【木質科学】
木材の細胞壁を限界まで細かく観察!木材利用のための木質研究
佐藤敬一先生
東京農工大学
農学部 環境資源科学科(大学院 農学府 農学専攻 自然環境資源コース)
木材を、木造住宅、木質材料、紙パルプなど材料として利用するためには、木材の強さなど木材内部の性質を詳しく知る必要があります。そのために、木材を破壊しないでも調べられる「非破壊検査」という方法があるのですが、木質科学分野で応用した事例はまだほとんどありません。
私は木材の性質を調べるために、分子間力顕微鏡という装置を使った非破壊検査の研究を行っています。この装置は探針を接触させないで対象との分子間の引力を測定することにより、表面を検知し、微小サイズの限界まで観察できます。検査のターゲットは、セルロースが主成分の木材の細胞壁です。
仮道管の細胞壁は、根から葉への水分の通り道です。ヒノキの細胞壁の観察を行い、その構造を明らかにしました。それによって、木材の強度、粘り強さなどの性質、水分変化によってどう強度が変わるのかといった性能などもわかるようになります。音波が木材内をどのように伝わるのかもわかり、木材の音響的な特徴が解明できるようになるなど、応用研究への道が開けます。
子どもたちのための「森林・樹木・木材について学ぼう!」プログラム
一方、私たちは環境教育にも強い関心を持って取り組んでいます。林野庁は持続可能な森林環境教育を推進しており、私たちはこれに協力するような形で、「プーさんの森をデザインしよう!」という小学校高学年向け森林環境教育プログラム開発しました。
実際に小学校を訪ね、「森林・樹木・木材について学ぼう」というテーマで、体験学習の授業を行っています。環境やその保全について学べるだけでなく、森林で学ぶことを通じて、課題解決力や探究心、主体的に取り組む力を育む学習プログラムになっています。森林は、様々な学びの場にもなるのです。
一般的な傾向は?
●主な業種は→公務員、小中学校教員、住宅関連、紙パルプ、新聞社等
●主な職種は→公務員は行政職と研究職、一般企業は専門職
分野はどう活かされる?
教育、木材関連、林業関連の業務で、学んだことを活かしています。
東京農工大学農学部は旧帝国大学農学校実科が前身で、本科である東京大学農学部とは兄弟校です、現在5学科からなり、そのうち環境資源科学科と地域生態システム学科の2学科は環境を扱います。
これは、日本で最初の環境の学科(環境保護学科)が本学に誕生し、それにより発展してきたことによります。現在話題となっている、大気のPM2.5問題、海洋プラスチックの問題、ナノセルロースファイバーなどの環境保全や資源利用に関する問題を先駆的に研究しています。
理系の大学で学び研究するには、幅広く見識を広げることと、深く専門を習得することの二つが重要です。本学環境資源科学科では、理科の基礎として物理、化学、生物、地学の基礎とそれぞれの科目の環境・資源分野への応用を学ぶことができ、4年時には研究室に分属し、専門性の高い知識を学ぶとともに研究手法を身につけます。多くの学生はさらに大学院に進学し、修士や博士になります。
実際に小学校へ行って「総合的な学習の時間」「理科」「社会」などの指導を行い、アクティブラーニングや体験型学習の重要性を体験してみてほしいです。
割り箸が地域と地球を救う
JUON(樹恩)NETWORK、佐藤敬一、鹿住貴之(創森社)
大学生や市民に森林や木材利用を理解してもらうために、あえて、間伐材から割り箸を製造し、大学生協の食堂で利用する運動を展開したことが書かれている。間伐材とは森林の成長過程で密集化する立木を間引く間伐の過程で発生する木材。
20年前は間伐材という言葉も一般的ではなく、木材利用=森林破壊と言われていた。しかし、地球温暖化防止の吸収源対策として、健全な森林の維持や適正な森林の管理のために、間伐材割り箸を通して、木材栄養、木質バイオマスの利用の啓発を行う内容になっている。著者のJUON(樹恩) NETWORKは、大学生協の呼びかけで1998年に設立されたNPO法人である。
企業・NPOと学校・地域をつなぐ森林ESDの促進に向けて
公益社団法人国土緑化推進機構
森林ESDは、持続可能な社会づくりに向け問題解決に必要な能力・態度を身につけさせるための森林・里山を活用した人材育成システム。
これを推進する国土緑化推進機構が森林ESDの可能性についてまとめたガイドブックが本書である。同機構のサイトにアクセスし、林野庁等が推進する森林づくり推進国民運動「フォレスト・サポーターズ」(運営事務局:国土緑化推進機構・美しい森林づくり全国推進会議)に登録すれば無料で頒布している。