【生物有機化学】
植物は病原菌から身を守るため物質を作りだす!~植物の有用物質を明らかに
石原亨先生
鳥取大学
農学部 生命環境農学科 農芸化学コース(持続性社会創生科学研究科 農学専攻/菌類きのこ遺伝資源研究センター)
植物は、絶えず攻防を繰り広げています。相手は、植物をえさにする昆虫や草食動物、感染して植物に寄生しようとする病原菌、光や土の中の養分をめぐって競争を繰り広げる別種の植物など。
植物の武器は、体内で作りだす「化学物質」です。昆虫や動物には、食べるのをあきらめさせるための苦み物質や毒を、病原菌には抗菌物質を、ほかの植物にはその生育を妨げる物質などを使って対抗しています。植物は、いったいどんな物質をどのように合成し、利用しているのか。それを明らかにしようとしています。
キノコから薬のもとになる有用物質を探索
植物も、病原菌に感染し病気になります。私は、植物自身が病原菌から身を守る仕組みを研究しています。植物が病原菌に抵抗する手段として、抗菌性物質の蓄積があります。病原菌が感染すると、それまで持っていなかった新たな抗菌性物質を作り出し、病原菌に対抗するのです。
この物質は複数あり、それも植物の種ごとに異なります。それを明らかにすれば、それぞれの地域で問題になっている病気に強い植物を育種することができるはずです。また、菌類きのこ遺伝資源研究センターにも所属しており、きのこから有用物質を見出すため、抽出物を集めたライブラリーを作りました。キノコからがん細胞の増殖を抑えたり、日焼けを防ぐなどの効用があるものを調べています。
一般的な傾向は?
●主な業種は→化学、食品、公務員
●主な職種は→研究開発、品質管理、営農指導
●業務の特徴は→農薬開発や改良普及員など、農業に関わる業務が多い傾向があります。食品関連では品質管理や開発職、生産技術系の業務が主です。
分野はどう活かされる?
農薬メーカーで、大学で学んだ植物と病原微生物の両方を取り扱える技術を生かして、新規薬剤の開発に携わっている人、県の改良普及員として、花卉(かき…草花のこと)や野菜の生産指導を行っている人、大学でハーブに含まれる機能性成分について大学の医学部、県や食品企業の研究者と共同研究を行った経験を生かして、公務員として農業振興の役割を担っている人が卒業生にいます。
私たちのコースでは、生物有機化学の基礎から応用まで、様々な生物を対象に多面的に学ぶことができます。講義では、有機化学や分析化学などで、研究に必要な科目を十分に学ぶことができます。
また、農薬化学や生物活性化学といった応用的な側面を学ぶ科目も複数あり、一貫した知識を得られます。またこの分野では、実験技術が研究のための武器です。2年生前期から3年生前期までの学生実験で、確実な技術を身につけることができます。
卒業研究では有機化学の手法を使って、動物、植物、微生物を対象に研究を展開しており、総合的な視野を身につけることができます。卒業生の多くが、大学で身につけた知識と技術を武器に、企業や研究機関で活躍しています。
化学物質というと、人工的で危険なものというイメージがあるかもしれません。ところが、動くことができない植物や菌類は、周りの生き物と折り合いをつけるため、極めて精緻な化学物質を作り出しています。実は、人間よりはるかに優れた化学者なのです。
生態系は、生物が作り出す化学物質が忙しく飛び交う世界です。生態系にあふれる化学物質の謎を解き、そして役立てる研究に足を踏み入れてみませんか。
身近な植物の成分が、周りの生物に影響を与えることがあります。野菜をそのまま食べるのと、一度すり潰してから食べるのとでは、味は同じでしょうか。植物は、細胞が壊れると敵の攻撃を受けていると感じ、新たな防御物質を作ることがあります。味に影響する場合もありそうです。
微生物を扱える設備が学校にあるのであれば、お湯などで植物やキノコを抽出し、効果を調べてみるのも面白そうです。抽出液の中から、微生物の増殖に影響を及ぼすものを見つけることができるかもしれません。
美味しい進化 食べ物と人類はどう進化してきたか
ジョナサン・シルバータウン 熊井ひろ美:訳(インターシフト)
人類は、1万年ぐらい前から農業や牧畜を覚え、野菜や穀物、畜産物をたくさん食べるようになった。そして、私たちが美味しく食べることができるように、植物や動物を品種改良という形で進化させてきた。
ところが実は私たち人類も、新しい食べ物を美味しく食べられるように、日々進化していることがわかってきた。食べ物(食べ物も化学物質!)の観点から、遺伝子に刻みこまれている人類とほかの生物との関わり合いの歴史が見えてくる。
生物たちの不思議な物語 化学生態学外論
深海浩(化学同人)
化学物質は目に見えるものではない。しかし、生物は化学物質を介してほかの生物と情報をやりとりし、戦い、共生している。このような過程に関わる化学物質が、この本では平易に紹介されている。単に知識を得るだけでなく、科学者達がどのように現象に気づき、その物質的背景を解明していったのかを再体験することができる。
チョコレートを滅ぼしたカビ・キノコの話 植物病理学入門
ニコラス・マネー 小川真:訳(築地書館)
植物は、様々な病気に感染する。植物と病原菌との攻防、そして人類がそれらとどのように対応しようとしてきたか、手に取るように分かる本。植物病原菌をコントロールすることが、人類が農業を続けていく上でどれほど重要かつ難しい問題なのか、知ることができる。
メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学
松永和紀(光文社新書)
世の中には、どの食品は体に良い、あるいはどの添加物が体に悪い、といった情報があふれている。しかし、果たしてそれらを鵜呑みにしてよいのだろうか。すべてのものにはリスクとベネフィットがある。消費者として、あるいは研究者として、どのような態度で食品や健康問題に向き合うべきかを考えさせられる本。