【創薬化学】
21世紀に注目を集める中分子医薬品
大庭誠先生
京都府立医科大学
医学部 医学科(医学研究科 医科学専攻)
医科大学にある化学教室という珍しい環境を武器に研究を行っています。有機化学・合成化学を基盤にモノを作り、生命科学・基礎医学を取り入れて細胞や動物を用いた機能評価を行い、病気の予防・治療が可能な医薬品や研究ツールとして使える技術の開発を目指しています。
創薬化学は、薬の元となる化合物を創る(創薬)研究分野です。ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村先生の研究では、微生物から薬を探索していました。そのような天然の化合物をシーズ(種)に、より薬物活性の高い化合物になるように化学修飾等を施して、薬の開発へとつなげます。
最近は、20世紀の医薬品の中心を担ってきた低分子医薬品、21世紀に入り著しく成長してきたバイオ医薬品に続く第三の医薬品として、中分子医薬品(分子量が500〜5000程度の化合物)が注目を集めています。特に、抗体などのタンパク質よりもはるかに小さなオリゴペプチドや、マイクロRNAに代表されるオリゴ核酸を創薬へつなげようとする研究が、活発に行われています。
オリゴペプチドによる創薬で不可能だった病気の治療可能に
私の研究テーマは、オリゴペプチドを用いた創薬ツールの開発です。医薬品の対象として近年、中分子のオリゴペプチドが注目を集めていますが、その大きさは、低分子医薬品とバイオ医薬品の間に位置しており、両医薬品の長所を兼ね備えています。すなわち、低分子医薬品のように取り扱いやすく、低コストであると同時に、バイオ医薬品のように高機能です。
したがって、私が追求しているテーマが達成されれば、既存の医薬品では不可能だった病気の治療が可能になり、またバイオ医薬品が圧迫している国民健康保険制度をも変える可能性を秘めています。
一般的な傾向は?
●主な業種は→医療業、化学工業
●主な職種は→研究、営業、公務員
分野はどう活かされる?
製薬会社における医薬品の研究開発
創薬化学は非常に幅広い分野が融合してできています。「薬」がキーワードになっているので薬学部をまずは思い浮かべると思います。しかし、「薬」を作る(合成する)のが得意なのは理学部や農学部であったり、「薬」の材料を開発するためには工学部の知識が必要であったり、「薬」を使う(処方する)ためには医学部で学ぶ必要があったりします。
また高校で学ぶ教科としても、化学、生物、物理、数学、英語の知識が重要になります。創薬化学という山の山頂に到達するためには様々なルート(学部や教科)があり、薬学部を経由するのが王道のルートかもしれませんが、自身が得意とするルートを用いて到達するのも面白いと思います。
高校の化学で取り扱っている有機合成の知識を活用した、新規化合物の化学合成。『有機化学が好きになる』を読んでみるのも良いかもしれません。創薬そのものを取り扱っている本ではありませんが、身の回りにある有機化合物について物語形式で書かれているために、非常にわかりやすいです。著者が高校の先生ということもあり、高校生でもわかるような言葉で説明されています。
有機化学が好きになる ”カメの甲”なんてこわくない!
米山正信、安藤宏(講談社ブルーバックス)
創薬そのものを取り扱っている本ではないが、薬の大半が有機化合物であることから、薬自身ならびに創薬について知る上で、基本となる知識を習得できる。身の回りにある有機化合物について物語形式で書かれているため、とてもわかりやすい。また、著者が高校の先生ということもあり、高校生でもわかるような言葉で説明されている。
パラサイト・イヴ
瀬名秀明(新潮文庫)
著者が、薬学部の大学院生の時に書いたバイオホラー小説。薬学の知識をもとに描かれており、薬学の知識があるとより楽しめる内容だ。このような背景を知った上でこの本を読むと、高校生が薬学へ興味をより強く持つことに役立つだろう。
鬼滅の刃
吾峠呼世晴(ジャンプコミックス)
言わずと知れた大人気漫画。本やテレビなどで「薬」という言葉はよく見かけるが、「薬学」という言葉が使われている珍しい作品。薬と毒が表裏一体であることも自然と学ぶことができる。胡蝶しのぶ好きが高じて創薬化学に興味を持ってくれればと思う。