Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
ドイツ。シンプルな生活スタイルの中にも、本質をついた思慮深さを感じることがあります。学術や芸術の伝統に加えて、豊かな自然も魅力的です。ドイツを体験すると、日本の良さにも気づくことができます。
最先端研究を訪ねて
【教育学】
防災教育
日本のBOSAIを世界へ
藤井基貴先生
静岡大学
教育学部 学校教育教員養成課程 発達教育学専攻 教育実践学専修
教育学研究科 教育実践高度化専攻(教職大学院) および 防災総合センター 兼担
◆「教育学」の一環として「防災教育」について研究を始めたきっかけを教えてください
もともと専門とする哲学の視点から、「道徳教育」に関する授業研究を行っていました。2011年の東日本大震災をきっかけとして、学生から「防災の授業をつくりましょう」と提案があり、学生たちと共に試行錯誤しながら、防災教材および授業開発を進めてきました。
防災教育というと、避難訓練というイメージがありますが、全国の様々な事例を検討していく中で、道徳授業の中で防災を取り上げることもできるのではないかと思い、災害時の判断力を高める「防災道徳」と呼ばれる授業案を開発して、改善・普及を進めています。
これまでに、300校以上で授業案を採用いただきました。また、低年齢層や特別支援学校向けの防災紙芝居も開発し、現在ではそれらを英語やスペイン語に翻訳して海外にも発信しています。
◆3.11以降の「防災教育」はどのような変化がありますか
「防災」というテーマは、もともと理工学系の研究対象であることが多かったのですが、東日本大震災以降は、人文・社会科学も研究対象とするようになりました。というのも、災害に対する備えや避難方法を改善していくには、人間の心理や特性への理解がなければならないからです。
そのため、防災というテーマは今日では極めて学際的な研究領域となっており、多くの専門を異にする研究者が、課題解決に向けて力を合わせています。
◆開発された新しい教材とはどのようなものですか
災害時の判断力に焦点をあてた「防災道徳」授業に加えて、災害時要援護者のための防災教材の開発にも着手しています(※)。制作した「防災紙芝居」や「防災絵本」などは、地域の高齢者、幼児、外国籍の方々への防災講座などで活用されています。
現在は、防災を推進する教員やユースリーダーを育成するために、各地の学校の校内研修と連携した授業研究や、高校生による防災講座の支援も進めています。
◆研究や教材開発によって、人々の防災意識が変わってきたと思うことはありますか
研究の進展によって、学校や地域で防災教育を進めるためのツールやアプローチが拡張していく実感を持っています。これによって、避難訓練に向けての動機付けや日常的な防災への意識が喚起されるだけでなく、児童生徒が「主体的・自律的」に考え、行動する姿勢も養われていると評価いただいています。
大切にしているアプローチは「脅さない防災」、「考える防災」、「自然と共生する防災」という視点であり、児童生徒の発達段階に応じつつ、学校・地域・家庭を総合的・包摂的にとらえた実践を目指しています。
世界規模の気候変動が続き、世界は「災害の時代」に入ったと言われています。日本は防災教育の先進国と言われており、藤井研究室では学生たちと災害時の思考力や判断力に焦点をあてて、防災教材の開発・普及を進めてきました。
また、災害時要援護者と呼ばれる人たちへの教育支援にも力を入れています。災害時には、社会的な格差が被害の大きさに直結してしまう現状があります。加えて、防災や減災に向けた取組は国際的に大きな格差があります。
「誰もが災害に強い住み続けられるまちをつくりたい」。私たちはJICAや日本赤十字社とも連携して、「日本のBOSAIを世界へ」を合言葉に、海外にも日本の防災文化の発信を行っています。
※藤井研究室の取組紹介動画
「日本のBOSAIを世界へ 教職を目指す学生たちによるSDGsへの挑戦」
私の研究史には、3人の加藤先生との出会いがありました。
大学では、哲学者の加藤泰史先生(一橋大学名誉教授・椙山女学園大学教授)にご指導いただきました。先生は気さくに飲み会や食事に誘ってくださり、古本屋めぐりなどもご一緒しました。先生からいただいた「本にお金を惜しんではいけない」は今も私の金言となっています。
大学院では、教育史をご専門とする加藤詔士先生(名古屋大学名誉教授)にご指導いただきました。先生からは史料に誠実であること、風雪に耐える研究を目指すことを教わりました。
3人目は、静岡大学で同時期に着任した心理学者の加藤弘通先生(北海道大学准教授)です。先生からは統計学の面白さと哲学の学問的価値に、改めて気づかせていただきました。今も論文を書いていると、お世話になった先生方の顔が思い浮かび、背筋が伸びることがあります。
・研究室全体の共同研究:防災教育、道徳教育、スポーツ倫理に関する授業開発
・学部:ドイツにおける政治教育、道徳教育の授業研究、幼稚園や学童保育の研究、僻地における教育、オルタナティブ教育に関する研究等、高等教育の研究など
・大学院:道徳教育の授業開発、特別支援学校における防災教育、教員の多忙化など
◆主な業種
・小・中学校・高等学校、専修学校・各種学校等
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
・官庁、自治体、公的法人、国際機関等
◆主な職種
・小学校・中学校・高校教員など
・大学等研究機関所属の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
道徳教育や防災教育の実践に強みを持った教員として、地域や学校で活躍しています。卒業生の多くがまだ学校では若手の教員であるため、研究室との連携に強みを生かしています。そのため現在在籍している学生たちが、卒業生の勤務する学校と連携して教育実践の改善を進めることが多くあります。
静岡大学教育学部の教育実践学専修は少人数指導を特色としており、大学での理論的学びと学校での体験的学びを総合しながら、学生たちが確かな教育力の習得を目指す特色ある教育機関です。
私は、学部では教員養成課程の中の基礎的領域にあたる科目を主として担当しています。具体的には「教育の原理」、「教育哲学」、「道徳指導論」といった教職科目です。また、学際的な領域としてオムニバスで「学校におけるリスクマネジメント」、「スポーツ・プロモーション論」などの専門科目も担当しています。
ゼミ指導では学生たちの主体性を大切にしながら、地域の教育課題に応じた実践的な研究姿勢を大切にしており、各地に出向いてフィールドワークも行っています。
・みなさんの暮らしている地域に過去にどのような自然災害が起き、その後どのような取組や対策が進められたのかについて調べてみましょう。
・私の研究室では高校生による防災講座を支援しています。みなさんが小学生や幼児に防災教育を行うとしたら、どのような教材をや授業を開発してみたいですか?
※関連リンク:藤井研究室の取組紹介(静岡大学ニュース)
質問する、問い返す 主体的に学ぶということ
名古谷隆彦(岩波ジュニア新書)
人工知能社会の到来が近い現在、人間の主体性や自律性を回復させ、人間の強さ・弱さを理解できる教育が改めて求められている。日本の道徳教育や哲学教育の実例が紹介されており、教師が生徒に教えるだけの「一方通行」の学び方ではなく、生徒が自分で問いを見つけて学ぶためのヒントが示されている。静岡大学教育学部藤井基貴先生の研究室の取り組みも紹介されている。
永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編
カント:著 中山元:訳(光文社古典新訳文庫)
理性を持って生きること、そして大人になること。これらについて原理的・歴史的に考えてみたい人は手にとって欲しい。カントは同書内の小論「啓蒙とは何か」で、読者に「あえて賢かれ」と呼びかけている。現代社会において、改めてカントの主張はどのような意味を持つだろう。当時の時代背景とともに考えてみて欲しい。現代のカント入門書としても最適な1冊。
罪と罰
ドストエフスキー:著 江川卓:訳(岩波文庫)
高利貸の老婆を殺してしまった貧乏な大学生・ラスコーリニコフ。神への愛を捨てず自己犠牲の精神に生きる少女・ソーニャ。この2人を物語の軸として、彼らの周りの人々の人間模様や哀しい生きざまもふんだんに盛り込んだ、不朽の文学作品。ラスコーリニコフは、犯した罪をどのようにあがなうのか。人が罪を犯す心理や人間の尊厳について考えてみて欲しい。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
ドイツ。シンプルな生活スタイルの中にも、本質をついた思慮深さを感じることがあります。学術や芸術の伝統に加えて、豊かな自然も魅力的です。ドイツを体験すると、日本の良さにも気づくことができます。
Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?
『グッバイ、レーニン!』。大学院の時に教育学者の近藤孝弘先生(早稲田大学教授)から教えていただきました。内容はもちろん素晴らしいですが、近藤先生や他の大学院生たちとこの映画について語り合ったことが、何よりの思い出となっています。
Q3.大学時代の部活・サークルは?
ESS(英語サークル)。ひょんなことから入部することになったのですが、4年間で英語を話すことにも慣れ、多くの仲間にも恵まれました。サークル活動を通して学んだことは、現在のゼミ活動にもそのまま活かされています。