでなるべく多くのことに(特に経済学以外のことに)興味を持つことを強く学生に勧めています。自分自身の経験からも、経済学を本気で研究したいと思うかどうかは、その上でおのずから決まってくると思います。本格的な経済学の勉強・研究は大学院からでも全然遅くありません。
◆主な業種
(1) 金融・保険・証券・ファイナンシャル
(2) 法律・会計・司法書士・特許等事務所等
(3) コンサルタント・学術系研究所
◆学んだことはどう生きる?
慶應には10年以上おりますが、(就職状況が良いせいか)研究者に進む学生はおらず、金融系に就職する学生が多いようです。残念ながら、彼らが特段、私が教えた経済学を武器として活躍しているという話はほとんど耳にしません。
慶應義塾大学経済学部は、非常に広い範囲に亘る研究分野(広義の意味での経済学)の専門家が大勢いますので、学生にとっては多岐に渡る専門分野の選択肢が用意されていることが特色ではないでしょうか。裏を返せば、特段、層の厚い研究領域がないということになります。
予告された殺人の記録
G. ガルシア=マルケス、訳:野谷文昭(新潮文庫)
コロンビアというあまり日本に馴染みがあるとはいえない南米の国で、これほどの小説(ルポルタージュ)が書かれたことを知ることは、読者に、学問にとって一番重要な「驚き」をもたらしてくれるはず。どなたにでも推薦できます。
伝奇集
J.L.ボルヘス、訳:鼓直(岩波文庫)
ガルシア=マルケスと同じ理由(ボルヘスはアルゼンチン)。加えて、「信頼できない語り手」という、最先端の文学論を知るには格好の一冊。すべての人にとって必読だと思います。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
経済学。でも、ほとんど経済学の勉強はしないと思います。経済学を選んで良かったと思ったのは大学院に入ってからです。
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
やはり日本が良いです。9年間、アメリカ・カナダで生活しましたが、学問・教育水準以外の生活面では、日本が断然良いです。
Q3.熱中したゲームは?
負けるのがいやなのでゲームは一切しませんが、囲碁と将棋のロジックについて議論するのは大好きです(当然ルールは熟知しています)。
Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?
ユニークではありませんが、楽しかったのは軽井沢のペンション村にひと夏丸々住みこんで、管理・運営に携わったこと。
Q5.研究以外で楽しいことは?
映画、クラシック音楽、ミステリー小説、旅行、ピアノ少々。