【遺伝育種科学】

優れた品種を生み出す品種改良で食糧増産を!

山田哲也先生

 

東京農工大学

農学部 生物生産学科(農学府 農学専攻)

 

 どんなことを研究していますか?

今から半世紀前、1960年代、穀物生産が著しく急増する、農業革命が起こりました。当時、世界では人口が急激に増加したことで、食糧不足が問題になっていました。そこへこれまでなかった高収量のコムギやイネの品種改良が行われ、穀物生産量が倍増したことで、深刻な世界の食糧危機を免れることができました。この農業革命は、別名、「緑の革命」と呼ばれています。

 

中心的な品種改良の技術は、例えば、収穫量が多い品種と、乾燥に強い品種といったように、性質の異なる個体をかけ合わせる「交雑育種」という技術です。

 

交雑を遺伝的に防ぐ仕組みを明らかにし、品種改良をしやすくする

 

しかし、今でも、この交雑育種の技術には、克服しなければならない大きな課題があります。それは異なる種が交雑することを遺伝的に防ぐ「生殖的隔離」と呼ばれる現象です。交雑が簡単に起きないよう、生物に備わっている機構ですが、それが品種改良を行う際の大きな障害となっています。私はこの現象が現れるメカニズムの解明に取り組んでいます。

 

「生殖的隔離」を克服する技術が開発できれば、野生の植物が持つ病気や自然環境の変化に強い性質などを作物に与えることができるようになります。食糧をより安定的に生産することが可能になると期待されます。

 

花の寿命や種子生産性に関わる遺伝子を見つけるため、網室で160種類のアサガオ系統を栽培
花の寿命や種子生産性に関わる遺伝子を見つけるため、網室で160種類のアサガオ系統を栽培
アサガオの系統間で交雑を行うため花粉を採取
アサガオの系統間で交雑を行うため花粉を採取
 この分野はどこで学べる?

「遺伝育種科学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

8.食・農・動植物」の「26.植物科学、育種・作物・園芸」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→国家公務員、地方公務員、種苗会社、食品メーカー、金融など

●主な職種は→総合職、一般職、農業技術職、研究・開発職、バイオ系コンサルタントなど

●業務の特徴は→作物を扱う幅広い分野で専門的な業務に携わっています

 

分野はどう活かされる?

 

作物の品種改良や種苗の生産・品質管理業務、食品の原材料となる作物の生産・品質管理業務、農業技術の普及指導業務などに携わり、活躍されています。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

東京農工大学農学部生物生産学科は、日本および世界の農業を広く深く理解するとともに、農業に関わる高度な専門的知識を身につけることのできる学科です。私たちの研究室では、国内外の研究機関や学内の他分野の研究室との共同研究を活発に行っており、幅広い視野を持ちながら、専門性を深めることができます。所属する学生の皆さんには、ラボでの実験だけでなく、フィールドでの栽培管理も実践してもらっています。 

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
研究室に設置されたクリーンベンチでタバコのゲノム編集に用いるためのアグロバクテリウムの菌液を分注している様子です。
研究室に設置されたクリーンベンチでタバコのゲノム編集に用いるためのアグロバクテリウムの菌液を分注している様子です。
花の寿命や種子生産性に関わる遺伝子を見つけるため、アサガオの系統間でゲノムDNAの塩基配列を比較解析しています。
花の寿命や種子生産性に関わる遺伝子を見つけるため、アサガオの系統間でゲノムDNAの塩基配列を比較解析しています。
 先生からひとこと

品種改良(育種)の歴史は古く、人類は農耕の発祥とほぼ同時に、作物や家畜などの改良を行ってきたと考えられています。また、1900年に「メンデルの法則」が再発見されてから100年余りの期間に、近代育種学が急速に進歩し、数多くの「品種」が生み出されてきました。

 

今日、私たちは、それらの品種を毎日のように利用し、多大な恩恵を受けています。一方、世界では、人口爆発や地球温暖化、環境破壊などが進みつつあり、より収穫量の多い品種や環境の変化に強い品種の育成が求められています。そのような品種を作り出すためには、先人達の残してくれた知識や技術に加え、新たな知識や技術の獲得が不可欠です。そのような知識や技術を探求に、ぜひ皆さんにも参加してもらいたいと思います。

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

植物改良への挑戦 メンデルの法則から遺伝子組換えまで

鵜飼保雄(培風館)

植物の品種改良に関する技術とその技術を開発した研究者の歴史が、社会的背景とともに解説されている。人類は農耕が発祥した約1万年前から、作物の改良をはじめたとされている。1865年にメンデルによって報告されたメンデルの法則は、遺伝学の有名な法則だが、実は1900年に別の研究者によってメンデルの法則が再発見されることによって、育種技術は急速に発展したのだ。

 

そのような技術の発展には、中学・高校の「生物」で学んできた様々な生物学上の発見が大きく貢献している。また、教科書には載らなくても、育種技術の発展には不可欠だった幾つもの重要な発見があり、それらの発見には多くの日本人研究者が関わってきたことを教えてくれる。

 



植物改良の原理 遺伝と育種1

鵜飼保雄、藤巻宏(培風館)

理学、工学、心理学などに強い出版社、培風館がシリーズで出している「ライフサイエンス教養叢書」の一つで、育種技術の基本的な原理がわかりやすく解説されている。ほかにライフサイエンス教養叢書からは、「植物改良への挑戦 メンデルの法則から遺伝子組換えまで」「♂(おす)と♀(めす)のはなし」「日本人の遺伝」など多数出ている。

 



植物で未来をつくる

松永和紀(化学同人)

植物科学分野の研究者へのインタビューに基づき、植物のゲノムや遺伝子に関する研究の実例や成果をわかりやすく解説している。毎回違ったサイエンスライターが植物科学の研究者たちを訪ね、植物研究の面白さをレポートする全5冊の「まるかじり叢書シリーズ」の1冊。