【実験動物学】
驚異のイモリの再生能力を、ヒトの再生医療に活かす
千葉親文先生
筑波大学
生命環境学群 生物学類(理工情報生命学術院 生命地球科学研究群 生物学学位プログラム)
動物の中で驚異的な再生能力を持っていることで有名なのが、両生類のイモリです。イモリの足が切られると、そこから新しい足がニョキニョキと生えてきます。手やあごをちぎられても元通りになります。目の水晶体(レンズ)が取られても再生します。心臓や脳などは一部が切り取られても再生するのです。
一般に両生類は子どもの頃は高い再生能力を持ちますが、変態して大人になるとその能力を失います。カエルなどもオタマジャクシの時は生えてきた足が切られても元に戻ります。ところがイモリだけは、変態後も何度でも再生します。イモリの再生能力だけは、特別な存在なのです。
体細胞をリプログラミングして再生
私は再生生理学を専門にしています。特に取り組んでいるのは、成体イモリの体再生メカニズムの解明です。イモリは、脊椎動物の中でも例外的に、本来再生困難なはずの成体の体内環境において、完璧な再生を実現するように進化した動物と考えられます。なぜ再生できるのか。体細胞を脱分化・リプログラミングして再生のための材料として利用するからです。
陸上脊椎動物は、再生のために必要な設計図を潜在的に持っていると考えられます。イモリの示す体細胞の脱分化・リプログラミングの誘導と制御のメカニズムを解明すれば、将来、外傷により失った人の体の一部を自己再生させられる可能性があり、それは未来型の再生医療につなげられると考えています。
一般的な傾向は?
●主な業種は→学術研究、専門・技術サービス業
●主な職種は→研究開発、エンジニア
分野はどう活かされる?
細胞や分子レベルの知識・技能を活かした、医療/研究用の材料やシステムの研究開発や販売業務
実験動物学という分野は設けられていませんが、分子細胞生物学の分野で、疾患モデルマウスの開発、および発症メカニズムと新規治療法の研究開発が行われております。一方、再生は一般の大学では発生生物学の一部として扱われていますが、本学ではイモリを中心に研究を進めていることから、再生現象を成体の動物が外傷時に示す正常な反応として扱い、動物生理学の分野に位置づけています(最近、動物発生生理学分野に統合されました)。
成体イモリが示す細胞の外傷応答と脱分化・リプログラミングの現象については、我が国では本学以外で学ぶことは難しいと思われます。本学では、これらの研究現場に携わっている教員によるきめ細かな講義や実験・実習が開講されております。
生物の中には私たちが予想もできないような驚くべき能力を進化させているものがたくさんいます。イモリはその中の一種にすぎません。人の常識を覆す、そして人の生活をより良いものに変えていく、そんな面白い生物を見つけてみませんか。筑波大学の生物学類はそうした研究で溢れています。
「イモリの肢再生の様式が変態と関係があるかどうか調べる」というテーマはどうでしょうか。私たちの最新の研究から、イモリの肢再生の様式(メカニズム)は変態すると切り替わることがわかっています。しかし、変態が直接この転換に関わるかは不明です。そこで、変態抑制剤を使ってイモリの変態を人為的にコントロールすることで、この点を調べます。
研究者が教える動物飼育 第3巻 ウニ、ナマコから脊椎動物へ
針山孝彦、小柳光正、嬉正勝、妹尾圭司、小泉修、日本比較生理生化学会:編(共立出版)
アカハライモリは、我が国の固有種であり、日本人に古くから親しまれ、また多くの歴史的研究を支えてきた実験動物。本書では、アカハライモリの研究史や実験動物としての利点が書かれ、アカハライモリの重要性が読み取れるだろう。飼育法も記載されているので、イモリを実際に育ててみてほしい。その中で観察される現象の中に、再生メカニズムの進化に関わるヒントが隠されているかも知れない。