【高分子化学】
電気・光・熱エネルギーをあやつるソフトマテリアル
高木幸治先生
名古屋工業大学
工学部 生命・応用化学科 ソフトマテリアル分野(工学研究科 生命・応用化学系プログラム)
ふつう金属は電気を通しますが、プラスチックは通しません。金属は自由電子を持っていてそれが自由に動くことで電気を通すのですが、プラスチックはそうではないからです。しかし2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士によって、プラスチックの中にも電気を通す物質が存在することが発見されました。
それは導電性の高分子、またはポリマーと呼ばれます。この高分子(≒プラスチック)はπ電子という動きやすい電子を持っています。そのままでは導電性はありませんが、ヨウ素や臭素を少し入れるドーピングという作業を行うと、金属のように電気を通すことがわかりました。
私は高分子を初めとしたソフトマテリアルと呼ばれる材料を作ることを専門にしています。その中で私たちは、電子が動きやすい「π電子系」分子を扱っています。研究室では、いろいろなπ電子系分子をつなぐことで高分子化したり、それらを並べることで空間配列を制御したり、電子を押し引きすることで電荷分布を制御する方法を追求しています。
これらが意のままにできるようになると、様々な色で強く光る材料、電気をよく流す材料、太陽エネルギーを高効率変換する材料、温度差によって電気を生み出す材料などが手に入ります。誰もが簡単にエネルギーをあやつることのできる社会が到来し、資源環境問題を解決することが可能になります。
有害金属を使わないものづくり
上で述べたような材料を作るには、たくさんの工程を経るだけでなく、有害な金属を使用するケースが多いです。ただし、材料を作る過程が資源環境問題を解決することに逆行してはいけません。私たちは、できるだけ有害な金属を使わず、また短工程で目的の材料を作ることにも興味を持って研究を進めています。
一般的な傾向は?
●主な業種は→化学・材料系
●主な職種は→研究開発、生産技術
分野はどう活かされる?
化学・材料の知識を活かしたものづくりは、幅広い分野に応用できます。学部あるいは大学院課程を修了した学生は、プラスチック、繊維、ゴム、塗料、化粧品、医療機器を扱う化学関連企業で製造業に携わっています。また、エレクトロニクス、自動車、情報通信の分野でも活躍できる卒業生を送り出しています。
私たちの所属する分野は、高分子に代表されるソフトマテリアルと称される材料を幅広く網羅しています。ソフトマテリアルとは、文字通り柔らかい材料のことで、金属やセラミックスのような硬い材料とは対極をなします。身の回りのゴム、繊維、紙などのほか、ゼリーなどの食品もソフトマテリアルです。合成、物性、構造、物理化学、機能という柱を主軸としつつ、近年はナノやバイオ分野に関する研究も盛んに行っています。
高校生の皆さんに伝えたいこと。あらゆる分野で現代社会に役立っている高分子物質は、天然にあるものから人工的に作られるものまで、非常に多種多様です。今後、社会からの高いニーズに応え、より豊かで持続可能な社会を実現するためには、今まで以上に高分子を意のままに造ったり壊したりできることが重要になってきます。私たちの研究分野では、それを可能にする化学を日夜追求しているのです。
私は、中学校の頃は英語教師を目指していました。最初は苦手科目でしたが、海外の人とも自由に会話できる言葉の面白さを広めたいと思ったためです。高校では、宇宙に興味を抱き、誰も知らない世界を知ろうと、いつか役立つであろう物理学を一生懸命勉強しました。結果的に、現在は化学を専門としていますが、良くも悪くもいろいろなことに興味を持つ性格と自己分析しています。若い皆さんの可能性は無限大です。目標は途中で変わってもいいので、壁にぶつかることを恐れないで生きましょう。
不安定な化合物を使わずに、環境に無害な触媒と原料となる分子を混ぜるだけで(あっという間に!?)反応が完結し、こうして得られる材料が太陽光をよく吸収し、電気もよく流し、ピカピカ光る材料を作ることができます。ものづくりの実験は、はまると病みつきになること間違いなしです。
ドラえもん
藤子・F・不二雄(小学館てんとう虫コミックス)
ちょっと中高生には馴染まないかもしれませんが、言わずと知れた日本を代表する名作漫画です。ドラえもんが四次元ポケットから出すひみつ道具には、誰もが幼い頃に憧れを抱いたに違いありません。一つのアイテムが世界を一変させる魅力は、私たちの化学の世界にも通じるものがあります。ドラえもんを未来から連れてくることは難しいですが、皆さんがドラえもんになることはできるかもしれません。
すごい分子 世界は六角形でできている
佐藤健太郎(講談社ブルーバックス)
私たちが研究している物質の元祖ともいうべき六角形の芳香環「ベンゼン」の魅力を余すところなく紹介しています。これを読めば、皆さんも化学の虜となることは間違いないでしょう。日本では馴染みのないサイエンスライターが執筆する著書としても一読の価値があると思います。