【経済政策】

ネットワーク

コロナ後の経済再生には、「よそ者」とのつながりがさらに大事に

戸堂康之先生

 

早稲田大学

政治経済学部 経済学科(経済学研究科 経済学専攻)

 

 出会いの一冊

国際協力ってなんだろう 現場に生きる開発経済学

高橋和志(岩波ジュニア新書)

開発経済学における日本の代表的な研究機関であるジェトロ・アジア経済研究所の研究者たちが、オムニバス形式で多様なトピックについて書いています。高校生でも十分に読めるようになっています。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

コロナ後の経済再生には、「よそ者」とのつながりがさらに大事に

現在、ネットワークについての研究が盛んに

皆さんはどんな友だちがいますか。多分、同じクラスやクラブにたくさん友だちがいますよね。でも、小学校の同級生で今は別の学校に行っている友だちだとか、インターネットで知り合ったけど会ったこともない友だちもいるんじゃないでしょうか。

 

このように、人間は様々な形でつながりあって、ネットワークを形成しています。今、こういったネットワークがどうやって形成され、どのように人間社会に影響しているのかについての研究(ネットワーク科学といいます)が盛んになっています。

 

世界中の企業がどうつながれば利益が上がるか

 

私は経済学にネットワーク科学の考え方を取り入れて、人や企業のネットワークがどのように経済の発展や強靭さに影響するかについて、データ分析によって研究しています。

 

例えば、エチオピアなどの開発途上国の農村で、農民の人々がどのようにつながりあっていたら、その村で農業技術が普及して、貧困が軽減されていくのか。もしくは、世界中の企業がどのようにつながっていれば、利益を上げて発展できるのか、震災やコロナの被害を最小限に抑えることができるのか。

 

わかってきたのは、最初に書いたような、仲間と信頼関係を持って強くつながりながら、あまりなじみのない「よそ者」ともつながっていることが、経済の発展や強靭性に効果的だということです。

 

コロナ後の世界では分断が深刻化する恐れ

 

よそ者とのつながりの最たるものはグローバル化です。外国の人とつながることで、国内では得られない情報や知識を得ることができるので、人も企業も成長できるのです。

 

でもなかなか外国人とつながるのは簡単ではありません。特に今は、コロナの影響で世界中に外国人に対する警戒感や差別が広がっています。コロナ後の世界では、世界の分断が深刻化するかもしれません。

 

これは、もともと人間が20万年前に誕生してからごく最近まで、小さな集団で強くつながって外敵に対抗してきたことの名残です。もともと人間にはよそ者を排除したがる気持ちが備わっているのです。

 

もっとよそ者とつながる冒険心を持つために

 

でも同時に、人間はよそ者とつながることでも発展してきました。ネアンデルタール人が絶滅して現生人類が生き残ったのは、私たちの祖先が、小集団で固まりながらも広い範囲で集団同士のネットワークを作っていたからだという説もあるのです。

 

つまり、人間にはよそ者を排除する排他性とよそ者とつながろうとする冒険心とがせめぎあっています。でも、人間がさらに発展していくためにはもっと冒険心を持つ必要があります。

 

今、私は、どうして人間が冒険心を持ちにくいのか、どうやったら冒険心を持てるようになって、世界がもっと豊かになれるのかを、いろんなデータを使って分析しています。ぜひ、皆さんもコロナショックを乗り越えて、冒険心を持って世界に羽ばたいていっていただきたいですね。

 

インドネシア・スマトラ島での農村調査の様子。左のサングラスの男が私です。
インドネシア・スマトラ島での農村調査の様子。左のサングラスの男が私です。
 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

私の研究では、開発途上国の貧困を削減するため、災害に対して強靭な社会・経済を作るために、日本の経済・社会が持続的に発展していくためには、どのような社会ネットワークの構築が必要かをデータで示しています。その結果に基づいた提言を、政府や国際機関、新聞雑誌やインターネット媒体などに発信しています。

 

 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「多層なネットワークの相互作用とその経済への影響-単一ネットワーク分析を越えて-」

詳しくはこちら

 

 どこで学べる?

「経済政策」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

18.社会・法・国際・経済」の「75.経済学、農業経済・開発経済」

 


 先生のゼミでは

◆研究を指導する際は

 

独創的なテーマを考え出す創造力、そのテーマを分析するための情報を収集する力、データをエビデンス(証左)として示す分析力、導かれた結論を明瞭に示す発信力を鍛えることを目標として掲げています。そのためにまずは自分の興味のある英語文献を探し出し、その概要を発表させます。それを繰り返して研究テーマが決まれば、データを探させ、分析をさせます。

 

その際、自分で調査を行ってデータを収集したりインタビューをしたりするためのフィールドワークを推奨していて、場合によっては私自身の研究のフィールドに同行させます(これまで、インドネシアとエチオピアに調査旅行を行っています)。調査旅行では、現地の大学で学生自身による研究発表も行います。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
韓国4大学、日本5大学で毎年行っている学生による研究発表大会での戸堂ゼミ学生の発表の様子(延世大学にて)。ここで発表した論文はインドネシアの中小企業データを基にしたもので、早稲田大学政治經濟學會論文コンクール佳作を受賞しました。
韓国4大学、日本5大学で毎年行っている学生による研究発表大会での戸堂ゼミ学生の発表の様子(延世大学にて)。ここで発表した論文はインドネシアの中小企業データを基にしたもので、早稲田大学政治經濟學會論文コンクール佳作を受賞しました。
インドネシアでのゼミ生の研修旅行で、地方都市の中小企業を訪問した時の様子。
インドネシアでのゼミ生の研修旅行で、地方都市の中小企業を訪問した時の様子。
 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

 

(1) 金融・保険・証券・ファイナンシャル

(2) コンサルタント・学術系研究所

(3) 商社・卸・輸入

 

◆主な職種

 

(1) 経営・会計・財務、金融・ファイナンス、その他会計・税務・金融系専門職

(2) コンサルタント(ビジネス系等)

(3) 事業推進・企画、経営企画

 

◆学んだことはどう生きる?

 

私のゼミでは、実証分析の研究を通じて、興味深く独創的なテーマを考え出す創造力、そのテーマを分析するためのデータや事例を集める情報収集力、データを使ってエビデンス(証左)を示す分析力、導かれた結論を明瞭に、日英両語で文章や口頭発表で示す発信力を鍛えることを目標としています。これらの力は、いかなる業界でも通用するものです。

 

ですから、ゼミの卒業生の進路は多彩です。金融、商社、コンサルティングなどが多いですが、製造業に就職する人もいます。いったん就職した後に、大学院に入り直して国際機関への就職を目指している人もいます。

 

 先生の学部・学科は?

もともと日本の経済学部には、世界の経済学研究・教育の潮流から外れてしまっている教員が多くいました。しかし近年になって世代が変わり、海外で博士号を取った教員や外国人教員が増えたことで、一部の大学では急激な変化が起き、研究・教育内容に劇的な改善が見られます。早稲田大学もその一つで、現在では世界的な研究を行っている教員も多く、またそれをベースとした質の高い教育が行われています。

 

研究業績を基にしたあるランキングでは、早稲田大学は東大、政策研究大学院大学(大学院のみ)、神戸大、慶應大についで第5位となっています(大学ではない研究機関を除いています)。また経済学だけではなく、政治学でも世界レベルの教員が増え、学際的な教育を受けられるところが大きな魅力となっています。

 

 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

データ・サイエンス

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

オーストラリア。都会で働いていても自然が身近にあるから。

 

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

Perfume。特に『無限未来』。

 

Q4.感動した映画は?印象に残っている映画は?

最近では『キングダム』。これまでの人生の中では『ルパン三世カリオストロの城』。

 

Q5.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 六本木の居酒屋の厨房