【木質科学】
木材からプラスチック材料を創りだす!持続可能な社会を築く木質科学研究
宮藤久士先生
京都府立大学
生命環境学部 森林科学科
木材は、石油などの化石資源とは異なり、再生可能なバイオマス資源です。上手に使えば半永久的に手に入れることができます。また、木材は光合成により形作られるわけですから、地球温暖化の原因である二酸化炭素をため込んでいると言えます。言い換えると、家や家具などに木材をたくさん使えば使うほど、大気中の二酸化炭素を削減できることになり、これからの我々の未来を切り拓く未来型の資源と言えます。
スマートフォンの部品、ペットボトルなどが木材から作られる日も
実は、最近、プラスチックや自動車用燃料など、現在我々が使っている石油化学製品のほぼすべてを、木材からも作ることができるようになってきています。私は、木質バイオマス(木材)を、イオン液体と呼ばれる特殊な液体で、化学的に処理することで、自動車用燃料、プラスチック、医薬品、樹脂などの原料となる様々な化学物質を生み出すことに取り組んでいます。
石油をはじめとする化石資源はいつかは枯渇する資源です。これに対して木材は、我々が適切に植えて育て続ければ、いくらでも生産が可能な資源なのです。木材から、様々な化学物質を生み出すことができるようになれば、自動車やスマートフォンの部品、ペットボトルなどが木材から作られる日も、そう遠くない未来と想像できます。
一般的な傾向は?
●主な業種は→化学メーカー、製紙メーカー、印刷業
●主な職種は→研究開発、製品開発
●業務の特徴は→新しい製品の開発、生産過程における生産管理
分野はどう活かされる?
研究室で培った化学的な研究知識を生かして、化学メーカーでの新しい化学製品に関する研究開発や、印刷会社での塗料に関する研究開発などに携わっています。また、木材化学に関する知識は、製紙メーカーでの製品開発に活かされています。
京都府立大学生命環境科学部森林科学科では、木質科学について生物、物理、化学など様々な視点から、総合的に学ぶことができます。生物分野では、道管や仮道管などの木材細胞構造に関して針葉樹と広葉樹での違いなどを学びます。
物理分野では、木材の曲げ、圧縮、引っ張りなどの強度や変形加工などを学びます。化学分野では、木材に含まれている化学成分の抽出や各種化学反応を用いたバイオ材料、バイオ燃料などの創製などについて学びます。さらに木材を利用することが、地球温暖化防止につながることなど、環境問題との関連についても深く学ぶことができます。
地球環境を守るため、そして人類の未来のために、石油、石炭などを使わない世界の実現が必要です。木材はそれを担うことのできる材料の一つです。人類の歴史とともに使われてきた木材という古い材料に21世紀のテクノロジーを用いて、ぜひ皆さんと一緒に未来を築く新しい材料を作りたいと思っています。
【テーマ例】
・木材からのプラスチック生産
・木材からの自動車用バイオ燃料の生産
・木材からのバニリン(バニラの香り成分)生産
・木材の化学反応における、木材細胞壁の破壊に関する顕微鏡観察
木のびっくり話100
日本木材学会:編(講談社)
日本木材学会に所属する様々な木材研究者が、一般向けに書いた本。木材にまつわる様々な100のトピックスについて、専門用語、化学式、数式などを極力用いずにわかりやすく書かれている。それぞれのトピックスは見開きの2ページで完結しているため、最初から読む必要はなく、気軽にどこからでも読める。木材の物理的性質、化学的性質だけでなく、木材がいかに地球温暖化防止に寄与しているか、木材が未来を切り拓く先端材料であることなどが理解できる。
木材なんでも小事典 秘密に迫る新知識76
木質科学研究所木悠会:編(講談社ブルーバックス)
優れた生物材料としての木材は、二酸化炭素を吸収し酸素を供給することで地球環境を救っている。木との長い歴史、木材を利用する文化史、木材加工の仕方のコツまで、この本を読めば木材のあらゆる性質、利用方法を理解できるだろう。
WOOD JOB! ~神去(かむさり)なあなあ日常(映画)
原作は人気作家・三浦しをんによる青春小説。林業に関する映画で、木材にも興味を持つきっかけとなるだろう。監督は『ウォーターボーイズ』などのヒット作のある矢口史靖。(矢口史靖:監督、染谷将太、長澤まさみ:出演)
動画「未来少女モリリン 緑の地球を守れ!!」
大阪市製材業協同組合
大阪市にある木材加工など木材関連業種の団体、大阪市製材業協同組合のサイトで、環境省の補助を受けて作られた動画だ。地球温暖化がなぜ進んだかを解説し、二酸化炭素を取り除く森林の大切さを、アニメを使って訴える。木材を利用することと、地球温暖化防止の関連について理解できる。