【物理化学】

有機分子の発光現象を使って結晶生成の謎に迫る

伊藤冬樹先生

 

信州大学

教育学部 学校教育教員養成課程 理科教育コース(総合医理工学研究科 総合理工学専攻)

 

 どんなことを研究していますか?

水は、温度や圧力の変化によって氷になったり、あるいは気体から液体へと状態が変化したりします。このように組成は同じでありながら、固体、液体、気体など異なる「相」に移行する物理現象を、相転移といいます。もう少し一般化して言うと、相転移とは、温度や、それ以外にも光や電場や磁場などの外部要因で、物質の性質が大きく変化してしまうことです。

 

相転移現象で興味深いものとして、有機化合物が規則正しく配列した固体になっている有機結晶が注目されています。有機分子の固体は、太陽電池やディスプレイなどに利用される有機ELといった光電子材料に利用されており、相転移のダイナミックな働きを明らかにすることは、大きな課題になります。

 

溶解しやすい医薬品を製造にも寄与

 

私の専門は光化学です。光化学は光の関与する化学現象に関する研究分野です。私は、光電子材料など有機分子系の結晶生成過程を、発光色の変化を使って明らかにする課題に取り組んでいます。同一の有機分子種から様々な結晶ができます。

 

最大の課題は、結晶の形状のわずかな違いにより、結晶材料の溶解性、発光特性、電気的特性などに大きな影響を与えることです。この課題を解決した研究成果は、有機電子デバイスの高性能な発光材料の開発のための結晶化条件の探索につながります。

 

例えば医薬品の場合、一分子として薬効を持っていたとしても、それが体内で溶解しなければ作用しません。つまり、溶解しやすい条件を満足した結晶形の医薬品を製造する必要があります。したがって医薬品の製造プロセスの確立にも役立ちます。

 

芳香族炭化水素(ペリレン)の発光、溶液状態、結晶状態でも並び方によって発光色が大きく変化する。

 この分野はどこで学べる?

「物理化学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

17.化学・化学工学」の「67.物理化学、分子デバイス化学(液晶、光触媒等)」

 


 学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

 

●主な業種は→小中学校の教師

 

分野はどう活かされる?

 

研究そのものを活用する職種への就職ではありませんが、理科の教師として、専門分野の研究を進めることを通して、科学的なものの見方や考え方を涵養できると考えながら、教育・研究を進めています。

 

 先生の学部・学科はどんなとこ

所属機関は、教員養成系の学術研究院であることから、理科教師を養成することに優れているほか、研究費の水準の目安になる国の科研費採択率は全国でも高いのが特徴です。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう

研究室ゼミ旅行での発表会の様子。卒業研究や修士論文の中間発表会を、科学館や工場見学も含めて実施しています。

教師になった際の旅行の企画や計画の練習も兼ねています

(2020年は新型コロナウイルス感染症につき開催できませんでした)

 先生からひとこと

研究は、無地のキャンバスに自由な発想で絵を描くことと同じように感じます。また、教員養成系ではありますが、教師という仕事でも科学的なものの見方や考え方を深めることや、他者に論理的に説明するといったことは重要です。研究活動を通じて身につけることができると確信しています。

 

 先生の研究に挑戦しよう

なかなか難しいのですが、無機系の物質の結晶成長などの条件制御を研究することはできるかもしれません。結晶化状態を見るには、ハイスピードカメラなども活用できると思います。顕微鏡で結晶のできる状況を観測するのも一つです。

 

また過飽和状態の酢酸ナトリウムに刺激を与えると、一気に結晶となって析出し、熱を発する。それを利用したエコカイロの研究なども挙げられます。

 

 興味がわいたら~先生おすすめ本

結晶とはなにか

平山令明(講談社ブルーバックス)

ダイヤモンドや水晶、ルビーといった宝石や、岩石、食塩の結晶など、結晶の形は美しい。本書は、結晶を化学の視点で見つめ、化学結合や状態変化、原子分子の配列など、化学の基礎に触れている。化学を単なる受験勉強の一つとして捉えるのではなくて、身の回りの現象を新しい視点から「考える」きっかけとなるだろう。第1章は、高校の化学と大学の物理化学との橋渡しとなり、第4章は「結晶はどのようにして作られるのか」は、そのメカニズムについて簡単に説明する。第5章では、実験研究に必要な基礎知識がわかる。



京大式 おもろい勉強法

山極寿一(朝日新書)

著者は、京都大学の前総長にして人類学者、霊長類学者であり、ゴリラ研究の第一人者。本書は、アフリカでのゴリラ研究の経験に基づく勉強法や人生訓。タイトルからは勉強のテクニック本のような印象を受けるが、それとはまったく異なり、グローバル時代にどんな人が求められるのか、どんな力が求められるかがわかる。



結晶は生きている その成長と形の変化のしくみ

黒田登志雄(サイエンス社)

「噛めば噛むほど味が出る」、結晶成長の研究者のバイブル。結晶の構造と成長を、平易に、かつ奥深く記述している。何度読んでも勉強になる。著者は北海道大学で雪結晶を研究、日本の結晶成長理論の第一人者である。