【合成化学】
炭素-炭素結合を自由につなぎ変える新しい触媒を開発
坂井教郎先生
東京理科大学
理工学部 先端化学科(理工学研究科 先端化学専攻)
亀の子の形状でよく知られたベンゼン環は6個の炭素原子が結合しています。ベンゼン環に水素原子6個が付いた最も基本的な化合物がベンゼンです。このように炭素原子を含む化合物を有機化合物といいます。また、生物の遺伝情報の基となるDNAも有機化合物からできており、有機化合物は生命活動にとっても非常に大切な物質です。
一方、炭素-炭素結合を自由につなぎ変えることで新しい有機化合物を作り出し、有機合成化学は工業的に著しい発展をしてきました。中でも重要な働きをするのは、炭素に結合する原子を切り取って別の原子を結合させる、つまりハサミとノリの役割をする「触媒」です。特に、鈴木章・根岸英一両博士のノーベル化学賞受賞理由になったパラジウム金属触媒の反応は、合成化学への応用の幅を大きく広げました。
高い効果の医薬品開発も目指して
私の専門は有機合成化学、有機金属化学です。有機合成化学の中でも炭素-炭素結合を切断し自在に別の原子(炭素、窒素、酸素あるいは硫黄など)へとつなぎ変える新しい金属触媒の開発をしています。具体的には、石油からアルコールに分子変換する触媒や、フロンガスのような有機フッ素化合物からフッ素原子だけを別の原子に変換する触媒の開発を行っています。究極的には、それによって、エネルギー供給の資源問題や地球温暖化の環境問題の解決を目指します。
また、多種多様な医薬品分子の基となるベンゼン環のような環状有機化合物を効率よく選択的に合成することができる新しい方法の開発もしています。それによって、今まで以上に副作用の少ない抗ガン剤などのように、病気に対して高い効果を示す医薬品開発を目指しています。
市販されていない金属触媒や有機化合物は、自分たちで合成しなくてはなりません。
合成した原料物質を再結晶という操作できれいにしている最中です。
一般的な傾向は?
●主な業種は→化学、材料、製薬、エネルギー
●主な職種は→研究開発、生産技術(基礎研究、製品開発)
●業務の特徴は→精密合成
分野はどう活かされる?
身の回り数多く存在する有機化合物を効率よく作り出す基盤(下支え)部分を研究テーマにしていますので、化学合成が必要な様々な業種に適応できます。
我々が所属する先端化学科では、有機化学、無機・分析化学、物理化学の大きな3つの研究分野に分かれています。学科の大きな特徴として、学生実験が非常に多くカリキュラムに組み込まれていることが挙げられます。また、6年一貫教育コースを導入しており、学部4年生から大学院修士課程の講義を先行して修めることができるため、大学院では思う存分研究活動に集中することができます。実験好きな生徒さんには非常に魅力的なカリキュラムだと思います。
空気中の酸素や水で分解してしまう金属触媒や有機化合物は、グローブボックスという窒素ガスを満たした
専用の装置の中で秤量したり、化学反応させたりします。
皆さん、積極的に読書をしましょう!本を読むことは、皆さんの語彙力や知識量を増やすだけではなく、作者の意図や登場人物の行動を読み解くことで論理的な物の考え方を身につけることができます。この論理的思考方法が将来自分の頭で考えて研究を進める際に非常に大きな武器となります。
【テーマ例】
・縮合反応を利用したサルファ剤の合成
・スチレンとベンゼン誘導体のクロスカップリング