【実験動物学】
ヒトの肝臓と膵臓を持つマウスを作る
高橋智先生
筑波大学
医学群 医学類・医療科学類(人間総合科学学術院 人間総合科学研究群 フロンティア医科学学位プログラム/医学学位プログラム)
iPS細胞は様々な難病の治療に期待されています。しかし病気の治療に役立つ「細胞」を作ることはできても、まだ複数種の細胞が立体構造をなす「臓器」を作るのは難しいといわれています。
そこで最近では、病気がどのように起こるかを調べたり、iPS細胞からどのように臓器ができるかを調べたりするために、ヒトの病気で見つかった遺伝子異常を持つモデル動物を作製する、実験動物学の研究が盛んになっています。特にその作製方法として、ゲノム編集という方法が最近になって使われはじめました。ゲノム編集技術を使うことにより、これまで1年以上かかっていた遺伝子改変動物の作製が数ヶ月で可能になっています。
私は実験動物学を専門に、ヒトの臓器を有しているモデル動物の作製をめざしています。具体的には、遺伝子改変技術を用いてヒトの肝臓を持ったネズミを作りました。さらに、肝臓からインスリン産生細胞を作りだしました。ふつうインスリンは膵臓内部の島の形状をしたランゲルハンス島と呼ばれる細胞群から産生しますが、作製した肝臓の一部を使いインスリンを発現させるような細胞分化を誘導すると、正常の膵臓と同じぐらいのインスリン産生細胞を作れるのです。
これによって糖尿病患者がインスリン注射を打つ必要がなくて済むようになります。またランゲルハンス島の移植も必要でなくなります。インスリン産生細胞の発生・分化過程を明らかにし、糖尿病のための新規の再生治療法の確立をめざしています。
宇宙ステーションでのマウスを使った実験
遺伝子改変技術を用いて、ヒトの血液を有するマウスも作製しています。それによってヒトの血液病の原因の解析や治療法の開発が進み、血液がんなどの薬の開発や治療法の開発も、これまでより正確にできるでしょう。さらに、国際宇宙ステーションの日本の実験棟「きぼう」でもマウスを長期飼育しています。
この計画は、宇宙空間でマウスを長期飼育し、宇宙環境における各臓器の遺伝子発現変化に対する影響を、網羅的に評価します。また、骨量減少・筋萎縮のメカニズムを明らかにすることによって、高齢化対策に役立てられます。宇宙の放射線を浴びた場合、長期被ばくするマウスの生物学的影響はどうなのかを明らかにすることで、放射能防護研究にも貢献できます。「きぼう」にはそれまで生物としては小型魚類を飼育していましたが、次はヒトに近い哺乳類としてマウスが選ばれたというわけです。
一般的な傾向は?
●主な業種は→大学、製薬企業、病院、バイオ系ベンチャー企業
●主な職種は→教員、研究員、臨床医師、技術職員
●業務の特徴は→動物実験に関連した職業
分野はどう活かされる?
解析方法として動物実験を使っている卒業生が多いです。
ゲノム編集技術を用いて、ヒト疾患のモデル動物の開発や、ヒト疾患の発症機構の解析を行っています。自分で新たな生物を作製してみたい方は、ぜひ参加してください。
生物にはまだまだわからないことがたくさんあります。ぜひ生物のなぞに挑戦してみてください。
【テーマ例】
・マウスの飼育実験
・マウスES細胞の培養実験
・ゲノム編集
ジュラシック・パーク シリーズ
『ジュラシック・パーク』『ジュラシック・ワールド』など。遺伝子組換え技術を使い、絶滅した恐竜を再生させたが…。SFとしても面白いが、遺伝子組換え実験の基本的な解説があるとともに、遺伝子組換え実験の危険性も示していて、科学的にも大変良い作品だ。