最先端研究を訪ねて


【量子ビーム科学】

X線発光装置

原子の結合分布の画像化が、これまでの100倍の識別能力に

寺内正己先生

 

東北大学

理学部 物理学科(理学研究科 物理学専攻/多元物質科学研究所)

 

寺内研究室が開発した、世界唯一の局所軟X線発光分光顕微鏡
寺内研究室が開発した、世界唯一の局所軟X線発光分光顕微鏡

 

◆どのような研究でしょうか

 

ノーベル化学賞で話題になったリチウムイオン電池など、産業的に重要な物質の性質をミクロのレベルで調べるには、原子同士を結びつける結合電子のエネルギー状態を、直接測定する技術が重要になります。

 

しかしこれまでの電子顕微鏡では、ミクロレベルの観察はできるものの、結合電子のエネルギーを測定することはできせんでした。私たちは、結合電子のエネルギーを調べることのできる、X線の一種である軟X線を用いた電子顕微鏡用の測定装置を開発しました。

 

その結果、小型で高性能な軟X線発光装置の商品化に、世界で初めて成功しました。昔からあるX線の分析装置は、原子の種類を識別できる程度でしたが、新しい装置を電子顕微鏡に取りつけることで、これまでの100倍の識別能力で、原子の種類だけでなく、その結合電子のエネルギーを測定し、その分布の画像を得られるようになりました。

 

 

◆どんな成果が上がりましたか

 

この装置を使った具体的な成果の一例は、鉄鋼メーカーで開発された丈夫で薄い鋼板です。これまで全く見えなかった、0.001%程度の微量元素の結合分布の状況までもが見えるようになりました。その他にもリチウムイオン電池、半導体メーカー、あるいは新素材開発の企業、国立研究所や大学にも導入されました。

 

この装置の研究開発には、軟X線の分光デバイスの開発研究、軟X線用の高感度検出器、電子ビームを活用した電子顕微鏡など、日本の量子ビーム科学分野の最新技術を組合わせた共同研究が必要です。そこで日本原子力研究開発機構、各企業と東北大学の頭脳が結集し、従来の枠にとらわれない産官学の協力関係を構築し、研究を進めています。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

直接的には物づくり企業で、これまでにない高性能の材料、それを使った製品の開発研究の加速に役立つと思います。この開発の目的が、他のSDGsの目標達成に向けられることで、他のSDGsへの間接的な貢献が期待できます。

 


 この道に進んだきっかけ

小・中・高・大で、研究者になりたいと思ったことはありませんでした。ただ、大学4年の時に入った研究室での実験(電子顕微鏡)がとても気に入りました。その実験をもっとやりたい、もっと精度の高い実験ができるようになりたいと思い実験を続けてきたことが、研究者という職業につながりました。

 


 この分野はどこで学べる?

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その領域カテゴリーはこちら↓

3.地球・宇宙・数学」の「10.素粒子、宇宙、プラズマ系物理」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
 学生はどんな研究を?

・電子顕微鏡と分析技術の基礎知識と、実験技術の習得

・習得した知識・技術を物性研究へ応用し、未解決の問題を解決する

例)学部生の卒業研究題目:qEELSを用いたLaB6キャリアープラズモンの研究

例)修士2年生の卒業研究題目:SXESによる低融点Au-Siの電子状態の研究

 

 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

  

・自動車・機器

・精密機械・機器(医療機器・光学機器を除く)

・化学・化粧品・繊維/化学工業製品・衣料・石油製品(プラントは除く)

・通信

・鉱業・資源

 

◆主な職種

 

・設計・開発

・製造・施工

・品質管理・評価

・システムエンジニア

 

◆学んだことはどう生きる? 

 

学部卒や修士卒の場合は、専門性よりも、知識を身に着け、それを使って問題解決をするというプロセスを経験することがとても重要であり、色々な分野に進んでいます。

 

博士卒の場合はより専門性が高いため、企業で分析機器開発や材料開発など、また、国研や大学の研究者などへ進んでいます。

 


 先生からひとこと

理学部物理学科の学生を研究室に受け入れ、ゼミや実験指導をしています。「何をやったか」よりも「どうやったか」が重要です。

 

学校では、答えのある問題を解くことで学問を身につけます。社会に出てからは、答えのない問題に答えを見つける作業を行います。そこで重要なのは、答えのない問題に対し、どう取り組むかという姿勢です。

 

そのような点を、卒業研究(答えのない問題を、教員の指導の下で答えを見つける作業を経験する)で学びます。そこで、いかに経験し、考えるのか。これらは極めて重要であると考えています。

 

 先生の研究に挑戦しよう!

電子顕微鏡での実験やX線を使った実験では、電子、X線の波としての性質を使います。開発した装置も、X線の波の性質を使っています。そこで、波の基本的な干渉という性質(波と波が重なること)の観測とそれを計算で再現するというテーマが考えられます。

 

基本はヤングの2重スリットの実験とし、スリットの数や間隔を変えた時、干渉という現象がどの様に観察され、また、それはどういう式を使った計算で再現できるかをまとめてみてください。

 


 中高生におすすめ

走査透過電子顕微鏡の物理

田中信夫(共立出版)

細菌を見ることを可能にしたのは光学顕微鏡だが、光の波長より小さいウイルスのような物質を観察することはできなかった。それを可能にしたのは、光の代わりに波長の短い電子線を利用する、電子顕微鏡だ。

 

本書は、電子顕微鏡の中でも走査透過電子顕微鏡を取り上げ、その構造や、像が結ばれる原理を解説する。顕微鏡の歴史的変遷にも触れており、最新の顕微鏡技術についても学べる。極小の世界を旅してみよう。



 先生に一問一答

Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

ドイツ。技術者を大切にする国柄だから。

 

Q2.大学時代の部活・サークルは?

帰宅部。読書ばかりしていました。

 

Q3.研究以外で楽しいことは?

植物の面倒を見ること