【免疫学】
よくグリップする細胞の“タイヤ”タンパク質「インテグリン」から、体の感染防御メカニズムがわかる
島岡要先生
三重大学
医学部 医学科(医学系研究科)
生体がどのようなメカニズムで感染症を防御するか、細菌やウィルスを殺すために免疫細胞が体内でどのように動き回るのかを解明しています。具体的には、「インテグリン」と呼ばれるタンパク質に着目し、研究を進めています。
インテグリンは、細胞が活発に動き回るための駆動力を伝える“タイヤ”として機能し、細胞と臓器とのコミュニケーションをスムーズに進める機能を持っています。また、細胞器官の組織形態維持を助けるとともに、細胞間における物質輸送をも可能にしている、マルチなタンパク質です。
体に異常が起こると、グリップ力が過剰に強くなる
インテグリンは路面によくグリップ(接着)するタイヤとして働くので、細胞接着分子と呼ばれます。普段はそのグリップ力(接着性)は柔軟にコントロールされていますが、体内に炎症性疾患や免疫疾患が起きると、グリップ力が過剰に強くなります。その結果、免疫細胞が特定の臓器で過剰に集積し“渋滞”することにより、炎症が起こります。
また、がん細胞はインテグリンのグリップ力を、離れた臓器への転移に使います。このことから、インテグリンの接着分子システムの機能が明らかになれば、感染症に対する生体防御のメカニズムや、がん転移の際に細胞がどのような動きを見せるかを、解明することにつながります。
一般的な傾向は?
●主な業種は→医師、研究者
●業務の特徴は→アカデミック
分野はどう活かされる?
大学教授、研究者、医者、企業研究者など、免疫制御のメカニズムに関する知識や、研究手技、論理的思考法、英語力を生かして、ヘルスサイエンス分野でのキャリアを形成しています。
大学院生の半分は海外からの留学生で、私自身米国で10年以上大学教授として過ごしましたので、研究の議論や指導は毎日すべて英語で行っています。一人ひとりがインテグリンと細胞間コミュニケーションに関連した、独立した研究テーマを探求するプロジェクト・ジュニアリーダーになります。原著論文だけでなく、総説論文執筆の指導も行い、俯瞰した知識を学生が身につけられるように配慮しています。
知的好奇心に導かれて、一つのテーマを深く掘り下げて探求するプロジェクトのリーダーや、ジュニアリーダーとして切磋琢磨することは、とても楽しいことであると同時に、仕事力が高まり自己成長につながります。
【テーマ例】
・免疫細胞は、どのようにして体内を動き回り、目的の臓器をパトロールするのか。
・感染症が起こると、各種免疫細胞はどのようにして感染部位にたどり着くのか。
・血管内を流れる免疫細胞は、いかにして血管の外側へ移動するのか。
・インテグリンを先天的に欠損する疾患「白血球接着不全」は、患者さんの症状はどのようなもので、どのような治療法が考えられるだろうか。
研究者の仕事術
島岡要(羊土社)
研究者という仕事を通じて、いかにキャリアパスを意識し、社会に貢献するかをまとめている。研究者として仕事をするための幅広い心構えや、研究に限らずプレゼンスキルやマネジメントスキルなどの、スキルアップのコツなども説明している。
ファスト&スロー
ダニエル・カーネマン 村井章子:訳(ハヤカワ文庫NF)
ノーベル経済学賞を受賞した心理学者が、行動経済学をもとに身近な例を数多く提示しながら解説する。行動科学の原理を理解することは、自らを良くコントロールすることにつながる。直感(ファスト)と熟慮(スロー)のそれぞれについて、考えるきっかけとなるだろう。
病の皇帝「がん」に挑む 人類4000年の苦闘
シッダールタ・ムカジー 田中文:訳(ハヤカワ文庫NF)
がんは、4000年前の古代エジプトからの記述にも残る病気だ。その頃から研究者たちとがんとの闘いは始まっていたのだ。ピュリッツァー賞やガーディアン賞など、数々の賞を受賞したこの本は、がんや、がんの免疫療法の歴史を記したノンフィクションだ。 (2016年に「がん-
4000年の歴史-」と改題され再刊)
NOVA
PBS.org
米国の科学ノンフィクション番組。日本語訳はされていないが、サイト上で見ることができる映像もある。様々な科学テーマに沿った短い番組が、幅広くかつ数多く掲載されており、一つひとつのクオリティが高い。
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