Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
情報科学
最先端研究を訪ねて
【神経生理学・神経科学一般】
神経回路
やわらかな脳から精緻で機能的な脳へ。神経回路の発達の仕組みを解明
橋本浩一先生
広島大学
医学部 医学科(医系科学研究科 医歯薬学専攻)
◆着想のきっかけは何ですか
私たちは、脳の神経回路の機能や形成過程に興味を持って、研究を行っています。生まれたばかりの子どもは立つこともできず、喋ることもできませんが、少しずつ大人と同じような行動ができるようになっていきます。このプロセスには、体の発達はもちろんのことですが、脳の神経回路の成熟が大きく関わっていると考えられています。
生まれたばかりの子どもの脳には、大人の脳には見られないような余分な神経回路が、多数形成されています。生後の発達の中で、不必要で余計な神経回路が少しずつ刈り込まれることにより、精緻で機能的な大人の神経回路ができあがると考えられています。
この発達プロセスが正常に起こるためには、例えば視覚の神経回路であれば、実際に物を視る経験を積むことにより、神経回路が電気的に活動することが不可欠であるとされています。
ただ、電気的な活動を神経回路の刈り込みに反映するための分子的なメカニズムなど、不明な点も多く残されていました。私は神経回路が成熟する仕組みを明らかにしたいと考え、研究に着手しました。
◆どのようなことがわかりましたか
私たちは、小脳の神経回路をモデル実験系として、生後の発達変化を解析しました。脳内には、細胞の断片などを取り込んで掃除をする役割を持つとされている、ミクログリアという免疫系の細胞がいます。近年の解析から、このミクログリアが神経回路の刈り込みに重要な働きをすることを発見しました。
また、神経回路の刈り込みとともに、その神経回路が受け持つ機能が、どのように成熟していくかを知りたいと考えました。そのために、触覚信号が小脳に伝達する経路に着目し、神経活動の伝達経路を突き止めることができました。今後は、触覚の成熟と刈り込みの関係を明らかにしていく予定です。
さらに、刈り込みにおける電気活動の意義を明らかにするため、膜電位の電気活動(オシレーション)に関わる分子メカニズムの研究も行っています。神経細胞は、ある一定のリズムで周期的にオシレーションをするものがあります。私たちは、オシレーションに関与するいくつかの分子メカニズムを突き止めました。
◆その研究が進むと何が良いのでしょう
神経回路の成熟は、機能的な脳の構築に必須です。このプロセスが障害されると、様々な精神疾患のリスクファクターになり得るとも考えられています。この研究は、将来的にはある種の精神疾患などの予防や、治療に道を拓く可能性も考えられます。
神経細胞は再生などが起こりにくく、事故による障害や精神疾患などからの回復や治療などの手段が、現状では限られています。
生後発達期に起こる、神経回路の形成に関わるメカニズムが明らかになれば、神経回路の新生などを含めた、新たな治療戦略の構築に貢献できる可能性があります。
大阪大学基礎工学部4年生の研究室配属で、神経の研究を行っていた村上富士夫先生の教室に配属されたことが、神経の研究に関わるようになったきっかけです。村上研では修士課程までお世話になりましたが、配属時に始めた神経回路の生後発達の研究を、その後ずっと行うことになりました。
その後、自治医科大学の博士課程に進学し、当時川合述史先生の教室に居られた狩野方伸先生の下で、現在の研究につながる小脳のシナプス刈り込みの研究を始めることになりました。狩野先生には、その後研究室のスタッフにしていただき、長年お世話になることになりました。
これまで所属していた学生は、脳の神経回路の刈り込みに関わる研究、顔面の触覚信号が脳に伝達される際に通る伝達経路を明らかにする研究、細胞膜電位のオシレーションを制御するメカニズムを明らかにする研究などを行っていました。
研究対象としては、主に小脳に関わる神経回路が中心です。研究者に必要な最新の知識の獲得や、精度と信頼性が高い研究を行うための、技術や考え方の習得を目指しています。
大学院生は課程修了後、大学の教員か医師に就職しています。大学で研究を行っている修了生は、引き続き神経科学に関わる研究を行っています。
◆学んだことはどう生きる?
研究者、医師。
私たちは、神経細胞が発生する電気的な活動を計測する実験手法を主に使って、上記の研究プロジェクトを推進しています。
神経細胞から電気活動を計測する方法は、単一の細胞からの計測を行う方法から、多くの神経活動をまとめて計測する脳波に近いような計測まで、様々存在します。これらは、実験の目的に応じて使い分けています。
神経細胞が脳の中で果たす機能的な役割に興味がある方、神経細胞のリアルタイムの電気活動を研究してみたい方など、歓迎いたします。
・身近にいる昆虫などを解剖し、神経の形や体の中での走行、筋肉の付き方などを研究する。電気ピンセット(銅と亜鉛などを張り合わせたピンセット)で神経を電気刺激した時の足や羽の反応を観察する。
・ネズミ(昆虫などでもできるかと思います)に迷路の中でエサの位置などを学習させ、学習が成立するか確認する。学習が成立するのに必要な要素(光、におい、風景、迷路の材質、等々)を調べる。
・各々の神経細胞は、標的の神経細胞まで軸索(細胞体から伸びた細長い線維)を伸長し、シナプスを介して結合することにより神経回路を形成する。軸索を伸長させたり、適切な標的にガイドするために働く遺伝子や分子機構について論文などを調べて学習する。
脳の可塑性と記憶
塚原仲晃(岩波現代文庫)
人間の記憶は、脳のどこに保存されるのか。それを瞬時に思い出すことのできる仕組みとは、どのようなものなのか。それらが明らかにされる過程から、神経科学という学問の面白さが伝わってくる。やや古い本だが、本書を読んで神経科学者を志した日本の研究者も多い。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
やっぱり日本が一番