【経営・経済農学】
多様な売り方で持続的な農業を振興 ~農業経営の多角化~
櫻井清一先生
千葉大学
園芸学部 食料資源経済学科 食料資源経済学プログラム(園芸学研究科 環境園芸学専攻)
農産物の生産から流通、消費に至るまでの様々な活動を、より効率的に、より持続的に行うためにどうすればよいか,人と経済の視点から研究するのが、「経営・経済農学」という分野です。一般的には「農業経済学」と呼ばれています。食品の安全性に関する研究、消費者の食品購買行動などが最近の注目テーマです。
その中でも、私は農産物や食品の流通に関心があります。特に追求しているのは、農業経営や農村経済の多角化です。今までのような農産物の売り方に加え、多様な売り方を模索して、農家の収入増加につなげていきたいと考えています。
イチゴ狩りも農業の多角化の一つ
例えば、農家が他の商工業者と連携して、自身の農場でとれた農産物を使って加工食品を開発したり、新しい販売先を開拓したりするには、どういうノウハウが必要かを調査してきました。また、農産物を直接消費者に売る「直売型農業」をどのようすれば普及できるのか研究してきました。
イチゴ狩りやリンゴ狩りに行ったことはありませんか。こうした農園は「観光農園」といいます。消費者としては観光として農業体験ができ、生産者にとってはお客さんとの接点、農作物の魅力の発信、そして農村地域の活性化につながります。農家の新たな収入源にもなっています。こうした多角化の盛んな地域の特徴を調査するなど、多角的な農業経営を支援できる調査研究を行っています。
一般的な傾向は?
●主な業種は→金融業、流通業、製造業(特に食品)、公務
●主な職種は→事務職、営業職が多い
分野はどう活かされる?
・製造業、流通業では、マーケティングや物流管理の専門的業務に就く卒業生もいます。
・経済学の基礎知識が身につくので、金融学や一般企業の財務に関する業務を担う人も多くいます。
・公務員の中には、指導農業普及員という専門職に就いている人もいます。(一定年数の実務を経験した者が受験できる資格です)
千葉大学園芸学部の「園芸産業創発学プログラム」は施設園芸や植物工場の経営に特化した新しい教育プログラムで、園芸ビジネスに関心がある人向けです。入試制度が一般入試と異なりますので、ホームページで確認してください。
経営・経済農学では、実態を正確に把握する能力と、実態を理論に基づいて考え、真に重要なポイントを導く能力の双方が求められます。またローカルな視点とグローバルな視点の双方も必要です。えり好みせず、広く社会に関心を持つよう心がけてください。
【テーマ例】
・顧客の立場に立って加工食品を試作・商品開発してみる。
・日常の食生活をより正確に調査し、統計手法を応用して集計・分析してみる。
・集団で討論あるいは現地を歩きながら、ある(農村)地域の生活面での魅力と問題点を洗い出してみる。
日本農業の真実
生源寺眞一(ちくま新書)
2010年頃の日本農業をめぐる諸状況を簡潔にまとめた本。著者は農業経済学が専門の経済学者。平易な文章で読みやすい。日本農業を理解する上で知っておいてもらいたい論点が過不足なく盛り込まれている点が、優れている。農業経済学という学問が対象とする領域はほぼ盛り込まれている。
農山村は消滅しない
小田切徳美(岩波新書)
2014年、「2040年までに896の自治体が消滅する」と予測した日本創生会議の発表が大きな波紋を呼んだ。本当にそうなのか、この本は問いかける。著者は農政学・農村政策論、地域ガバナンス論を研究する農学者。過疎や限界集落等、農村問題の専門家として知られる。また地域ガバナンスとは、地域コミュニティにおける民主的なルールづくりに向けた運動のことをいう。この本は、地方の消滅という難問を克服する多くの事例をもとに、地方、とりわけ農山村は消滅しないと結論する。日本の農林業が地域社会といかに密接な関係を持っているか理解できるだろう。