最先端研究を訪ねて


【素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理】

クォーク

宇宙一小さな物質、クォークでできた未知の素粒子を発見! 

西田昌平先生

 

総合研究大学院大学

高エネルギー加速器科学研究科 素粒子原子核専攻/素粒子原子核研究所

 

Belle II 検出器の中に入れられた粒子識別装置 ARICH 。 制作中の様子。420 個の光検出器が配置されている。 KEK を中心に日本やスロベニアの大学と開発・建設した。
Belle II 検出器の中に入れられた粒子識別装置 ARICH 。 制作中の様子。420 個の光検出器が配置されている。 KEK を中心に日本やスロベニアの大学と開発・建設した。

 

◆この研究を始めきっかけは何ですか

 

つくば市の高エネルギー加速器研究機構にある加速器を使って、ある素粒子を生成させる実験を行っていました。この実験結果の1つは、後に小林・益川博士のノーベル物理学賞につながることになりました。私たちはそれと並行して、今まで全く知られていない未知の粒子があることを見出しました。

 

 

◆新粒子はどのような粒子ですか

 

あらゆる物質の最小単位は何か。物質は全て原子でできています。しかし原子をさらに細かく見ると、最も小さい物質は、クォークという素粒子であることが分かっています。ただし、クォークは単体では存在できません。クォークは3つ集まって原子核の陽子や中性子の仲間を作るか、2つ集まって中間子を作らないと存在できないと思われていました。

 

ところが新粒子は、このような理解では説明できないような性質を持っていました。新粒子は、クォークの性質を明らかにすることに大きく道を開きます。

 

◆今後、どのような研究の進展が期待されますか

 

私たちの発見をきっかけに、世界中で研究が始まりました。クォーク同士は、絶対に引き剥がせないほど強力な結合力で繋がっています。これを、クォーク間に働く「強い力」と言います。この研究が進展すれば、クォークを閉じ込めている全く未知の力が解明され、クォークに働く強い力の理解を深めると期待されます。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

素粒子物理学は自然法則を理解しようとする基礎研究なので、それ自体がすぐに何かを解決するというものではありません。しかし、得られた知見は将来の科学技術の発展に役立ちます。

 

また、加速器などの技術や実験のための関連技術は、社会の向上に貢献できる可能性があります。そして、基礎研究で得られた知識を社会に還元するため、出前授業やスクールなどを実施しています。

 


 この道に進んだきっかけ

高校時代から物理には興味があり、その中でも最も小さく基本的なものである素粒子には興味がありました。大学3回生の時、夏休みに実験をするプログラムがあり、光の速度を測定する実験を行ったことが、進路を決めるきっかけとなりました。

 

一緒に実験をしている人たちと協力しながら、装置を作ったり、問題を議論して解決したりを通じて、実験で自然を理解するのは大変だけども、面白いと思いました。教科書での勉強だけでなく、色々な体験をして、それをもとに自分に合った進路を決めるとよいと思います。

 


 この分野はどこで学べる?

「素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理」学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

3.地球・宇宙・数学」の「10.素粒子、宇宙、プラズマ系物理」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
高エネルギー加速器研究機構(KEK)で行われている素粒子実験 Belle II の 巨大な検出器。周長3kmの加速器で電子と陽電子を衝突させるところに設置されている。写真は検出器を建設している途中の様子。
高エネルギー加速器研究機構(KEK)で行われている素粒子実験 Belle II の 巨大な検出器。周長3kmの加速器で電子と陽電子を衝突させるところに設置されている。写真は検出器を建設している途中の様子。
 研究室ではどんな研究を?

私たちのグループは、Belle II実験という素粒子実験を、茨城県つくば市で行っています。これは、世界中の約100の大学・研究所の約1000人の研究者が進めている国際共同実験です。この実験で、素粒子の反応を捉えるための巨大な検出器(装置)を開発しています。また、実験のデータを用いて、素粒子の謎に迫る現象を探索しています。

 

 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

 

・電気機械・機器(重電系は除く)

・コンピュータ、情報通信機器

・ソフトウエア、情報システム開発

・コンサルタント・学術系研究所

・大学、短大・高専等(教育機関・研究機関)等

 

◆主な職種

 

・基礎・応用研究、先行開発

・設計・開発

・システムエンジニア

・大学等研究機関所属の教員・研究者

 

◆学んだことはどう生きる? 

 

素粒子物理は基礎研究なので、研究者になる以外には直接的に業務に役立つものではないのですが、深く思考し物事の本質を探究する姿勢は、様々な研究開発に役立ちます。また素粒子物理では、計算機を用いた理論研究、検出器やその読み出し回路の開発、データ解析などを行うことが多く、情報分野、電気機器開発などに活かされていると思います。

 


 先生からひとこと

興味を持ったことでも身の回りのことでも、常々疑問を持ち理解しようと思うことが大事だと思います。これによって視野が広がり、将来自分が何をしたいかも分かってくると思います。

 

 先生の研究に挑戦しよう!

・物質はすべて分子からでており、分子は原子からできていますが、さらにたどっていくと、クォークとレプトンとよばれる素粒子からできていることがわかっています。クォークやレプトンはどのようなもので、その間にどのような力が働くのか、また、これらはどのようにして発見されたか、調べてみましょう。

キッズサイエンティスト(https://www2.kek.jp/kids/index.html)のような解説ページを手がかりにしてもよいかもしれません。

 

・すべての物質(粒子)には反物質(反粒子)と呼ばれる電荷の符号が逆になったものが存在します。例えば、電子は負の電荷をもっていますが、正の電荷をもった陽電子という電子の反物質も存在することがわかっています。反物質(反粒子)について調べてみましょう。反粒子は日常生活ではほとんで現れませんが、医療などにも使われていたりします。

 

・Belle 実験グループでは、Belle 実験がとった実際のデータを解析して、加速器での衝突反応のデータから生成された粒子を探索するB-Lab (https://belle.kek.jp/b-lab/) という高校生以上を対象としたプログラムを用意しています。自分のパソコンを使って最先端の素粒子実験を体験してみましょう。(参加には登録が必要です)

 


 中高生におすすめ

消えた反物質

小林誠(ブルーバックス)

宇宙ができた時、物質と、電荷が逆になっている反物質は同じだけあったはずです。しかし今の宇宙には、反物質は消えてなくなってしまい、物質しかありません。物質と反物質は性質が異なることを、小林益川理論にて理論的に解明した小林誠先生(2008年ノーベル物理学賞)によるこの理論の解説です。

 

また、この理論が Belle II の前身である Belle 実験でどのように実証されたかも説明されています。数式なども書かれてあり難易度は高めなので、素粒子に興味のある人向けと思います。



ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで

スティーヴン・W・ホーキング(ハヤカワ文庫NF)

ホーキングは、難病にかかりながらブラックホールや宇宙の理論研究を行った物理学者です。宇宙の成り立ちからその発展について、現代の宇宙論をできるだけ平易な言葉で解説した書籍です。

 

数式をできるだけ使わずに説明してあります。私は、高校時代に読みました。非常に難しいことなのですが、なんとなく理解でき、非常に興味を覚えたことを記憶しています。

 



 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

やっぱり物理。今と同じ素粒子にも興味ありますが、持続可能な社会をつくるために貢献できる物質・技術の開発もしたいという気持ちがあります。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

フランス。スイスとの国境に世界最大の加速器と素粒子研究所があることも理由ですが、文化や古い町並みが良い。

 

Q3.熱中したゲームは?

ロールプレイングゲームや、戦国シミュレーションゲームはよくやってました。高校の時に苦手だった歴史が好きになりました。日本や世界の歴史を知っておくと、外国の研究者と交流する時にちょっと役立ちます。