Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
ドイツ。研究環境がしっかりしているし、ビールが美味しいから。
最先端研究を訪ねて
【物性II】
超伝導体
世界に先駆け、鉄を用いた超伝導体を実現!省エネルギー電子装置の開発へ道を開く
佐藤宇史先生
東北大学
材料科学高等研究所/大学院理学研究科 物理学専攻
◆研究の着想のきっかけはなんですか
一度電流を流すと電気抵抗ゼロで永久に電流を流し続けるという、まるで魔法のような電気材料と期待されるものが、超伝導体です。ただし電気抵抗をゼロにするには、この物質を非常に低い温度にすることが必要でした。そこまで冷やすにはコストもかかります。
私たちは、鉄を含んだ超伝導体を用いて、少しでも高い温度で抵抗ゼロを実現する技術開発に成功しました。この成果は、鉄系超伝導体の物質合成をするグループと、光を当て電子のふるまいを研究する私の研究室グループの、共同研究によるものです。お互い専門が異なるグループがタッグを組むことで、初めて得られた成果でした。
◆どんな困難がありましたか
鉄系の超伝導体は、2006年に日本の研究グループによって、世界で初めて発見されました。それまで鉄を含んだ材料は、常識的に考えて超伝導体に絶対に使えないと考えられていました。それでも電気抵抗ゼロになる温度が極めて高いことから期待され、日本のグループによる発見後は、鉄系の超伝導の仕組みを調べる研究は、世界中の研究者がしのぎを削っています。
◆その研究が進むとどんなことに貢献するのでしょう
電気抵抗ゼロの超電導の温度がさらに上がって、日常生活レベルの温度で使えるようになれば、電気ロスが著しく改善され、大幅な省電力化が実現すると期待されます。将来的には、この新しい超伝導体を用いた省エネルギー電子装置などに実用化される可能性があります。
基礎研究のためSDGsの目標と直結しはしませんが、7.「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」とは、比較的関連があると思います。
現在研究しているトポロジカル絶縁体や高温超伝導体(究極的には室温超伝導体)などの量子物質は、実用化されれば量子コンピュータや超低消費電力エレクトロニクスデバイスなどへの応用が期待され、身近な生活が劇的に変わるくらいのインパクトがあります。
◆きっかけ
高校2年生くらいまでは物理は苦手でしたが、色々な参考書を見ながら勉強していくうちに、高校3年の夏くらいに何かを掴んだ気がしました。その後は物理のテストの点数もアップして、途端に楽しくなりました。大学時代の物理の勉強は、その延長線上にあった気がします。
◆大学時代
大学時代、物理の勉強は相当頑張りました。大学受験の時よりも、むしろ勉強に割く時間が長かったのではないかと思います。高校時代は、苦手な科目も含めて満遍なく勉強する必要があり、結構大変でした。でも、大学では好きな物理の勉強にいくらでも時間を費やせたので楽しかったです。PCを購入してプログラム言語にはまり、暇さえあれば物理のシミュレーションをやったり、簡単なゲームを作ったりしていました。
研究室では、超高真空装置を用いて、新しい機能を持つ薄膜を作製しています。さらに「角度分解光電子分光装置」と呼ばれる先端実験装置を用いて、電子のエネルギー状態を調べています。研究テーマは、トポロジカル絶縁体や超伝導体、原子層物質など多岐に渡ります。
◆主な業種
・自動車・機器
・鉄道
・一般機械・機器、産業機械(工作機械・建設機械等)等
・電気機械・機器(重電系は除く)
・コンピュータ・情報通信機器
・半導体・電子部品・デバイス
・精密機械・機器(医療機器・光学機器を除く)
・鉄鋼
・ソフトウエア・情報システム開発
・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
・基礎・応用研究・先行開発
・設計・開発
・製造・施工
・システムエンジニア
・大学等研究機関所属の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
博士過程の時の研究を生かして、その研究をさらに発展させ、大学や企業の研究所で研究をしている卒業生が大勢います。研究室で培った超高真空技術や装置開発技術などを生かした、技術系の会社で活躍している卒業生もいます。
東北大学理学部物理学科では、一般の人、とりわけ高校生に、物理の面白さを知ってもらうために、日本物理学会主催のもと、他の学科や研究所と連携して、高校生向けの「出前授業」を行っています。
分野は、素粒子、物質、光、生物など多岐に渡り、多くの先生が講師として登録しています。出前授業は、実験デモなども交えて物理現象を分かりやすく講義するもので、高校生の皆さんに物理に興味を持ってもらう、良いきっかけになると思います。
参考URL:http://www.phys.tohoku.ac.jp/jps/demae/index.html
1) 量子力学の考え方や超伝導の仕組みについて
2) 液体窒素を用いた高温超伝導体の磁気浮上実験
3) 高温超伝導体を自分で作ってみよう
もっとも美しい対称性
イアン・スチュアート:著 水谷淳:訳(日経BP)
本書は、物理学の基本である「対称性 (Symmetry)」という概念とその“美しさ”を追い求めた数々の数学者(ガウス、ガロア他)や物理学者(アインシュタイン、ディラック他)の物語を、古代バビロニア時代から現代までたどって紹介したもの。
最先端の物性物理学の研究テーマには、物質の様々な対称性(時間反転対称性、鏡映対称性など)をもとにしたものも多い。なお、特に数学好き、物理好きの人は、本書で紹介されている古代ペルシャの詩人・数学者のオマル・ハイヤームが、円錐の対称性から導き出した「3次方程式の作図解法」に感銘を受けることだろう。
量子論で宇宙がわかる
マーカス・チャウン:著 林一:訳(集英社新書)
タイムマシンは可能なのだろうか。この本は現代物理学の2本の柱、量子論と相対性理論を使って解き明かしてくれる。量子論とは、量子力学という20世紀初頭にできた新しい物理学で、極小の世界を解明する。一方、相対性理論はアインシュタインの生み出した理論で、宇宙のような極大の世界を解明する。
2つの学問を用いることで、私たちの周りで起きる奇妙な出来事を例に、分かりやすく面白く解説している。例えばタイムトラベル以外にも、ものの瞬間移動が可能なこと、あるいは、今のコンピュータよりはるかに優れた量子コンピュータの可能性について述べる。
トコトンやさしい超伝導の本
下山淳一(日刊工業新聞社)
物質はそれぞれ電気の流れにくさが異なり、これを電気抵抗というが、超伝導とは、電気抵抗がゼロの状態のこと。では、超伝導になるのはどんな物質で、どんな状態の時に超伝導になるのか。そして、超伝導の物質はどのようなものに利用できるのか。
そんな超伝導の基礎と応用を、図解付きで説明した本。これ1冊読むだけで、超伝導という特別な現象がどういうものかがよく分かる。
ヘウレーカ!ひらめきの瞬間 誰も知らなかった科学者の逸話集
ウオルター・グラットザー:著 安藤喬志、井山弘幸:訳
レントゲン、マリー・キュリー、ニュートン、フンボルト、ノイマンなどなど、多くの有名な科学者の逸話を、何と181も集めた読み物。偉大な発見をした科学者も、時には失敗や勘違いをし、人間臭い行動をしていたことなどが書かれているので、教科書に出てくる人物や発見が身近に感じられて、理科科目が俄然面白くなるだろう。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
ドイツ。研究環境がしっかりしているし、ビールが美味しいから。
Q2.研究以外で楽しいことは?
料理。食材の選定、調味料の調合・味付けは、研究(物質開発)に通じるものがある。