Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
台湾。温かく活気にあふれた人たちと、美味しい料理。
最先端研究を訪ねて
【物理化学】
水分子
水の分子(H2O)が何個集まったら「水」になる?
藤井朱鳥先生
東北大学
理学部 化学科(理学研究科 化学専攻)
◆研究の着想のきっかけは何ですか
水の分子が何個集まったら、私たちがよく知る「液体の水」や「氷」としての性質が現れるのか?こんな素朴な疑問を解こうとしたのが研究の原点です。
当初は少数個の分子が集まったらすぐに「水」や「氷」に近い性質を示すことになるのだろうと単純に考えていましたが、研究の結果、その時点で扱えた分子10個以下程度の小さな集まりは「水」や「氷」とは全く異なるという結論に達しました。
これをきっかけとして、それまでほとんど誰も見ようとしていなかった、数十~数百個の分子が集まった領域の研究を進めようと決意し、専用の装置を開発しました。
◆どんな装置を使った研究なのでしょう
水分子の集合体は、水蒸気を特殊な方法で冷却して作ります。生成した集合体に光を当て、どのような光が吸収されるかを見ることにより、その構造についての情報を得ることができます。この方法で、水分子を調べる装置を開発しました。また、コンピューターで様々な理論計算を行い、実験だけでは分からない詳しい情報を得ています。
◆どんなことがわかりましたか
例えば「氷」は6個の水分子が水素結合により環を作り、これが組み合わさって、特徴的な隙間の多い結晶構造ができます。しかし、我々のよく知っている「氷」の構造と全く同じ結晶形は、水が100分子ほど集まらないと形成されません。ただし、これでも「氷」らしいのは集合体の中心部に限られ、表面は我々のよく知る「氷」とは全く異なった形となります。
こうした研究の結果、水分子が本当の意味で「氷」になるためには、最低でも数百個の分子が集まる必要があると判明しました。
◆今後の目標は何ですか
同じ物質でも、分子同士がばらばらになっている気体分子と、それがいくつも繋がった液体や固体の性質は大きく異なります。身近な物質の性質もその多くは、ある程度の数の分子が集まることによって初めて生まれます。
しかし、何個の分子が集まることで集合体としての化学的性質が現れてくるのかは、まだよく分かっていません。このような気体と液体、固体の中間領域の性質を明らかにし、ミクロ的な個々の分子と、マクロ的な目に見える物質の化学を繋げることを目標としています。
中学生の時に、著名なSF作家のアイザック・アシモフ(専業作家になる前は化学者でした)が書いた、科学エッセイ集を読みました。そのうちの一編に、反応性が極めて高いフッ素の単離に何人もの化学者が挑み、失敗を繰り返し、試行錯誤の末、遂に成功するまでを描いたものがありました。
30ページほどの短編なのですが、これを読んで、ここまで人を引きつける化学、そして研究とは何なのだろうかと興味を持ちました。現在研究しているテーマは全くの別分野なのですが、この1冊の本を読んだことが私にとっての化学との出会いになり、今に至る道程の起点になっています。
様々な分子が数個~数百個集まった集合体の構造を、主に光を用いて解析し、分子間の構造を決める規則や、分子間の新しい相互作用の解明を行っています。また、光を用いて対象物の性質を調べるといった、新しい手法の開発も行っています。
◆主な業種
・半導体・電子部品・デバイス
・精密機械・機器
・化学・化粧品・繊維/化学工業製品・衣料・石油製品
・小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等
・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
・基礎・応用研究・先行開発
・設計・開発
・中学校・高校教員など
・大学等研究機関所属の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
卒業生の進路は非常に多種多様で、業種も多岐に渡りますが、研究・開発・分析を行う職が大半です。研究室の研究内容は現時点では工業的な応用がないため、直接的に卒業後の業務に役立つことはまずありません。
しかし、研究活動を通じて得られる論理的思考力や、研究の進め方に関する体験は非常に普遍的であり、広い業種において問題解決能力として発揮されています。
例えば、水の構造研究等を行っていた卒業生たちが、精密機器会社で航空用ジャイロスコープの設計に従事し、電機会社で新しい電池の開発を行っています。いずれも学生時代の研究とは直接関係しませんが、研究開発の主力となる人材として活躍中です。
物理化学は、物理理論に基づいて化学現象の解明・制御を行うことを主な課題とする研究分野です。「化学は暗記物」という印象を持つ高校生は多いと思いますが、現代の化学には非常にしっかりとした理論的基盤があり、先端的な物理計測手法と併せて、非常に論理的な物質理解の深化が続いています。
物理化学には、ミクロな物質構造の解明や化学反応の制御から複雑な生体機能の解析、新しい電池の開発まで、多岐に渡る研究領域があります。「なぜ?」という化学の問いに論理的に解答を与え、新しい化学分野を拓く基盤を提供するのが物理化学です。
水を知ろう
荒田洋治(岩波ジュニア新書)
水は最も身近な化学物質でありながら、化学的には極めて特異な性質を示す物質です。水の固体である氷はなぜ液体の水に浮くのか、雪の結晶はなぜ六角形なのかといった話から、水と伝染病の話、ミネラルウォーターの話、生物の体内の水の話、さらには水の歴史や文化との関わりについても書かれています。水をめぐる、文理の垣根を超えたとても味わいのある本です。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
台湾。温かく活気にあふれた人たちと、美味しい料理。
Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?
『博士の異常な愛情』。ブラックコメディの極北。
Q3.研究以外で楽しいことは?
戦前の昭和史に関する本を読むこと、アナログレコードの蒐集。