【応用生物化学】
環境汚染物質を分解する微生物の電子伝達系タンパク質の機能を解明して、環境浄化を目指す
木村成伸先生
茨城大学
工学部 物質科学工学科(理工学研究科 量子線科学専攻)
タンパク質は生命活動を支えている重要な生体物質です。タンパク質の様々な機能は、それぞれのタンパク質分子に特有な立体構造とその動きに基づいています。私は、主に電子伝達系タンパク質の立体構造と機能の解明と応用に取り組んでいます。
電子伝達系とは、細胞内での酸化還元反応に必要な電子を供給するための経路のことで、電子の受け渡しをするタンパク質(電子伝達タンパク質)が特定の相手を認識して電子の受け渡しをしています。呼吸系や光合成系の電子伝達系は有名ですが、PCB、ダイオキシンなどの環境汚染物質を分解する土壌細菌には、分解に必要な電子を分解酵素に供給するための特殊な電子伝達系があります。私たちは、このような微生物の電子伝達系タンパク質の立体構造と電子伝達機構の解明と応用を目指しています。
私たちは、遺伝子組み換え技術を使って、シアノバクテリアの細胞内で環境汚染物質を分解する酵素系タンパク質を作ってみました。シアノバクテリアは光合成を行える不思議な細菌です。その光合成能力を用いて、栄養源に乏しい環境中でも光エネルギーを利用して効率的に分解することができる新しい微生物を作るための基礎研究を行っています。
シアノバクテリアは、光エネルギーを利用した物質生産のための有用な微生物
近年、シアノバクテリアは、光エネルギーを用いた物質生産のための有用な微生物として注目されており、例えば二酸化炭素と水から光エネルギーを用いて石油代替燃料を生産しようという取り組みも始められています。
シアノバクテリアの光合成系を利用してエネルギー効率の良い物質生産系を作るためには、細胞内にある電子を必要とするタンパク質や酵素に光合成系で生じる電子をどのように供給するか、つまり電子伝達経路の開拓が重要です。私たちの研究を通して、シアノバクテリア細胞内の電子伝達経路について明らかになれば、シアノバクテリアを用いた環境汚染化合物の分解だけでなく、シアノバクテリアを用いた多様な物質生産が容易になり、幅広い応用が可能になると期待されます。
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「7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」
一般的な傾向は?
●主な業種は→化学系企業をはじめとするメーカーや、化学系分析機関など
●主な職種は→研究、開発、工場での品質管理など
●業務の特徴は→化学、生命工学系だけでなく、機械、電機メーカーなどでの幅広い業務
分野はどう活かされる?
研究室での研究を通して学んだ、研究の進め方や問題解決能力、様々な機器分析や微生物の取扱いなどの経験を活かして、環境分析や化学分析業務など、幅広い分野、業務で活躍しています。
茨城大学工学部物質科学工学科では、環境・資源・エネルギー問題の解決に向けた次世代の「生命、化学、材料」融合分野の開拓を担う研究者・技術者を養成しています。
この学科では、生命、化学、材料分野の基礎を幅広く学ぶとともに、生命工学、応用化学、材料工学の三つのプログラムのいずれかを選択することによって高い専門性と問題解決能力を身につけます。このうち生命工学プログラムでは、生命の代謝や生命情報などに関わる生体物質を分子レベルで理解して応用し、生命科学の分野で活躍できる研究者、専門技術者を養成しています。
カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書
ラインハート・レンネバーグ 小林達彦:監 田中暉夫、奥原正國:訳(講談社ブルーバックス)
バイオテクノロジー(生命工学)の基礎から、食品・環境・医療・産業分野での応用、そして新技術について、概要をわかりやすく書いています。ユーロ圏や米国の大学で用いられている教科書の邦訳です。高校生にとって必ずしもわかりやすい内容ではないかもしれませんが、古くから行われている発酵から近年の遺伝子組換え技術、タンパク質工学などの具体例も紹介されており、バイオテクノロジーに興味がある高校生がこの分野の概要を学ぶには良い教科書です。
先生はえらい
内田樹(ちくまプリマ―文庫)
高校生を主な対象とした師弟論に関する本で、タイトルはトリッキーな部分が含まれるが、「自ら学ぶ姿勢」の大切さや、「学ぶということの本質」について述べられています。分野を問わず、高校生にとって一読する価値のある本です。