【無機化学】
化学反応の奇跡の一つ「触媒」に取り組む
中島隆行先生
奈良女子大学
理学部 化学生物環境学科 化学コース(人間文化総合科学研究科 化学生物環境学専攻)
これまで触媒は、人類が直面する課題解決にどれほど大きな役割を果たしてきたことでしょうか。化学反応で直接反応しにくいもの同士を反応させたり反応速度を速めたりする役をしながら、自身は変化しないものを触媒といいます。生体内での酵素の重要な働きも触媒反応です。
工業的にも今日、反応の種類に応じて多くの種類の触媒が開発され、私たちの暮らしを豊かにしています。この触媒によって医薬品や機能性材料は、より効率的に生産されています。触媒は豊かな生活を送るための様々な技術として、人間の生活を支えてきたと言えます。
金属錯体の触媒反応の開発
無機化学の分野の中で、私の専門は錯体化学、触媒化学です。錯体化学は、周期表で遷移金属と呼ばれる金属元素と非金属元素を結合させます。それによってできた化合物を金属錯体といいます。金属錯体は、触媒に幅広く利用されます。
私は複数の金属イオンにより促進される金属錯体の触媒反応の開発に取り組んでいます。触媒の効率を向上させることや、または簡便に合成できるルートを開発することによって、エネルギー消費量の少ない触媒反応の開発を目指しています。そのために、従来にない優れた触媒活性や様々な反応に対応できる高い選択性を有する触媒反応を開発し、環境に調和した社会の構築に貢献したいと考えています。
化合物の構造を3次元的に明らかにすることができる装置。試料の単結晶を作成しなければならず、
時間と手間がかかるが、測定が無事に終了すると3次元構造が分かるので非常に有益。構造解析の瞬間が
ワクワクドキドキです。思いもかけない結果が出た時の高揚感は忘れられません。
一般的な傾向は?
化学・食品・建築・自動車など多種多様な企業で研究者として活躍されています。
分野はどう活かされる?
化学は物質を基盤とする学問なので、いろいろな分野で必要とされています。
金属と非金属の原子が結合した構造を持つ化合物を扱う、錯体化学を専門とする教員が多数在籍し、専門的な授業を行っています。少数教育の利点を活かし、きめの細かい対応を可能としているのが特徴です。
研究室の建物屋上からの眺め。手前に見える建物が大学の記念館(重要文化財)で、その奥に見えるのが東大寺の大仏殿です。ここからの眺めは四季折々で素晴らしく,気分転換したいときにここに来ます。1月の最終土曜日には若草山の
山焼きを見ることができます。奈良女子大学は古都奈良の中央に位置し、周りを史跡名勝が取り囲んでいます。
研究で扱う化合物の多くは酸素や水が苦手です。そのため、空気中で扱うと壊れてしまいます。
それを防ぐのにグローブボックスを使用します。この箱の中は水も酸素もない状態で、反応性の高い化合物を
合成するのに重宝しています。
偉大な化学の発明や発見には予期しない偶然の産物によって見つかったものがあり、これをセレンディピティーと呼びます。私の研究の中にも、小さいですが、たくさんのセレンディピティーがありました。日々の研究は、ときに単調で失敗が連続することもありますが、新たな発見の感動や興奮を味わいたくて毎日研究に励んでいます。ぜひ、一緒にセレンディピティーを体験し、化学の歴史に皆さんの名前を刻んでみませんか。
決定版 感動する化学 未来をひらく化学の世界
日本化学会編(東京書籍)
現代社会は、科学技術の進歩により大きな恩恵を受けている。その中でも、物質を取り扱う「化学」は科学技術の中核として大きな役割を果たしている。本書では、現代社会にある実際の製品を紹介しつつ、化学との関わりを説明している。高校生の教科書に沿うような順番で、86の項目を見開きで紹介していて、わかりやすい構成だ。化学と社会との結びつきを理解することで、高校の化学にも興味を持ってほしい。
錯体のはなし
渡部正利、山崎昶、河野博之(米田出版)
錯体とは、金属イオンのまわりに分子やイオンが結合したものであり、化学工業や医薬品の分野など広く活躍しているが、残念ながらあまり知られていない。この本では、錯体の発見の歴史から身の回りにある錯体の例などを紹介。高校生にも理解しやすい内容だ。
元素周期表で世界はすべて読み解ける 宇宙、地球、人体の成り立ち
吉田たかよし(光文社新書)
元素周期表を通じて、人体、地球、宇宙など、我々の世界をわかりやすく面白く説明している。周期表の見方やグループ(列)・周期(行)をかみ砕いて説明するに留まらず、レアアースやレアメタル、原発事故の問題など、最近のトピックスも紹介しており、高校生にも興味を持ってもらえるだろう。