【細菌学(含真菌学)】
腸管出血性大腸菌O157の病原性解明に取り組む
清水健先生
千葉大学
医学部 医学科(医学薬学府 医科学専攻)
毎年7月のはじめ、気温が急上昇するころ新聞報道などで大きな話題になるのが、病原性大腸菌による感染症です。病原性大腸菌とは、特定の疾病を起こす大腸菌株の総称ですが、中でも猛威を振るうものにO157があります。
O157は、100人を超える規模の食中毒をたびたび発生させることがあり、先進国で問題となっています。O157は下痢原性大腸菌の一つで、保有している遺伝子により産生される毒素は異なりますが、重篤な中毒症状を起こす志賀毒素が有名です。このような病原細菌による感染症の予防法や治療法を開発するために、病原細菌の病原性や薬剤耐性機構などを解明する学問が細菌学です。
志賀毒素の産生のメカニズムを探し出せ!
私は一貫して下痢感染症の起因菌である、腸管出血性大腸菌O157の病原性を解明することに取り組んできました。特に、O157が菌体外に分泌する志賀毒素の産生機構や、分泌機構に関して報告を行っており、近年は一酸化窒素還元酵素の病原性への関与に関する解析も行っています。
この酵素は殺菌物質である一酸化窒素を消去する働きがあるほか、O157のような病原細菌の貪食細胞内での生き残りに関係しており、腸管出血性大腸菌の高い病原性に関与する重要な因子と考えられています。腸管出血性大腸菌の病原性発現機構を解明することによって、この感染症の予防法や治療法の開発の進展が期待されます。
「細菌学(含真菌学)」が 学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)
その領域カテゴリーはこちら↓
「9.基礎医学・先端医療バイオ」の「33.免疫、細菌等基礎医学(放射線等健康・生態系影響を含む)」
一般的な傾向は?
●主な職種は→研究者、医師、薬剤師、検査技師
分野はどう活かされる?
研究している細菌学や感染症学が、実際の業務と直結していること。
千葉大学医学部は総合大学の強みを生かして細菌、ウイルス、寄生虫などの感染症に対して、非常に多くの研究成果を挙げています。さらに真菌センターや免疫学教室との連携も行なっています。
まずは自分の興味を見つけること。それが見つかったら、自ずから道は見えてくる。
自分の常在菌を見てみよう。
細菌の逆襲 ヒトと細菌の生存競争
吉川昌ノ介(中公新書)
本書はヒトと細菌の長い生存競争のなかで編み出された、相互の巧妙な攻防の体制を紹介しながら、多くの疫病の発生を考察し、さらに抗菌剤への過信と濫用の結果生じたMRSAなどの耐性菌の、驚くべき実情と対策に言及している。この本を読むと、相当のレベルの細菌感染症の知識が身につくだろう。
細菌学の研究者にも勉強になるほど非常に詳しく書かれている一方で、一般の人でも理解が可能なように興味深く書かれているため、多くの人が書店で購入していた。高校生にとってはまだ難しいところはあるが、現在のネット環境であればその都度調べて理解していくことは可能だろう。
銃・病原菌・鉄
ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰:訳(草思社文庫)
本書は今日においても存在しているヨーロッパ、アジア、アフリカ、南北アメリカやオーストラリアなどの地域間格差がどのように生じたのかを、地域の植生や動物相の分布などの客観的なデータと、それに基づいた論理的な思考によって考察している。地域間格差の原因が人種の優劣などではない考え方は新鮮であり、ある事象を考える上で新しい視点の重要性がわかると思う。本書は上下巻構成の比較的長い本ではあるが、読めば必ず何かしらの感銘があり、今後の自分の思想形成に影響を与えるであろう。