Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
カナダか北欧かな。季節のメリハリがあり、自然が豊か。
最先端研究を訪ねて
【生態・環境】
植物と昆虫の共生
地球温暖化により、植物の開花時期と花粉を運ぶ昆虫の出現時期がずれることを発見。気候変動による生態系撹乱に警鐘
工藤岳先生
北海道大学
大学院環境科学院 生物圏科学専攻
◆研究のきっかけは何ですか
北国の春は、雪解けとともにやってきます。雪解け時期は年によって変動するので、それに合わせて、植物の開花や昆虫の出現時期も変動します。気候変動に対して、植物の開花時期と、花を訪れる昆虫の出現する時期がどのように変化するのか興味を持ち、野外での研究を始めました。
植物と昆虫は、気温や日長時間など、それぞれ異なるシグナルを利用して生活しています。地球温暖化によって春の雪解けが早まった場合、開花時期と昆虫の出現時期に違いが起こり、これまで維持されていた共生関係が崩壊するかも知れないと考えました。
◆何がわかりましたか
春咲き植物(エゾエンゴサク)の開花時期は「雪解け時期」によって決まっています。これに対して、重要な花粉媒介昆虫であるマルハナバチの出現は、「越冬場所である地中の温度が、ある一定の値に達すること」で決まっていることが確かめられました。
両者が現れる時期が同調することは、必ずしも安定的な出来事ではありません。雪解けの早い年にはハチの出現より植物の開花が先行し、その結果受粉がうまくいかず、種子ができないことが判明しました。このような状況が数年間続くと、植物は集団を維持できず、絶滅する可能性もあります。
◆その研究が進むと何が良いのでしょう
気候変動が自然生態系にどのような影響を及ぼすのかについては、まだわからないことだらけです。自然界で実際に起きている現象を研究することによって、生態系の理解が進み、気候変動に対する意識も高まるでしょう。また、環境保全や自然保護への関心も高まると期待されます。
生態系を構成する生物間は、様々なネットワークでつながっています。到達目標は、特定種の絶滅が生態系に波及的影響を引き起こす危険性を示すこと、地球温暖化による生態系撹乱の深刻さを伝えることです。
気候変動によって、生物多様性は大きく損なわれると危惧されています。多様性の喪失は、生態系の構造と機能を改変させて、さらに生態系の劣化を引き起こします。
日常生活とはあまり関係がなさそうな自然生態系の変化は、実は私たちの生活にも深刻な影響を及ぼします。例えば、花粉を運ぶ昆虫がいなくなることで、農業生産に深刻な影響が及ぶと危惧されています。
生態系の成り立ちと、生物間のつながりを理解することで、気候変動への関心も高まるでしょう。それは将来への大切な第一歩となります。
大学では農学部の林学科にいましたが、夏も冬も山ばかり行っていました。当初は単に登山に興味があっただけでしたが、日本中の山を歩くことで、地形や動植物についてもいろいろと興味がわいてきました。高山生態系の多様性が、複雑な山岳地形と豊富な積雪によって作られていることを知り、それがきっかけとなって大学院で生態学を志しました。
当初、地球温暖化はほとんど話題に上がることはなかったのですが、90年代になって気候変動の重要性が認識されてきました。温暖化は北極や高山など、寒冷生態系で最も深刻な影響を及ぼします。
高山帯で生態学の研究を続けているうちに、日本の高山帯でも気候変動の影響があちこちで現れていることが見えてきました。大学での講義よりも山から学んだことがはるかに多く、その経験が今の研究の基礎になっていると思います。
私の研究室では、主に野生植物の生態適応や繁殖特性の進化、植物と昆虫の相互作用に関する研究を行っています。野外調査、栽培実験、遺伝解析などを通して、生物進化と多様性維持機構について探求しています。
また、地球温暖化などによって、自然生態系がどのような影響を受けるのかについても研究しています。研究対象は、高山生態系、北方林、高層湿原など、寒冷圏の自然生態系を対象にしたものが多いです。
大学院生たちは(私の所属する環境科学院は大学院のみです)、北海道の豊かな自然の中で、環境変化に対する生態系の脆弱性や、植物の季節適応について実践的に学びます。そして、データ収集、解析、論文執筆を通して、自立した研究者としてのスキルを身につけることを目指します。
◆主な業種
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
・官庁、自治体、公的法人、国際機関等
◆主な職種
・大学等研究機関所属の教員・研究者
・その他の教育機関教員、インストラクター
◆学んだことはどう生きる?
大学や研究機関での研究職に就く卒業生が多いです。しかし、卒業後すぐにこのような研究職に就くことは簡単ではなく、数年間のポスドク(期限付きの研究員)としての研究キャリアを経ることが一般的です。
また、環境調査を行うアセス関連の企業や、地方自治体・国家公務員(環境省など)、教員(理科教育)、植物園や博物館の学芸員、ビジターセンターの研究職員もいます。
生態学は、生物の個体・個体群・群集・生態系など、大きなスケールの生物現象を研究する学問です。その根底は、ダーウィンが提唱した自然選択と、生物進化の解明にあります。
地球上にはなぜこんなに多くの生物が生存しているのか、生物多様性にはどのような意味があるのか、といった専門的な問いかけから、なぜ生態系保全が重要なのか、地球温暖化によって生態系にどのような変化が起きるのか、といった応用的な研究まで、広くカバーする学問分野です。
私の研究室では、野外研究を中心としつつ、遺伝解析から衛星画像を使ったグローバルスケールの手法まで、様々な方法を駆使し、多様な観点から生物進化と生態系機能の解明にアプローチしています。
公開されている気象庁のデータを使って、温暖化の進行とそれが生物に及ぼす影響を調べてみると面白いと思います。
1)気象庁では、過去の気象情報を公開しています。
https://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/index.php
それぞれの地域で、気温、降水量、積雪量などがどのように変化してきているのか、異常気象の頻度(最高気温、最低気温、集中豪雨頻度、台風の出現頻度など)がどのように変化してきているのかを解析し、温暖化の進行速度が緯度によってどのように違うのか(例えば高緯度の方が温暖化の進行具合が激しいなど)、また都市部と農村部でどう違うのか(都市部では温暖化以外にヒートアイランド現象も影響する)を比較してみてはいかがでしょう。
2)また、気象庁では、様々な動植物の生物季節データも公開しています。
https://www.data.jma.go.jp/sakura/data/index.html
公開されているデータから、植物の開花、開葉、紅葉時期や、動物の出現時期が近年どのように変化してきているのかを調べてみてはいかがでしょう。そして、その理由について考えてみましょう。(例えば、春と秋の季節性はどちらが変化しやすいのか、など。)
生物学者、地球を行く まだ知らない生きものを調べに、深海から宇宙まで
日本生態学会北海道地区会、小林真、工藤岳:編(文一総合出版)
地球全体がワンダーランド! 都市ではチョウ、サハラ砂漠ではバッタを追い、宇宙でコケを観察する。研究材料は至る所に転がっている。生態学を専門とする生物学者たちが、身近な場所から地球の片隅の僻地まで、ありとあらゆる場所へ調査に出かけ、四苦八苦しながら研究するエピソードを紹介している。
実験室だけではなく、野外を飛び回って研究する生態学という学問の面白さがわかる。フィールドサイエンスの魅力を身近に感じられること、請け合いだ。
寺田寅彦随筆集
寺田寅彦(岩波文庫)
大正・昭和の物理学者・寺田寅彦は、夏目漱石の主宰する俳句結社の同人でもあり、日常の様々なことがらを随筆として書き綴っている。自然を見る視点の鋭さと、詩情にあふれた味わいのある文章が魅力である。
自らの専門性に縛られることなく、純粋に日常を生きて行くのは、簡単なようで難しい。それこそが、人生を豊かにする上で非常に大切であることに気づかせてくれる。
ぼくらの民主主義なんだぜ
高橋源一郎(朝日新書)
世界で進む情報氾濫やグローバル化と並行して、排他主義や人権軽視が大きな社会問題、国際問題となっている。そうした中で、体制的な雰囲気に流されることなく、民主主義の本質を意識するのは、とても大切なことだ。
本書は原発をはじめとした社会問題を取り上げ、それをどのように捉え、判断すべきなのかを、わかりやすい文章で解説している。これからの社会でどのように生きていけば良いのか、ヒントになることがたくさん含まれている。
STANDARD BOOKS
寺田寅彦、朝永振一郎、中谷宇吉郎、串田孫一など(平凡社)
文筆家であり物理学者でもある寺田寅彦、ノーベル物理学賞受賞者の朝永振一郎、人工雪の発明者である中谷宇吉郎、文筆家串田孫一など、様々な学者・研究者の珠玉の随筆を集めたシリーズ。
いずれも名文が多く、日常的な些細な出来事を素材として、見事なエッセイに仕上げている。各著者たちの鋭い観察眼、広く深い思考、幅広い興味、そして文章の味わい深さは、これからの人生の心の糧となるはず。
文章がいつ何歳で書かれたかの記述もあり、時代背景、年齢による感じ方の違いなどもわかる。それぞれの随筆がそれほど長くないので、受験勉強中の気分転換にもお勧めである。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
カナダか北欧かな。季節のメリハリがあり、自然が豊か。
Q2.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?
札幌大通公園のホワイトイルミネーションの電球取り付け
Q3.研究以外で楽しいことは?
バックカントリースキー