【実験動物学】
動物の学習行動から個性がいかに表れてくるのかを神経回路・遺伝子レベルで理解する
和多和宏先生
北海道大学
理学部 生物科学科 生物学(生命科学院 生命科学専攻/脳科学研究教育センター)
札幌に15年近く住んでいますが、私は大阪・堺出身のためか、未だに関西弁が抜けません。また、普段会話で使う言葉や考えも、これまでに自分が読んできた本や、出会った人などの影響を受けているはずです。でも、どんな本が好きなのか、どの人の意見に共感するのか、生まれ育ってきた環境と生まれもつ遺伝的特性の影響を、どこまで受けているのでしょうか。
よく「世の中に自分と同じ人はいない」と言いますが、チンパンジーではなくヒトとして、共通に持つ性質もあるはずです。一体、自分が持つ自分らしさとは、遺伝子レベルでどのように発達してくるのでしょうか。
小鳥の歌を分子生物学・神経生物学・動物行動学から研究
この問いと向きあうために、私は小鳥の歌の研究をしています。具体的には、親鳥の歌のパターンを学習する鳴禽類(ソングバード)を動物モデルとし、分子生物学・神経生物学・動物行動学といった研究手法を駆使し「分子神経行動学」の研究をしています。同じ種の小鳥でも、家族が違えば兄弟間でも、歌う歌は少しずつ違います。その違いが雌にモテたりモテなかったりと、その個体の生き方を変えてしまいます。
研究で追求しているのは、発達過程でいつ、どのように、脳内のどの細胞のどの遺伝子が働き、学習行動の個体差・種差を作っていくのかということです。またソングバード研究から、ヒトの言語習得や吃音(きつおん:どもり)、音声コミュニケーション障害を含めた脳内分子メカニズムの理解へつながる研究を目指しています。
一般的な傾向は?
大学・研究所の研究員、製薬会社(研究)、高等学校教員、システムエンジニア(IT)、教育、コンサル関連
分野はどう活かされる?
分子生物学・動物行動の研究・実験経験の過程で日常的に、論理的に考える、説明する能力を、特に重要視してトレーニングしています。研究室に留学生が多いので、英語によるコミュニケーション能力も上昇します。また、研究内容を聴衆に合わせて、わかりやすくプレゼン発表する力を養っています。
北海道大学は、キャンパスの広さ・雰囲気がすでに「the 北海道」です。フロンティア精神を大切にしています。ほぼすべての学部があります。道外出身の学生が7割近くを占めます。
所属する理学部生物科学科(生物学専攻)では、多様性生物・進化・形態機能・行動神経・生殖発生・生態遺伝・環境分子生物学といった、多岐にわたる生物学を学ぶことができます。
大学でこれまで10数年教えて感じることは、自分から質問してくる学生は、例えはじめは何も知らなくても、その後どんどん伸びる、世界を広げていくということです。自分から何か質問せずにはいられない、そういうものに触れ、打ち込めることに出会えるかで、大きく生き方が変わると思います。
・キンカチョウやジュウシマツの雄雌ペア(ペットショップで売っています)を繁殖させ、ヒナがどのようにして親の歌を学んでいくのか、スマホで録音、音声解析フリーソフトでその発達変化を観察してみる。
・動物の飼育が難しい場合は、野外の鳥たちの声を録音して、種・個体によってどのような音響特性が違うのか観察してみる。
やわらかな遺伝子
マット・リドレー 中村桂子、斉藤隆央:訳(ハヤカワ文庫NF)
動物の生き方に対して「生まれと育ち」がいかに関わっているか、最近の生命科学研究の成果とともに解説している。これまでの歴史や、そこから派生した考えなど、そしてこれからの展望も含めて、生命科学研究のみならず、教育・医療関係への道を模索している若者に読んでもらいたい。この本の内容に何かとても惹きつけられるものを感じる人、私の研究室でいっしょに研究しませんか?
精神と物質 分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか
利根川進、立花隆(文春文庫)
ノーベル医学生理学賞の受賞者である利根川進博士と、ジャーナリスト立花隆氏との対談。私が大学1年の時に読み、分子生物学研究に興味を持ち、研究したいと思った本。
ノーベル賞の対象となった「抗体の多様性生成の遺伝学的原理の解明」の研究内容や実験方法、思考の方法などについても理解が進む。だがそれ以上に、研究者として何を考え、何を大事にして研究を行うのか知ることができる。