【森林科学】
「年輪」から気候変動が樹木に与える影響を明らかに
安江恒先生
信州大学
農学部 農学生命科学科 森林・環境共生学コース(総合理工学研究科 農学専攻/先鋭領域融合研究群 山岳科学研究所拠点)
樹木は毎年1層ずつ年輪を形成しながら肥大成長して幹を形成します。年輪は、樹木が受けた環境からの影響を記録したレコードと言えます。年輪幅などの変動と気象台で観測された月平均気温、月降水量などとの間の関係を算出することで、樹木の成長を制限している要因を明らかにすることができるのです。
温暖化による森林や炭素吸収量の変動の予測につながる年輪研究
シベリアやアラスカの永久凍土地帯に生育する樹木の年輪を研究したところ、夏ではなく、早春の気温が年輪幅に対して大きく影響を及ぼしていることが明らかになりました。雪解け時期の土壌条件が成長に大きく影響を及ぼしていると考えています。
一方、日本各地に生育するスギやヒノキでは、冬から春にかけての気温が重要なことが明らかになってきました。成長開始前の光合成量が鍵になると睨んでいます。このように、年輪を用いることで、継続観測が難しい地域においても、樹木の成長に気候がどのように関係しているかを明らかにすることができます。
気候との関係を明らかにすることで、将来予測される気候変動下での樹木の成長や材質の変化が予測できます。それにより、地域ごとに植林をするのに適した樹種の選択に役にたちます。また、樹木は地球における主要な炭素の蓄積の場であるため、大気中の二酸化炭素濃度の予測につながり、さらにそれが将来の気候変動の予測にもつながるでしょう。
一般的な傾向は?
●主な業種は→公務員、木材、住宅
●主な職種は→林業職、技術職、営業職
●業務の特徴は→森林の管理や森林の主要生産物である木材の知識を活かして活躍する人が多いです。
分野はどう活かされる?
・公務員(林業職):林野庁、都道府県や市町村の林務部において、森林の管理を担っています。伐採や植林などの森林管理計画の立案や実行、治山工事などの防災事業、林道の設計や施工管理、野生動物の管理等、業務を行います。専門課程の講義や実習で得た森林科学、木材科学に関する専門知識が必要不可欠です。
・木材会社:製材、木材加工とその製品の流通を扱う会社において、工場の生産技術者、商品開発や営業を行っています。樹種、樹齢、採取部位などによって異なる性質を持つ木材を取り扱う上で、専門課程の講義や実習で得た知識が役に立っています。
・住宅建設会社:地域で活躍する木造住宅会社で、木材に関する専門知識を活かして、営業や施工管理を行っています。
信州大学農学部森林・環境共生学コースは、伝統的に「現場主義」を掲げ、森林や田園といった環境の保護・保全、有効利用などについて総合的に学習をします。学生数は 1 学年約 40 人。少人数教育体制の利点を生かして、教員が゙学生の声を丁寧に聞き取り、研究指導を日常的に行っています。
2年生以降は広大な演習林を有する伊那キャンパスに移り、山林や農村地域での実地的な演習や研究を通し、専門性の高い知識・技術とともに、現場感覚を併せ持つ人材を育成しています。
年輪を窓として樹木の成長メカニズムをのぞき込んでいます。顕微鏡で測定するようなミクロな切り口が、日本や世界各地の森林の成立条件、気候変動に伴う樹木成長の変動といった大きな現象につながっていることに面白さを感じて日々研究を行っています。
森林科学の分野は、生物学・生態学・水文学などの基礎科学から、森林を有効活用した持続的な社会構築と言った広い範囲をカバーする分野です。現場に飛び出して、様々な体験をすることで俯瞰的な視点を身につけましょう。
【テーマ例】
・樹木の年輪幅変動を測定し、気温や降水量との変動と比較してみる。
・身近に利用されている木材の樹種を識別し、適材適所について検討する。
森林飽和 国土の変貌を考える
太田猛彦(NHKブックス)
森林・環境共生学コースに入学する新入生の多くは自然に対するあこがれを抱いている。「身近で森林伐採が行われていたから森林破壊を防止したい」という志望動機を持っている場合も多い。
しかしこの本はこれとはまったく逆のことを訴える。国を挙げての植林活動の結果、これ以上その必要性がないほど、いまや日本の森林は飽和状態だというのだ。森林を学ぶにあたり、ステレオタイプな考え方でなく、保全・保護の観点、利用の観点、共生の観点など、様々な立場からの新しい視点で捉えられると理解が深まる。また、その複雑さが森林科学の魅力であると思われる。
里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く
藻谷浩介 NHK広島取材班(角川新書)
著者は日本開発銀行(日本政策投資銀行)などを経て、地域経済、観光、人口動態を詳細に調査する地域エコノミスト。同氏は本のタイトルになった里山資本主義を「お金が乏しくなっても水と食料と燃料が手に入り続ける仕組み、いわば安心安全のネットワークを、あらかじめ用意しておこうという実践である」と言っている。
この本は、森林と共生する生活・社会のあり方を考える上で、興味深い実例がいくつか紹介されている。グローバル化が進む社会において、また違う価値観を提案するものとして興味深く読める。
地球温暖化の予測は「正しい」か? 不確かな未来に科学が挑む
江守正多(DOJIN選書)
著者は気象学者。コンピュータシミュレーションによる地球温暖化の将来予測を専門とする。二酸化炭素排出などの削減で森林科学においても注目すべき「地球温暖化」問題について、気象学者の観点から、比較的冷静にわかりやすく解説している。
地球温暖化については、危機を強調する物から懐疑論までまったく主張の異なる数多くの著作が出版されており、読み比べてみると科学的な思考過程にも大きな違いがあることが認識できる非常に興味深い課題。その際に、一読しておくと参考になる本だ。
木のびっくり話 100
日本木材学会:編(講談社)
太古の昔から人類が使ってきた木材は、「伝統的」といった言葉に代表されるともすれば古くさいイメージを持たれがちだが、そんなことはない。金属やコンクリートに無い様々な性質をもち、地球環境の悪化に歯止めを掛ける材料として期待されている材料なのだ。
木材科学に関わる研究者100名が木材の性質から新たな利用方法に至るまで、目からウロコが落ちるような最新の研究成果をわかりやすく解説している。森林を守るだけで無く、生産される木材を活用していくことの重要性や可能性に目を向けられる一冊。