最先端研究を訪ねて


【核融合学】

プラズマ閉じ込め

プラズマを用いてクリーンで無尽蔵のエネルギーを作り出す!カーボンニュートラル実現へ大きな一歩

鈴木康浩先生

 

広島大学

先進理工系科学研究科 機械工学プログラム 

 

計算機シミュレーションにより再現された、超高温の核融合プラズマを閉じ込める磁場の形状。いくつかの面(これを磁気面と呼びます)が入れ子に常になっているのがわかります。さらにその外側を複雑な形状の磁場が取り囲みます。
計算機シミュレーションにより再現された、超高温の核融合プラズマを閉じ込める磁場の形状。いくつかの面(これを磁気面と呼びます)が入れ子に常になっているのがわかります。さらにその外側を複雑な形状の磁場が取り囲みます。

 

◆着想のきっかけは何ですか

 

太陽で生み出される莫大なエネルギーは、水素を燃料にした核融合反応により生み出されています。核融合反応を元にした発電所を実現できれば、人類は海水を燃料としたクリーンかつ無尽蔵のエネルギーを、手にすることができます。

 

地上で核融合反応を起こすためには、水素燃料をプラズマと呼ばれる超高温(1億度!)のガス状態にし、容器の中に一定時間閉じ込める必要があります。問題は「どうやって1億度の超高温のプラズマを容器内に閉じ込めるか?」です。

 

我々の研究室では、強い磁場を使ってプラズマを閉じ込める方法を研究しています。しかし、プラズマは自身を閉じ込める磁場を変え、プラズマを閉じ込める効率を悪くしてしまう恐れがあると、理論的に予測されていました。そこで、プラズマを閉じ込めるために最適な磁場の形状を、スーパーコンピュータを使った大規模数値シミュレーションにより発見しました。

 

ところで、プラズマは核融合発電所だけでなく、様々なエネルギー源の改良に応用することが出来ます。プラズマを使って、ガスタービンや自動車のエンジンの燃焼効率を改善し、より環境に負荷の少ない動力源を実現することが出来ます。我々の研究室では、このようなプラズマを活用した核融合研究からの、スピンオフも研究しています。

 

 

◆具体的に何が解決されましたか

 

核融合発電所の経済性を表す指標として「核融合反応に必要なプラズマのエネルギー」を「プラズマを閉じ込める磁力のエネルギー」で割ったベータ値が使われます。ベータ値が高いほど、小さい磁力でより多くのプラズマの閉じ込めを実現できたことになります。

 

スーパーコンピュータによる数値シミュレーションで、より高いベータ値で超高温プラズマ閉じ込めることができる磁場の形状を発見し、より効率の良いプラズマ閉じ込めを実現できる事を証明しました。

 

◆その研究が進むと何が良いのでしょうか

 

プラズマを閉じ込める磁場は、巨大な電磁石によって作られます。ベータ値が低いとより巨大な電磁石が必要になり、発電所の建設コストが膨大になります。我々の研究室では、より発電所の建設費が安価になる、経済的な核融合発電所の実現へ道筋を立てました。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

核融合発電は、二酸化炭素を排出せず、無尽蔵な海水を燃料とする究極のエネルギー源です。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、研究を進めています。

 

しかし、実用化まではまだまだ研究が必要です。そこで、核融合研究から生まれたスピンオフを活用して、発電所のタービンや自動車のエンジンを高効率化し、二酸化炭素の排出量を低減させるための新技術を開発しています。

 


 この道に進んだきっかけ

もともとは、宇宙工学志望でした。惑星や深宇宙探査をするためのエンジン開発に興味があり、核融合もそこで知りました。大学1年生の研究室訪問で、核融合発電の研究を知る機会があり、研究内容の壮大さとプラズマの不思議に魅了され、核融合発電を勉強することにしました。

 

大学時代は、勉学よりも部活動(弓道部)に励む学生でした…。大学4年間は部活に打ち込んで、その後?勉学に取り組みました。大学では、勉学以外にも打ち込めることを見つける事をお勧めします。うまくいくことも、うまくいかないことも両方あるでしょう。ですが、その経験は一生の財産となるでしょう。

 


 この分野はどこで学べる?

「核融合学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

2.エネルギー・資源」の「5.新エネルギー技術(燃料電池、ワイヤレス電力伝送等)」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
 学生はどんな研究を?

我々の研究室では、

 

(1)スーパーコンピュータを用いた大規模数値シミュレーション

(2)プラズマの性質を調べるイメージング(画像)計測手法の開発

(3)数値シミュレーションの結果を検証する実験研究

 

の3本柱で研究を行っています。また、核融合研究から生まれる様々なスピンオフにも取り組んでおり、プラズマ研究の手法を医療分野や環境分野に応用する取り組みも始めています。

 

 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

 

・研究機関、計算エンジニアリング

 

◆主な職種

 

・研究職、技術職

  

◆学んだことはどう生きる?  

 

計算機シミュレーションで大事なことは、物理と数理科学の両方を理解していることです。対象とする物理現象を計算機でシミュレーションするためにモデル化する、モデルを正しく数値計算できる数理科学の知識が必要になります。我々の研究室の卒業生は、どちらもおろそかにしないように心がけています。

 


 先生からひとこと

「地上の太陽」と呼ばれる核融合発電は、2050年の実用化を目指しています。その意味で、直ぐに成果を得られるというよりは、息の長い研究課題と言えるでしょう。直ぐに成果が見えない研究は大変と思うかもしれません。しかし、その直ぐ目に見えない成果が、やがて花開き、現在の技術につながります。自分はその一端をになうという気概を持って、大学で学んでください。

 

核融合研究と共に生み出されるスピンオフは、早期にカーボンニュートラルを目指す我々にとって有用なものがたくさんあります。我々の研究室では、息の長い核融合研究と共に、2030年エネルギーミックス、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて研究を進めていきます。核融合、あるいはプラズマに興味を持った方はぜひ!

 

 先生の研究に挑戦しよう!

【テーマ1:振り子の等時性に関する実験】

よく知られているように、振り子の周期は腕の長さと重力加速度で決まります。しかし、これは振り子の振れる角度が小さい時の近似です。5円玉を何枚かと糸を使って単振り子を作り、周期をストップウォッチで計ってみます。

 

腕の長さに対する周期をグラフに書くと、振り子の腕の長さや5円玉の枚数を変えても、振れ幅が小さいときは等時性が正しく成り立っていることが分かります。しかし、振れ幅を大きくすると、sin(theta)=thetaの近似が成り立たなくなり、等時性の破れがあらわになります。

 

この実験のポイントは、ガリレオの実験に習って実験観測から物理法則を導く過程を、正しくなぞれる事です。また、ストップウォッチで周期を計測する場合、どうしても計測誤差が入ります。同じ実験を複数回行うことで、信頼性を検討できることです。

 

【テーマ2:電気抵抗と温度の関係】

電気抵抗は、温度に依存します。セラミック抵抗などには抵抗値が記載されていますが、その値は基準となる温度で計測された値です。抵抗を熱電対で温めることで、抵抗値を変え、異なる条件では値が異なり、計測誤差として考慮しなければならないことを学びます。

 

テーマ1の周期の計測でも同じですが、計測を考える上では有効数字の考え方が重要になります。小数点何桁で打ち切るかによって、平均した値が大きく異なります。実際に実験する場合は、数値の取り扱いに注意しなければならないことを学びます。

 

【テーマ3:Pythonを使った数値シミュレーション】

数値シミュレーションは、現在なくてはならない基盤です。Pythonを使って簡単な非線形シミュレーション(ローレンツアトラクタやロジスティック曲線)を行い、正解は非線形であり、いかに未来の予測が困難であるかを理解します。

 


 中高生におすすめ

新・核融合への挑戦 いよいよ核融合実験炉へ

吉川庄一、狐崎晶雄(ブルーバックス)

核融合は、人類のエネルギー問題を解決するのではと期待されている。しかし、実際に核融合を実現するためには、気体分子から電子が飛び出し動き回る状態である「プラズマ」を発生させる必要があり、5億2000万度という想像を超える高温状態を作り上げなければならない。この超高温プラズマや、核融合炉の仕組みを解説した古典的名著が、本書である。核融合に興味を抱いたら、最初に開いて欲しい本。

 



SUPERサイエンス 人類の未来を変える核融合エネルギー

松岡啓介、岡野邦彦、小川雄一、岸本泰明、松田慎三郎、秋場真人(シーアンドアール研究所)

世界のエネルギー問題を一挙に解決する次世代エネルギーとして脚光を浴びている、核融合エネルギー。本書では核融合発電の原理から、開発の歴史、プラズマの制御法や実用化についてなど、核融合エネルギーについて一通りの知識を得ることができる。読み通すには物理・化学について高校レベル以上の知識が必要だが、図による解説も多いので挑戦してみて欲しい。



太陽を創った少年 僕はガレージの物理学者

トム・クラインズ(早川書房)

米国アーカンソー州生まれの天才中学生、テイラー・ウィルソンくんは、14歳にして自宅ガレージで核融合炉を作り上げる。ごく幼い頃から宇宙に興味を抱き、庭で自作のロケットを爆発させる(!)テイラーと、そんな彼をサポートしてきた両親や専門家たちの姿とともに、彼の核融合実験の過程をつづったのが本書。

 

文中では、テイラーの失敗例と成功例が忠実に紹介されている。研究とはうまくいかないことの方が多く、なぜうまくいかないのかを解明することこそが重要だと分かる。科学者を志す高校生を励ましてくれる一冊。

 



 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

歴史。きちんと文系科目を学んでみたいですね。

 

Q2.大学時代の部活・サークルは?

弓道部。主将も務めました。

 

Q3.研究以外で楽しいことは?

登山・ハイキング。自然の中にいると、頭を空っぽにできます。