最先端研究を訪ねて
【自然災害科学・防災学】
巨大地震・津波
マグニチュード9、日本の観測史上初の超巨大地震発生メカニズムを解明
佐竹健治先生
東京大学
理学系研究科 地球惑星科学専攻/兼担:地震研究所
◆どのような研究でしょうか
東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震は、日本の観測史上初のマグニチュード9クラス、数百年に一度という稀な超巨大地震でした。防災面のみならず、地球科学的にも大きな出来事です。
関東大震災を契機に設立された東大地震研究所の所長、研究者として、私は日本および海外で記録された地震波、GPSなどの地殻変動、沖合の海底水圧計などに記録された津波波形など、得られる限りの地球物理学的な観測データを駆使して、甚大な被害をもたらした巨大地震の、発生のメカニズムを明らかにしました。
また、過去に発生した同様な地震について、東大の史料編纂所の日本史研究者と協力して古文書を調べたり、地震によって隆起した海岸段丘や、津波によって運ばれた津波堆積物などの、地学的な証拠を集めたりしています。これらのデータと、津波のコンピューターシミュレーションとを組み合わせることによって、過去の地震や津波の発生時期や規模について調べています。
◆どんな成果が上がりましたか
重要な成果の1つが、東日本大震災の震源についてです。東北地方の沿岸や沖合で記録された津波の波形記録から、福島・宮城・岩手県沖の海底における大きな地殻変動が、巨大な津波の発生源であることを明らかにしました。
成果の2つ目に、西暦869年(貞観11年)にも同様な巨大地震・津波が発生していたことを、『日本三代実録』などの歴史記録、仙台平野における津波堆積物、それに津波発生・伝播のコンピューターシミュレーションから明らかにしました。
3つ目に、2011年の東日本大震災を起こした地震は、約1000年前の貞観地震タイプと、約100年前に発生した明治三陸地震と、同様なタイプの地震が同時に発生したと考えられること、すなわち全くの想定外の地震ではなかったことを明らかにしました。
巨大地震・津波に関する研究です。最近の博士論文のタイトルを紹介すると、
・遠地津波波形に基づく津波波源推定
・津波計算におけるノーマルモード法の発展:津波波形計算と日本海における海底断層の類型化
・津波堆積物の堆積学的分析及び数値モデリングに基づいた日本海溝沿いの巨大地震の再検討
・海底火山体で繰り返す火山性津波地震の物理メカニズム
・早期警報のための津波データ同化
などです。
◆主な業種
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
・官庁、自治体、公的法人、国際機関等
◆主な職種
・国内外の大学や国立研究開発法人の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
・気象庁における地震・火山活動の監視・防災業務
・原子力規制庁における地震・津波の被害想定業務
・内閣府中央防災会議や、文部科学省地震調査研究推進本部における、地震のモデルや長期評価
などの仕事で分野を活かしています。
地球惑星科学の魅力は、天気や地震などの自然現象を、物理・化学や数学で説明できる(しようとする)ことです。さらに、数百年に一度という巨大地震については、日本史や古文・漢文の知識が役に立つこともあります。地質学、地球物理学、歴史学などの様々な研究手法の中から、得意な科目を選んで専門とするのが良いと思いますが、専門以外についても幅広く勉強して、多面的な研究をすることが重要です。
・自分が住んでいる地域で過去に発生した自然災害や将来想定される災害を調べてみよう。過去の災害については自治体などがまとめている市町村史から、将来についてはハザードマップなどから始めるのが良いでしょう。
・災害をもたらす気象現象や地震・火山・津波などについて、地学のみでなく、物理や化学の手法を使って、その背景を調べよう。気象や地震・津波のコンピューター・シミュレーションは、どのような基礎方程式から成り立っているのか調べよう。
巨大地震・巨大津波 東日本大震災の検証
平田直、佐竹健治、目黒公郎、畑村洋太郎(朝倉書店)
東日本大震災では、実際に何が起きたのか。地球科学という大きな研究視点の解説に加え、著者たちが震災当日何をしており、震災発生後にどのようなことを行ったかというエピソードまでが書かれており、読みごたえがある。東日本大震災を風化させることなく、次の巨大地震、津波に備える教訓を学びたい。
歴史のなかの地震・噴火 過去がしめす未来
加納靖之、杉森玲子、榎原雅治、佐竹健治(東京大学出版会)
数百年から数千年の間隔で発生する過去の大地震や火山噴火の実態に、歴史学と地震学の連携により迫る。東日本大震災の津波は平安時代の貞観津波の再来なのか、繰り返す南海トラフの地震はどこまで分かっているのか、歴史から将来の災害予測につなげる文理融合のアプローチを紹介する。
東日本大震災の科学
佐竹健治、堀宗朗:編(東京大学出版会)
東京大学の様々な分野(理学・工学から心理学・経済学まで)の研究者が、多角的かつ科学的に分析した「災害の科学」の最先端を分かりやすく解説する。今回の震災の分析にとどまらず、将来の大地震(首都圏直下,南海トラフ)に向けて、建設的・科学的な提言を行う。