【ヨーロッパ史・アメリカ史】
エストニア
巨大なロシアの隣で、小国エストニアはどんな国になったのか
小森宏美先生
早稲田大学
教育学部 教育学科 社会科 地理歴史専修(教育学研究科 社会科教育専攻)
マルク・ブロックを読む
二宮宏之(岩波現代文庫)
この本はマルク・ブロックの本の読み方を教えてくれるだけでなく、歴史を深く理解するためのお手本になる本だと言って間違いありません。
ブロックはアナール派の中世史家として有名であると同時に、ナチスに対するレジスタンス活動の中で命を落としたことでも知られています。その生き方や考え方が、歴史理解や研究態度にどのようにつながっているのか、命をかける価値のあることとは何なのかを考えさせてくれます。
巨大なロシアの隣で、小国エストニアはどんな国になったのか
IT産業やIT技術が発達したエストニア
「人と違うことがしたい」、これが私のモットーです。生まれつきのあまのじゃくな性格もありますが、人と同じ土俵で競争するのは嫌だという怠け者モードから出ている発想です。
エストニアという国を知っていますか。最近はITで有名な国になりました。エストニアでなぜこれほどIT産業やIT技術が発達したのでしょう。
天然資源にも恵まれず、人口も少なくて、隣にあるロシアという大きな国が常ににらみをきかせている。そんな状況と、そしてこのロシア(20世紀中はソ連)の一部だったという歴史が関係しています。
こうした状況や歴史の中で育まれたエストニアの個性は、IT分野以外でも発揮されています。その知られてない国の個性を歴史の中で見つけるのが私の研究です。
権力分有の制度が、小国に存在した
近年、いろいろな分野で「多様性」が求められています。国家は多様な人々から成り立っており、日本も例外ではありません。この多様な人々がうまくやっていくための考え方の一つが権力分有なのですが、これまで注目されていなかったエストニアのような小国に、意外にもその制度があったのです。
歴史学とは、過去について知るだけでなく、現在の社会を別の角度から見直すための材料を実際にあったことの中から見つけ分析する学問だと言えます。
エストニアの独立記念日の様子。
この日は、早朝に国会の中庭に人々が集まり、国歌斉唱をしてから夜までいくつもの式典が続きます。
(上)ラトヴィアのとある学校で、ラトヴィア語とロシア語のバイリンガル教科書を使う算数の授業の様子。
(下)使われている教科書。1冊の中に、キリル文字とラテン文字(普通のアルファベット)が並んで使われています。
民族という虚構
小坂井敏晶(ちくま学芸文庫)
民族や人種といった、私たちが当たり前だと思っている人間を分ける考え方が虚構(小説や映画のようなフィクション)に過ぎないこと、にもかかわらず、それが私たちにとって制度として影響を与えたり、リアルに感じられたりするのがなぜなのかを様々な事例を挙げて説明してくれています。
ナショナリズムとは何か
アントニー・D.スミス、訳:庄司信(ちくま学芸文庫)
スミスはナショナリズムの理論家の中でもなかなか難物なのですが、文庫として手軽になったこの本に、ぜひ挑戦してみてください。
これまでのナショナリズム論が網羅的に分析されているだけでなく、スミス独自の考え方が示されています。一つのことを論じようとするだけで、こんなにも膨大な研究書・論文を読まなければならないのかと、その研究姿勢に感動します。
否定と肯定(映画)
ミック・ジャクソン(監督)
映画なのでネタバレになることは書けないのですが、「真実」をいかに証明するかという点で、裁判と歴史研究には共通点と相違点があり、それがこの映画では緊張感をもって描かれています。
共通点は、「真実」を見つけるためには、可能な限りのあらゆる方法で自ら証拠を集めなければならないということです。実話なので登場人物も実在していますが、歴史家のリチャード・エヴァンズが法廷で語るシーンには、「実際にあったことの真偽について私たちは合意できる」という、エヴァンズの歴史家としての信念が感じられるはずです。エヴァンズの『歴史学の擁護 ポストモダニズムとの対話』(晃洋書房)を合わせて読むこともおすすめします。