Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
ドイツ。シンプルな生活スタイルの中にも、本質をついた思慮深さを感じることがあります。学術や芸術の伝統に加えて、豊かな自然も魅力的です。ドイツを体験すると、日本の良さにも気づくことができます。
最先端研究を訪ねて
【教育学】
教育の近代化
現代に影響を残すドイツにおける教育の近代化
藤井基貴先生
静岡大学
教育学部 学校教育教員養成課程 発達教育学専攻 教育実践学専修
教育学研究科 教育実践高度化専攻(教職大学院) および 防災総合センター 兼担
◆先生の研究テーマと、その研究を始めるに至った経緯を教えてください
研究テーマは、ドイツにおいて「教育の近代化」がどのように進められたのかということを、哲学書や歴史文書から裏付けようとするものです。近代ドイツの教育思想は「自律」や「主体性」といった概念に新たな価値付けを行い、日本をはじめ世界の教育制度に大きな影響を与えたという意味で、とても重要です。
学部時代は哲学科で「カントの教育思想」をテーマに研究をしていました。大学院では教育学研究科に進学して、教育学や歴史学について学びました。哲学、教育学、歴史学という異なった学問領域の基礎的なトレーニングを受けたことが、研究者としての強みになっていると思います。
◆研究によって、どのようなことが明らかになってきましたか
18世紀後半のドイツでは哲学者や教育家だけでなく、医師や神学者にもルソーを始めとする近代啓蒙思想の影響が現れていることを、資・史料より裏付けてきました。これにより一部の大思想家だけでなく、社会的運動として教育改革が進められたことと、これが次第に近代国家によって取り込まれていく過程や要因が明らかになってきました。
◆どのような研究方法を大事にされていますか
過去の教育思想について分析するために、その時代の教育書や児童書を読み解くことが基本的な研究手法です。本研究ではこれに加えて同時代の医学書、宗教書、大学文書史料なども参照し、多角的・多面的に思想を理解しようと試みています。
ドイツの古文書館に通い続け、たまたま手に取った文書の中から重要な史料を発見することもありました。テーマを追い続けることで思わぬ発見にめぐりあうことは、あらゆる研究領域で共通しています。そして多くの気付きや発見は計画通りには生まれない。そこに研究の1つの醍醐味があると思います。
私の研究史には、3人の加藤先生との出会いがあいました。
大学では、哲学者の加藤泰史先生(一橋大学名誉教授・椙山女学園大学教授)にご指導いただきました。先生は気さくに飲み会や食事に誘ってくださり、古本屋めぐりなどもご一緒しました。先生からいただいた「本にお金を惜しんではいけない」は今も私の金言となっています。
大学院では、教育史をご専門とする加藤詔士先生(名古屋大学名誉教授)にご指導いただきました。先生からは史料に誠実であること、風雪に耐える研究を目指すことを教わりました。
3人目は、静岡大学で同時期に着任した心理学者の加藤弘通先生(北海道大学准教授)です。先生からは統計学の面白さと哲学の学問的価値に、改めて気づかせていただきました。今も論文を書いていると、お世話になった先生方の顔が思い浮かび、背筋が伸びることがあります。
研究室全体の共同研究:防災教育、道徳教育、スポーツ倫理に関する授業開発
・学部:ドイツにおける政治教育、道徳教育の授業研究、幼稚園や学童保育の研究、僻地における教育、オルタナティブ教育に関する研究等、高等教育の研究など
・大学院:道徳教育の授業開発、特別支援学校における防災教育、教員の多忙化など
◆主な業種
・.小・中学校・高等学校、専修学校・各種学校等
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
・官庁、自治体、公的法人、国際機関等
◆主な職種
・小学校・中学校・高校教員など
・大学等研究機関所属の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
教育学の基礎を学びながら、実践にも強みを持った教員として地域や学校で活躍しています。大学初年次から学校での訪問活動を行うことがカリキュラムで単位化されているため、学校と大学を日常的に行き来しながら、幅広い視野で学校及び教育について学んでいます。
小学校の教員として採用された後に、特別支援学校や特別支援学級に配属されることもあるようですが、卒業生からは学生時代に培った実践力と省察力で柔軟に対応できていると聞きます。
静岡大学教育学部の教育実践学専修は少人数指導を特色としており、大学での理論的学びと学校での体験的学びを総合しながら、学生たちが確かな教育力の習得を目指す特色ある教育機関です。
私は、学部では教員養成課程の中の基礎的領域にあたる科目を主として担当しています。具体的には「教育の原理」、「教育哲学」、「道徳指導論」といった教職科目です。教育学という学問は教員養成の基礎理論であるばかりでなく、社会における教育の意義や価値について考えるための学問です。
そのため教育の哲学、歴史、社会学を出発点として、近年では経済学、人類学、財政学等と扱うテーマは多岐にわたっています。また、具体的な実践との関わりで理論を往還的に考えられる点も、教育学の特色といえます。
世界各地から20名以上の研究者を招き、静岡大学で国際学会を開催したときの様子
(静岡大学ニュースより:https://www.shizuoka.ac.jp/news/detail.html?CN=5557)
OECD(経済開発協力機構)は2000年から3年に一回のペースで、世界の15歳の生徒を対象とした学習到達度調査(PISA:Programme for International Student Assessment)を行っています。この調査で測られる分野は、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーとなっています。ウェブサイトでこれまでのPISA問題の内容と調査の結果を調べ、日本の教育の特徴や課題について考えてみましょう。
自分で考える勇気 カント哲学入門
御子柴善之(岩波ジュニア新書)
近代哲学の祖とも呼ばれるイマヌエル・カント。善く生きてその結果幸福になること、そしてその幸福を世界平和にまでつなげることを考え抜いた思想家だ。本書は、そんなカントの生い立ちや思想を噛み砕いて解説している。また、哲学を学ぶ上で知っておくべき専門用語をまとめたコラム、巻末の読書案内も、カント哲学を学びたい人の良いガイドになるだろう。
永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編
カント:著 中山元:訳(光文社古典新訳文庫)
理性を持って生きること、そして大人になること。これらについて原理的・歴史的に考えてみたい人は手にとって欲しい。カントは同書内の小論「啓蒙とは何か」で、読者に「あえて賢かれ」と呼びかけている。現代社会において、改めてカントの主張はどのような意味を持つだろう。当時の時代背景とともに考えてみて欲しい。現代のカント入門書としても最適な1冊。
エミール
ルソー:著 今野一雄:訳(岩波文庫)
ある少年が生まれてから結婚するまで、もしあなたが家庭教師として面倒を見て育てることになったら、どんな育て方をするだろうか。フランス革命に大きな影響を与えた思想家・ルソーが書いたこの小説は、教育学専攻の学生の必読書と言われている。
18世紀ヨーロッパの育児書として、当時どのようなことが教育上の問題と捉えられていたのか。そして「自然な人間」の育成を目指したルソーは、どのように問題を解きほぐそうとしたのか。それらは現在どのように評価できるのか。ぜひ本書を開いて考えてみて欲しい。
ツァラトゥストラかく語りき
フリードリヒ・W・ニーチェ:著 佐々木中:訳(河出文庫)
19世紀の哲学者であるフリードリヒ・ニーチェの晩年の代表作。10年間山にこもっていたツァラトゥストラは、人々に自分の得た知識を与えるため下山し、旅をする。その過程で、あまりに有名な「神は死んだ」という言葉や、「超人」、「永劫回帰」といった思想がツァラトゥストラの口を借りて語られる。神による価値づけが意味を失った世界で生きることの意味を問い、そして生を全肯定しようとする本書は、20世紀以降の文学や芸術など、多方面に影響を与え続けている。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
ドイツ。シンプルな生活スタイルの中にも、本質をついた思慮深さを感じることがあります。学術や芸術の伝統に加えて、豊かな自然も魅力的です。ドイツを体験すると、日本の良さにも気づくことができます。
Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?
『グッバイ、レーニン!』。大学院の時に教育学者の近藤孝弘先生(早稲田大学教授)から教えていただきました。内容はもちろん素晴らしいですが、近藤先生や他の大学院生たちとこの映画について語り合ったことが、何よりの思い出となっています。
Q3.大学時代の部活・サークルは?
ESS(英語サークル)。ひょんなことから入部することになったのですが、4年間で英語を話すことにも慣れ、多くの仲間にも恵まれました。サークル活動を通して学んだことは、現在のゼミ活動にもそのまま活かされています。