【薄膜・表面界面物性】
自作した走査型プローブ顕微鏡で、固体の“表面”のナゾに迫る
新井豊子先生
金沢大学
理工学域 数物科学類 物理学コース(自然科学研究科 数物科学専攻)
目の前にある固体の「表面」と「中身」では、どちらが昔から研究され、物の性質を決める最小の単位である「原子」がどのように並んでいるか分かっているでしょうか? 目に見えている部分なのだから、当然、「表にで見る色や形は「表面」しかわかりません。
また、「中身」は切らなければわかりませんが、切ってしまえば「切り口」は「表面」ですから「中身」がわかったことにはなりません。しかし、「原子がどのように並んでいるか?」などの原子スケールでの性質については、「中身」はX線などを使って100年以上前から研究され、かなりよくわかっています。
それに対し、原子レベルの「表面」は、目で覗いて見る光学顕微鏡を使っては小さすぎて見ることができませんし、原子の並び方が「中身」とは違うことだけしかわかっていませんでした。そのため、ノーベル物理学賞を受賞した物理学者パウリが「固体は神様が創り給うたが、表面は悪魔が創った」と言ったほどです。
表面を研究することは、表面にどのように原子が並んでいるのかを知って終わりではありません。表面はすべての反応の舞台でもあります。表面に特有な性質を知って、それを制御する技術を考え、新たな原子レベルの構造物を表面に創っていく、それらすべてが表面の研究です。
研究は、原子よりも小さいサイズに
1982年に走査型トンネル顕微鏡(STM)という尖った針で表面をなぞるようにして表面を見る(知る)顕微鏡が発明され、その後、STMと同じように尖った針を試料に近づけて、針と試料との間に働くいろいろな物理的な現象を検出して表面を見る顕微鏡群(走査型プローブ顕微鏡)が次々に発明されました。そしてこれらの顕微鏡群の中で、原子1つ1つを見ることができるのが、STMと周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)の2種類の顕微鏡、またはこれらを複合化した顕微鏡です。
これらを使って、原子1つ1つを見たり、性質を調べたり、さらには、原子を動かして、新しい構造が造られたりしています。そしてさらに、原子の形(周りを回っている電子の軌道)を調べたり、電子のスピンを調べたり、原子サイズよりも小さなサイズのことも調べられ始めています。そして、表面で起こる不思議な現象を使った新しいデバイスなどを造る試みも始まっています。
一般的な傾向は?
電気系・精密機械系などのメーカーやシステム情報系の企業にも就職しています。また、2〜3割の修了生は、高校の理科(物理)教員になりました。
分野はどう活かされる?
現代物理学の知識と、精密な計測技術。
身の回りで起こっている不思議な現象について、どうしてだろうと深く考えてみて下さい。考えてわからなければ、ネットで検索してみて下さい。ネットで関係しているキーワードが分かったら、本で、より深く調べてみましょう。不思議な現象の本質がわかったらとってもワクワクしますよ。そこには表面の謎が関係しているかもしれません。
すごいぞ! 身のまわりの表面科学 ツルツル、ピカピカ、ザラザラの不思議
日本表面科学会(講談社ブルーバックス)
温泉の鏡はなぜ曇らない?うるおいのある肌の秘密とは?サメ肌水着はなぜ速く泳げるのか?脳の中の表面って何?鏡、肌、サメ肌、脳の表面…、どれをとっても「表面」に違いない。身近な表面から最先端ナノテクノロジーの表面科学まで、様々な表面に関する疑問を解説する。表面科学について研究する大学や企業の研究者が所属する「日本表面科学会」が一般向けの啓蒙書として編集している。