【環境農学(含ランドスケープ科学)】
バイオマスを効率的に分解する未知の酵素の探索~エネルギー問題に貢献する農学研究
殿塚隆史先生
東京農工大学
農学部 応用生物科学科(農学府 農学専攻 応用生命化学コース)
現代の農学という学問は、単に農作物の生産についての研究だけでなく、食品、バイオテクノロジー、環境、生態系、農業と社会の関わりなど、幅広い学問となっています。その中で、農学の様々な分野を融合して、環境に関する問題を解決しようとする分野が「環境農学」です。私の研究のようなバイオマスの有効利用という研究や、生物多様性や、地域の環境保全といった研究など様々な研究があります。
糖の解析技術を基盤として、植物のセルロースを効率よく分解する酵素を探す
近年のゲノム解析技術の進展によって、多くの生物の全ゲノムが明らかになっています。しかしゲノム配列がわかっても、ゲノムを構成している遺伝子はどのようなものなのかは、個々に調べてみないとわからないのが現状です。私は、糖に作用する酵素とその遺伝子を研究しています。
糖というと砂糖のような甘い物質を思い浮かべますが(実は私は砂糖に作用する酵素も研究しています)、植物に含まれるセルロースもグルコースという糖がつながってできていますので、化学の分野では糖の一種です。
私は、機能がよくわかっていない酵素の遺伝子を、組み換えDNA技術で微生物に導入し、酵素を生産させ、その機能を調べてきました。現在、その研究を基礎として、バイオ燃料などバイオマスを効率的に分解する酵素を探索しています。
植物に含まれるセルロースはバイオ燃料の有力候補ですが、これを燃料とするためには、分解が必要です。しかし、セルロールは固く、それを効率よく分解する酵素が求められています。私の研究では、環境資源科学科などの先生との共同研究を通して、これまでにない性質を持つ酵素を見つけることを目指しています。
一般的な傾向は?
●主な業種は→食品、化学、化粧品、医薬品
●主な職種は→研究職、開発職
分野はどう活かされる?
食品、化学、化粧品、医薬品メーカーで研究職、開発職として、新規な食品製造酵素などの取得・開発といった基礎研究から、実際に店頭に並ぶ商品の開発・製造や品質管理などを行っている卒業生が多いです。研究室の先輩には著名な会社の研究所長になっているOBもいますし、また、博士課程の修了生には大学の教員として活躍されているOBもいます。
「環境農学」には、従来の農学の諸分野にとらわれない融合的な研究を行うことにより、新しい技術が生まれ新たな分野が育つことが期待されています。東京農工大学農学部は、農学部として全国でも有数の規模を有しており、その立地から首都圏にある多くの他研究機関とも近く、環境農学のような融合的な研究を学内外の多くの研究者と共同で進めています。
また、東京農工大学は、農学と工学という産業を支える学問を教育研究する理系総合大学です。近年、農学と工学が協創し新産業創出をめざす教育プログラムである卓越大学院プログラムが採択されるなど、積極的に諸分野の融合を行う環境を整えています。私も研究を進めて行く上で、本学は環境農学のような融合的な分野について研究を進めるのに大変適した教育研究機関であるということを実感しています。
知っておきたい自然エネルギーの基礎知識 太陽光・風力・水力・地熱からバイオマスまで地球にやさしいエネルギーを徹底解説!
細川博昭(サイエンス・アイ新書)
環境問題に関する本は、エネルギー政策と関係が深いことから、ともするとどの技術やどのエネルギーが良いとか悪いとかいう内容になりやすく、著者の主義主張が入っているものが多数ある。その点、この本は、太陽光や風力、水力、地熱、バイオマスといった自然エネルギーについて、その発電の仕組みと可能性について説明している。
グリーンパワーブック 再生可能エネルギー入門
Think the Earth、GREEN POWER プロジェクト:編(ダイヤモンド社)
編者のThink the Earthは「エコロジーとエコノミーの共存」をテーマに2001年に発足したNPO。グリープロジェクトとは、経済産業省エネルギー庁が中心になり、官民で再生可能エネルギーの普及を考えるプロジェクトのことで、その一貫としてこの本は作られた。各再生可能エネルギーのメリット、デメリットがイラストを使いわかりやすく書かれている。
新炭素革命 地球を救うウルトラ”C”
竹村真一(PHP研究所)
炭素を用いたこれからの様々な夢の技術について紹介している。例えば、1メートルの100億分の1という超極薄で作られるナノチューブだ。ナノチューブは、炭素原子60個がサッカーボール状に結合した新素材で、鉄より強くて軽い素材として期待されている。
他には、コンピュータの半導体チップは、現在シリコンをベース素材にするのが主流だが、炭素化合物を素材に使う「有機太陽電池」が期待されていることなども書かれている。著者は、京都造形芸術大学教授。世界初のデジタル地球儀「触れる地球」の開発で知られ、ITを駆使した地球環境問題への独自な取組みを進める。
ビックリするほど遺伝子工学がわかる本 遺伝子診断から難病の治療薬、クローン、出生前診断、再生医療の可能性まで
生田哲(サイエンス・アイ新書)
遺伝子工学とは、遺伝子操作の技術を利用して、有用な物質や生物を多量に生産しようとする応用研究のこと。遺伝子操作とは遺伝子組み換え、組み換えDNA技術とも呼ばれ、ある生物の遺伝子DNAを、遺伝子の運び役に異種の細胞に運ばせ、そこで増殖させる方法のことだ。遺伝子工学の概要は高校の生物学で学ぶ。この本は高校の生物学に関する参考書のようなものとして利用するには、紙面がカラフルでもあり手頃と思われる。
放射光が解き明かす驚異のナノ世界 魔法の光が拓く物質世界の可能性
日本放射光学会:編(講談社ブルーバックス)
放射光は、アルファ線やベータ線などの放射性の粒子ビームや電磁波などがレーザービームとして伝播し、加速器という装置を通して加速・高速回転することによって作られる。この放射光を、調べたいものに照射しそこから発生するX線を調べれば、多くの産業界で実施されている新材料開発上必要な分析評価に大変役立つことがわかっている。この本は、様々な物質の性質から創薬研究まで欠かせない放射光を紹介している。